自民党総裁選2025:防災政策と危機管理戦略と日本の災害対策の未来

時事

はじめに

2025年9月に実施された自民党総裁選は、石破茂首相の退陣を受けて行われる重要な選挙である。日本が「世界有数の災害発生国」として直面する課題の中で、防災・減災政策は国家の根幹を成す重要な政策領域となっている。能登半島地震の教訓、激甚化する風水害、そして将来予想される南海トラフ巨大地震や首都直下地震への備えが急務となる中、5名の総裁選候補者がどのような防災政策を掲げているかを詳細に分析する。

現在の石破政権下では、2026年度中の防災庁設置が決定されており、防災政策の抜本的強化が進められている。次期総裁には、この方針を継承・発展させる責任があり、候補者の防災に対する姿勢と政策が日本の災害対策の未来を左右することになる。

石破政権の防災政策レガシー

石破政権は「人命最優先の防災立国」の構築を掲げ、画期的な防災政策改革を推進してきた。2024年11月に防災庁設置準備室を立ち上げ、2026年度中の防災庁設置を目指すという方針は、日本の災害対策における歴史的転換点となっている。

石破首相は防災庁設置の意義について、「防災業務の企画立案機能を抜本的に強化し、平時から不断に万全の備えを行う『本気の事前防災』のための組織が必要」と述べ、従来の応急対応中心から予防重視への政策転換を明確にした。また、現在110名の内閣府防災担当の人員を220名に倍増し、官民人事交流による専門人材の確保も進められている。

この石破政権の防災政策は、各総裁選候補者にとって重要な継承すべき政策資産となっており、候補者それぞれがこの方針をどう発展させるかが注目される。

各候補者の防災政策比較分析

高市早苗氏:国家安全保障としての防災政策

高市早苗前経済安全保障担当相は、防災を国家安全保障の一環として位置づける包括的なアプローチを提唱している。彼女の防災政策の特徴は、単なる災害対応を超えて、国家の総合的な危機管理能力の強化を目指している点にある。

政策の核心:

  • 危機管理投資の大幅拡充:「危機管理投資」として防災対策を明確に位置づけ、国費による生産協力企業への支援、研究開発拠点・生産拠点の国内回帰促進を通じた災害時のサプライチェーン強靭化
  • 包括的な防災力強化:防衛力、外交力、経済力、情報力、技術力、人材力の6つの力を総合的に強化し、災害対応における国家の総合力向上を志向
  • 先端技術の活用:量子コンピュータ、AI、半導体技術など最先端技術を防災分野に積極活用する方針

高市氏の防災政策は、「国民の生命と財産、領土・領海・領空・資源、国家の主権と名誉を守り抜くこと」を国の究極の使命として掲げ、防災を国家安全保障の重要な構成要素として位置づけている。この視点は、自然災害が国家安全保障に与える影響を重視する現代的なアプローチとして注目される。

小泉進次郎氏:気候変動対応と持続可能な防災

小泉進次郎農林水産相は、気候変動対応と連動した持続可能な防災政策を提唱している。環境大臣としての経験を活かし、防災と環境政策の統合的なアプローチを特徴としている。

政策の特徴:

  • グリーン防災の推進:再生可能エネルギーを活用した災害時の電力確保、環境に配慮した防災インフラの整備
  • 気候変動適応策としての防災:激甚化する自然災害に対応するため、気候変動の長期的影響を考慮した防災計画の策定
  • 地域レジリエンスの強化:地方における防災力向上と地域経済の持続可能性を両立させる政策設計

小泉氏は「化石燃料依存型ではこれからの産業はもたない」との認識の下、防災分野においても再生可能エネルギーの活用を重視し、災害時の電力確保と環境負荷軽減の両立を目指している。この方針は、国際的な気候変動対策の潮流と防災政策の融合を図る先進的なアプローチといえる。

小林鷹之氏:技術革新による防災DXの推進

小林鷹之元経済安全保障担当相は、**最先端技術を活用した防災DX(デジタルトランスフォーメーション)**を政策の中核に据えている。

技術重視の防災政策:

  • AI・宇宙技術の活用:人工衛星やAI技術を活用した災害予測・早期警戒システムの高度化
  • デジタル防災プラットフォーム:官民連携による防災情報共有システムの構築とリアルタイム災害対応の実現
  • 地方の防災力強化:道の駅「やちよ」の防災拠点化など、地域特性を活かした防災インフラの整備

小林氏の政策は、「資源に乏しい日本は技術が成長の源泉。技術を起点に経済・防衛・外交の循環を加速させる」という理念の下、防災分野における技術革新を重視している。この技術重視のアプローチは、日本の技術的優位性を防災力向上に活用する戦略として評価される。

林芳正氏:政府一体型の防災体制構築

林芳正官房長官は、現政権の中枢として石破政権の防災政策を推進してきた立場から、政府一体となった防災体制の更なる強化を主張している。

継続性重視の防災政策:

  • 防災庁設置の着実な実行:石破政権が決定した防災庁設置を確実に実現し、司令塔機能の強化を推進
  • 省庁横断的な防災体制:各省庁の防災関連機能を統合し、政府全体の防災対応能力を向上
  • 国際協力の強化:災害対応における国際協力の推進と、日本の防災技術の海外展開

林氏は官房長官として石破政権の防災政策立案に直接関与してきた経験を持ち、政策の継続性と実現可能性を重視するアプローチを取っている。

茂木敏充氏:実用性重視の防災政策

茂木敏充前幹事長は、実用性と効率性を重視した防災政策を提唱している。長年の政治経験を活かし、実現可能で効果的な防災対策の推進を重視している。

実務重視の政策特徴:

  • コスト効率性の追求:限られた財政資源の中で最大の防災効果を実現する政策設計
  • 地方自治体との連携強化:国と地方の役割分担を明確化し、効率的な防災体制の構築
  • 既存インフラの活用:新規投資に加え、既存インフラの効果的活用による防災力向上

茂木氏の防災政策は、財政制約を考慮した現実的なアプローチを特徴とし、持続可能な防災政策の実現を目指している。

重要政策領域の比較分析

防災庁設置への取り組み

石破政権のレガシー継承: 全候補者が石破政権の防災庁設置方針を基本的に支持している。しかし、具体的な組織設計や機能については微妙な違いがある。

  • 高市氏:防災庁を国家安全保障の司令塔として位置づけ、より強力な権限を付与する方向
  • 小泉氏:環境省との連携を強化し、気候変動対応機能を重視
  • 小林氏:デジタル庁との連携によるDX推進機能を強化
  • 林氏:石破政権の方針を着実に実行し、段階的な機能拡充を志向
  • 茂木氏:効率的な組織運営と地方との連携機能を重視

南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策

共通認識と差異: 全候補者が南海トラフ巨大地震と首都直下地震を最重要課題として認識している。政府では、南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定の見直し、最新の知見を踏まえた基本計画の改定を進めている状況下で、各候補者の対応方針には以下の特徴がある:

  • 高市氏:国家機能の継続性確保を最優先とし、政府機能のバックアップ体制強化を重視
  • 小泉氏:復旧・復興過程における環境配慮と持続可能性を重視
  • 小林氏:予測技術の高度化と早期警戒システムの構築に注力
  • 林氏:政府の業務継続計画(BCP)の実効性向上を重視
  • 茂木氏:被災地の迅速な機能回復と経済活動の早期正常化を重視

気候変動対応と防災の統合

アプローチの違い: 激甚化する風水害への対応において、候補者間で明確な政策的差異が見られる。

  • 積極的統合派(小泉氏):気候変動対策と防災政策を一体的に推進し、カーボンニュートラルと災害対策の両立を目指す
  • 技術重視派(小林氏、高市氏):先端技術による予測精度向上と対応能力強化を重視
  • 実用重視派(茂木氏、林氏):既存の防災インフラの改良と運用改善を重視

財政的持続可能性と防災投資

投資戦略の相違

防災投資に対する各候補者のアプローチには明確な違いがある:

積極投資派(高市氏): 「危機管理投資」として防災対策を位置づけ、赤字国債の発行もやむを得ないとの立場を取り、大規模な防災投資を主張。

技術投資重視派(小林氏): AI、量子コンピュータなど最先端技術への投資を通じた効率的な防災力向上を志向。

バランス重視派(林氏、茂木氏、小泉氏): 財政健全性と防災投資のバランスを重視し、段階的な投資拡大を志向。

官民連携の活用

防災庁設置に向けた官民連携の取り組みが進められている中で、各候補者の官民連携に対する姿勢も重要な論点となっている。特に小林氏と高市氏は民間の技術力活用を重視し、茂木氏は効率的な役割分担を重視している。

地方創生と防災の統合

地域防災力の強化戦略

石破政権が推進する「地方創生2.0」との連携において、各候補者の地域防災戦略には特色がある:

地域特性重視(小林氏): 道の駅の防災拠点化など、地域資源を活用した防災インフラ整備を推進。

包括的強化(高市氏): 国家レベルから地域レベルまでの一貫した防災力強化を志向。

持続可能性重視(小泉氏): 地域の環境資源を活用した持続可能な防災システムの構築を重視。

国際的な防災協力と外交政策

防災外交の展開

各候補者の外交政策における防災協力の位置づけも注目される:

戦略的活用(高市氏): 防災技術を外交ツールとして活用し、国際的影響力の拡大を図る。

多国間協力重視(林氏): 既存の国際枠組みを活用した防災協力の推進。

環境外交との連携(小泉氏): 気候変動対策と防災協力を統合した新たな外交アプローチ。

総合評価と今後の展望

各候補者の防災政策の特徴と評価

高市早苗氏: 国家安全保障の視点から防災を位置づける包括的アプローチは、災害が国家機能に与える影響を重視する現代的な防災観として評価される。一方で、大規模な財政投資を前提とする政策の持続可能性が課題となる。

小泉進次郎氏: 気候変動対応と防災の統合は国際的な潮流に合致し、長期的な視点での政策設計として優れている。ただし、短期的な災害対応における具体性がやや不足している。

小林鷹之氏: 技術革新による防災力向上は日本の技術的優位性を活かす戦略として有効。AI・宇宙・半導体への国家投資による「全国エンジン化」の考え方は防災分野でも応用可能性が高い。

林芳正氏: 石破政権の防災政策を継承する安定性と実現可能性を重視するアプローチは、政策の継続性確保において重要。ただし、新たな政策展開における革新性が限定的。

茂木敏充氏: 財政制約を考慮した現実的なアプローチは持続可能な防災政策として評価される。しかし、激甚化する災害に対する積極的な対応力がやや不足している可能性がある。

日本の防災政策の未来への示唆

次期総裁が採用する防災政策は、以下の点で日本の災害対策の未来を左右する:

防災庁の具体的設計: 2026年度中の設置が決定されている防災庁の具体的な組織設計と権限範囲は、日本の防災体制の根幹を決定する。

技術革新の活用程度: AI、IoT、衛星技術などの先端技術をどの程度防災分野に導入するかは、日本の防災力の国際競争力を左右する。

財政投資の規模と方法: 防災投資の規模と財源確保の方法は、防災政策の実効性と持続可能性を決定する。

国際協力の戦略性: 防災技術の海外展開と国際協力の在り方は、日本の外交戦略における防災の位置づけを決定する。

結論

自民党総裁選における5候補者の防災政策は、それぞれ異なる理念と戦略に基づいており、日本の防災政策の方向性に大きな影響を与える可能性がある。石破政権が築いた「防災立国」の基盤を引き継ぎながら、次期総裁がどのような防災政策を展開するかは、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の脅威に直面する日本にとって極めて重要な選択となる。

最も重要なのは、防災政策が単なる災害対応を超えて、国家の総合的なレジリエンス向上と持続可能な社会の構築に貢献する政策体系として位置づけられることである。 各候補者の防災政策は、それぞれに優れた特徴を持っているが、真に求められるのは、技術革新、財政の持続可能性、国際協力、地域の実情を統合的に考慮した総合的な防災戦略の実現である。

次期総裁には、石破政権が築いた防災政策の基盤を発展させ、世界をリードする「防災立国日本」の実現に向けた強力なリーダーシップが期待される。

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