外国人問題連載⑤:差別・偏見・ヘイトの問題

時事

はじめに

前回は差別・偏見・ヘイトの問題について取り上げましたが、外国人問題の根底にあるのが政治参加と権利の問題です。日本に長期間居住し、税金を納め、地域社会の一員として生活している外国人であっても、政治的な意思決定プロセスから排除されています。この「代表なき課税」の状態は、民主主義の基本原則に反するという指摘もあります。

2024年末時点で約377万人の外国人が日本に在留していますが、そのうち永住者は約88万人、特別永住者は約27万人にのぼります。彼らの多くは日本で生まれ育ち、日本語を母語とし、日本社会に深く根ざして生活していますが、選挙権や被選挙権は認められていません。地方自治体レベルでも、一部の自治体が住民投票条例で外国人に投票資格を認めているに過ぎません。

本記事では、外国人の政治参加と権利の現状をデータとともに検証し、諸外国との比較を通じて、より民主的で包摂的な社会を実現するための方策を提案します。

データ・統計から見る現状

選挙権・被選挙権の完全な欠如

日本では外国籍の住民には国政選挙はもちろん、地方選挙においても選挙権・被選挙権が認められていません。これは憲法第15条が「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定していることに基づいています。

1995年の最高裁判決では、永住外国人への地方選挙権付与について「憲法上禁止されているものではなく、法律によって付与することは可能」との判断が示されましたが、その後30年近く経過した現在も、地方選挙権すら付与されていません。

約88万人の永住者と約27万人の特別永住者、合わせて115万人以上の長期定住外国人が、自分たちの生活に直接影響する政策決定に参加できない状況が続いています。

限定的な住民投票権

一部の自治体では、住民投票条例において外国人住民に投票資格を認めています。2024年時点で、全国約1,700の自治体のうち、約450の自治体が外国人に住民投票権を付与していますが、これは全体の約26%にとどまります。

住民投票も、あくまで諮問的な性格を持つにすぎず、法的拘束力はありません。また、実施される機会も限られており、外国人住民の政治参加の実質的な保障とは言えません。

公務員への就任制限

外国人は「公権力の行使」や「公の意思形成への参画」に携わる公務員になることができないとされています。この解釈により、教員、消防士、警察官など、幅広い職種で外国人の就任が制限されています。

一部の自治体では教員採用で国籍条項を撤廃していますが、管理職への昇進は制限されているケースが多く見られます。能力があっても国籍を理由にキャリアの天井に直面する外国人が少なくありません。

審議会・委員会への参画の遅れ

地方自治体の審議会や委員会に外国人住民を委員として登用する動きは一部で見られますが、全国的には進んでいません。外国人住民の意見を政策に反映させる仕組みが不十分なため、彼らのニーズが政策に反映されにくい状況があります。

外国人住民会議や多文化共生推進協議会を設置している自治体もありますが、その提言が実際の政策に反映される保証はなく、形式的な諮問機関にとどまっているケースも少なくありません。

社会保障における制約

外国人は一定の条件を満たせば社会保障制度にアクセスできますが、制度の複雑さや情報不足により、十分に活用されていない実態があります。特に年金制度については、短期滞在者が保険料を納めても、受給資格を満たさずに帰国するケースが多く、不公平感が指摘されています。

生活保護については、1954年の厚生省通知により外国人にも準用されていますが、法的権利としては認められておらず、行政措置による「恩恵」という位置づけです。このため、自治体によって運用に差があり、必要な支援が受けられないケースも報告されています。

諸外国の状況と比較

欧州諸国:段階的な参政権付与

多くのヨーロッパ諸国では、EU市民に対して地方選挙権が相互に認められています。さらに、一部の国ではEU市民以外の長期定住外国人にも地方選挙権を付与しています。

スウェーデン

1975年から3年以上居住する外国人に地方選挙権と被選挙権を付与しています。これは世界で最も早い時期に外国人参政権を認めた例の一つです。外国人の政治参加は民主主義の基本原則であるという認識に基づいています。

オランダ

1985年から5年以上合法的に居住する外国人に地方選挙権を付与しています。地域社会の構成員として生活する人々は、その地域の政治に参加する権利を持つべきだという考え方が背景にあります。

アイルランド

すべての合法的居住者に地方選挙権を付与しており、居住期間の要件もありません。最も包摂的な参政権制度の一つとして知られています。

ドイツ

基本法(憲法)の規定により、EU市民以外の外国人には選挙権が認められていませんが、外国人諮問委員会を設置し、外国人住民の意見を政策に反映させる仕組みを整えています。

ニュージーランド:永住権取得で選挙権付与

ニュージーランドでは1975年から、永住権を取得した外国人に国政選挙と地方選挙の両方で選挙権が付与されています。1年以上継続して居住している永住権保持者が対象で、被選挙権も認められています。

この制度は、永住者を「この国の未来を共に築くパートナー」として位置づける考え方に基づいています。国籍取得を強制せず、多様な背景を持つ人々が参政権を行使できる開かれた民主主義を実現しています。

カナダ:市民権取得の促進と多様性の尊重

カナダでは選挙権は市民権(国籍)保持者に限られていますが、一定期間居住すれば市民権取得が比較的容易です。市民権を取得すれば、出身国に関わらず完全な政治的権利が保障されます。

また、多文化主義政策の一環として、移民コミュニティの声を政策に反映させる仕組みが整備されています。政府は移民統合政策の策定において、移民コミュニティとの広範な協議を行っています。

韓国:相互主義に基づく地方選挙権

韓国では2005年から、3年以上継続して居住する19歳以上の永住外国人に地方選挙権を付与しています。ただし、相互主義を採用しており、韓国が選挙権を付与する国の国民に限定されています。

この制度導入の背景には、在日韓国・朝鮮人の地方参政権を求める声と、韓国内に居住する外国人の増加がありました。2024年時点で約8万人の外国人が地方選挙権を持っています。

日本との決定的な違い

参政権に対する基本的な考え方

多くの民主主義国では、「一定期間その地域に居住し、税金を納め、地域社会の一員として生活している者は、その地域の政治に参加する権利を持つ」という原則が広く受け入れられています。日本では「参政権は国民固有の権利」という解釈が支配的で、外国人の政治参加を原則的に排除しています。

地方参政権の位置づけ

ヨーロッパ諸国では、地方自治は住民自治の原則に基づくものであり、国籍に関わらず住民が参加すべきだという考え方が一般的です。日本では地方選挙権も国政選挙権と同様に「国民固有の権利」と解釈され、外国人に認められていません。

市民権取得の難易度

ニュージーランドやカナダでは、一定期間居住すれば比較的容易に市民権を取得でき、完全な政治的権利を得ることができます。日本では帰化の要件が厳格で、特に「日本に生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」などの条件があり、経済的に困難な状況にある外国人には高いハードルとなっています。

今後予想される懸念

民主主義の正統性の問題

外国人住民の増加により、地域によっては人口の10%以上を外国人が占めるようになっています。彼らが政治参加から排除され続ければ、地方自治の正統性が問われることになります。

「代表なき課税」は民主主義の基本原則に反するという批判は、今後さらに強まると予想されます。税金を納め、地域社会に貢献している外国人住民が、自分たちの生活に直接影響する政策決定に参加できない状況は、民主主義の欠陥として国際的にも批判される可能性があります。

社会統合の阻害

政治参加から排除されることで、外国人住民は社会の「部外者」として扱われていると感じ、社会統合への意欲が低下します。地域社会への帰属意識や参加意識が育たず、日本人住民との間に溝が生まれる恐れがあります。

特に、日本で生まれ育った「外国籍」の若者たちは、言語も文化も日本人と変わらないにもかかわらず、政治参加から排除されることで、疎外感やアイデンティティの混乱を抱えます。

政策の偏り

外国人住民の声が政策に反映されないことで、彼らのニーズに応えない政策が継続される恐れがあります。教育、医療、住宅、雇用など、外国人住民が直面する課題が見過ごされ、問題が深刻化するリスクがあります。

また、外国人政策が外国人抜きで決定されることで、当事者の実態とかけ離れた制度設計がなされる可能性もあります。

国際的な評判の悪化

先進民主主義国の中で、長期定住外国人に地方参政権すら認めていない国は極めて少数です。日本の姿勢は国際的に批判され、「閉鎖的な社会」というイメージが定着する恐れがあります。

国連の人権関連委員会からも、外国人の政治参加の保障について勧告が出されていますが、日本政府は対応していません。こうした状況は、日本の人権外交全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

解決への提案

短期的施策:外国人住民の声を政策に反映

すべての自治体で、外国人住民会議や多文化共生推進協議会を設置し、外国人住民の意見を定期的に聴取する仕組みを構築すべきです。これらの機関の提言を政策に反映させる仕組みを制度化し、形式的な諮問機関にとどまらないようにする必要があります。

自治体の審議会や委員会に、外国人住民を積極的に委員として登用すべきです。当事者の視点を政策形成プロセスに組み込むことで、より実効性のある施策を立案できます。

住民投票条例において外国人に投票資格を認める自治体を増やすべきです。現在26%にとどまっている割合を、少なくとも過半数の自治体まで拡大することを目標にすべきです。

中期的施策:地方参政権の付与

永住者および特別永住者に対して、地方選挙権を付与すべきです。1995年の最高裁判決が示したように、憲法上禁止されているものではなく、立法によって実現可能です。

地方自治は住民自治の原則に基づくものであり、国籍に関わらず、その地域に定住し、税金を納め、地域社会の一員として生活している者は、地域の政治に参加する権利を持つべきです。

まずは一定期間(例えば3年または5年)以上継続して居住する永住者に選挙権を付与し、段階的に被選挙権も認めることを検討すべきです。スウェーデンやオランダの例を参考に、居住期間の要件を設定することで、地域社会への定着を前提とした参政権付与が可能です。

公務員への就任制限についても見直しが必要です。「公権力の行使」や「公の意思形成への参画」の範囲を限定的に解釈し、より多くの職種で外国人の就任を認めるべきです。特に教員については、管理職への昇進制限を撤廃し、能力に基づく平等な機会を保障すべきです。

長期的施策:包摂的な民主主義の実現

国籍取得(帰化)の要件を緩和し、より多くの長期定住外国人が日本国籍を取得できるようにすべきです。現在の帰化制度は要件が厳格で、特に経済的な条件が障壁となっています。カナダやニュージーランドのように、一定期間の居住と基本的な言語能力があれば市民権を取得できる制度を検討すべきです。

重国籍を認めることも重要な選択肢です。現在の日本の法律では原則として重国籍が認められていませんが、多くの先進国では重国籍が容認されています。出身国の国籍を維持したまま日本国籍を取得できれば、帰化のハードルが大きく下がります。

外国人の政治参加を促進するためには、社会全体の意識改革が必要です。学校教育において、民主主義の原則や多様性の尊重について学ぶ機会を増やし、外国人住民も社会の構成員であるという認識を育むべきです。

メディアも、外国人住民の声を積極的に取り上げ、彼らが直面する課題や貢献を広く伝えることで、社会の理解を深める役割を果たすべきです。

国民的な議論を喚起し、外国人の政治参加について幅広く議論する場を設けることが重要です。反対意見や懸念に対しても真摯に向き合い、対話を通じて合意形成を図る努力が必要です。

まとめ

政治参加と権利の問題は、外国人問題の根幹に関わる課題です。約377万人の外国人が日本に在留し、そのうち115万人以上が永住者・特別永住者として長期定住していますが、彼らには選挙権も被選挙権も認められていません。「代表なき課税」の状態は、民主主義の基本原則に反するという指摘があります。

スウェーデン、オランダ、ニュージーランド、韓国など、多くの民主主義国では、長期定住外国人に地方参政権を付与しています。これらの国では、「一定期間その地域に居住し、税金を納め、地域社会の一員として生活している者は、その地域の政治に参加する権利を持つ」という原則が広く受け入れられています。

日本でも、外国人住民会議の設置、審議会への参画促進、住民投票権の拡大といった短期的施策から始め、中期的には永住者への地方選挙権付与、長期的には帰化要件の緩和や重国籍の容認など、段階的に政治参加の道を開いていくべきです。

外国人住民を政治参加から排除し続けることは、民主主義の正統性を損ない、社会統合を阻害し、国際的な評判を悪化させます。一方、外国人住民の政治参加を認めることは、より包摂的で民主的な社会を実現し、多様性を力に変えることにつながります。

人口減少が進む日本において、外国人住民は社会を支える不可欠な存在です。彼らを「部外者」としてではなく、「社会を共に築くパートナー」として位置づけ、政治参加の道を開くことが、持続可能で開かれた民主主義社会を実現するための鍵となります。

この連載を通じて、外国人問題の多面的な課題を見てきました。労働・雇用、社会統合、教育、法制度、差別・偏見、そして政治参加という6つの側面は、すべて相互に関連しています。これらの課題に包括的に取り組むことで、真の多文化共生社会を実現できるはずです。


参考資料

  • 総務省「地方公共団体における多文化共生の推進に関する研究会報告書」
  • 法務省「在留外国人統計」
  • 最高裁判所判例(平成7年2月28日判決)
  • 自治体国際化協会「諸外国における外国人の参政権」
  • スウェーデン選挙管理委員会「Annual Report」
  • ニュージーランド選挙委員会「Electoral Act 1993」
タイトルとURLをコピーしました