2025年10月21日、高市早苗氏が日本初の女性総理大臣として組閣した新内閣において、小野田紀美氏(42歳)が経済安全保障担当大臣に就任しました。岡山県選出の参議院議員である小野田氏は、米国生まれの国際感覚と防衛政務官としての安全保障経験を活かし、日本の経済安全保障強化の重責を担うことになりました。
経済安全保障担当大臣という重責:経済と安全保障の融合時代の司令塔
経済安全保障担当大臣は、2021年に新設された比較的新しい閣僚ポストです。経済活動と国家安全保障が密接に結びつく現代において、日本の経済的自律性と技術的優位を確保する極めて重要な職責を担っています。
経済安全保障担当大臣の主要な所掌事務
1. 重要物資のサプライチェーン強靱化 半導体、レアアース、医薬品、蓄電池など、国民生活と経済活動に不可欠な重要物資の安定供給確保を図ります。特定重要物資の指定、供給確保計画の認定、備蓄・生産設備投資への支援など、サプライチェーンの脆弱性解消に向けた施策を推進します。友好国との連携による供給網の多元化、国内生産基盤の強化も重要な任務です。
2. 基幹インフラの安全性・信頼性確保 電力、ガス、水道、通信、金融、輸送など14分野の基幹インフラについて、機能の安定的提供を確保します。重要設備の導入・維持管理に関する事前審査、サイバーセキュリティの強化、外国からの不当な影響の排除などを通じて、インフラの安全性を守ります。
3. 先端重要技術の開発支援と流出防止 AI、量子技術、バイオテクノロジー、次世代半導体など、経済安全保障上重要な先端技術の研究開発を支援します。同時に、技術流出防止のための輸出管理、外為法に基づく対内直接投資規制、研究インテグリティの確保など、技術保全措置を強化します。
4. 特許非公開制度の運用 安全保障上機微な発明の特許出願を非公開とし、技術流出を防ぐ制度を運用します。対象技術の指定、保全指定の審査、損失補償など、イノベーション促進と安全保障のバランスを図る必要があります。
5. 国際連携の推進 G7、QUAD、日米欧三極協力など、同志国との経済安全保障協力を推進します。重要鉱物パートナーシップ、半導体協力、サプライチェーン強靱化イニシアティブなど、多国間枠組みでの協調を主導します。
小野田紀美氏の経歴:国際的バックグラウンドから政界へ
米国生まれの国際派
小野田紀美氏は1982年12月7日、米国イリノイ州シカゴで生まれました。日本人の母とアメリカ人の父を持つ日米ハーフとして、幼少期から二つの文化の中で育ちました。1歳の時に母と共に日本に帰国し、岡山県で成長しました。
岡山県立岡山一宮高等学校を卒業後、2005年に岡山県立大学デザイン学部を卒業。大学では視覚デザインを専攻し、情報を効果的に伝える技術を学びました。
民間企業での経験
大学卒業後、地元岡山の広告代理店に就職。マーケティング、広報戦略、デザイン制作などに従事しました。この経験は、後に政治家として複雑な政策を国民に分かりやすく伝える能力の基礎となりました。
2010年から2015年まで、東京の外資系IT企業に勤務。国際的なビジネス環境で、プロジェクトマネジメント、海外顧客対応などを経験しました。この時期に、グローバルなビジネスにおけるデータセキュリティや知的財産保護の重要性を実感しました。
政界への挑戦
2015年、33歳で政界への転身を決意。2016年7月の第24回参議院議員選挙に、岡山県選挙区から自由民主党公認で立候補し、初当選を果たしました。日米ハーフの国会議員として、また若手女性議員として大きな注目を集めました。
2022年の第26回参議院議員選挙で再選を果たし、現在2期目を務めています。
国会での活動実績
委員会活動
- 参議院外交防衛委員会理事(2018年)
- 参議院内閣委員会委員
- 参議院総務委員会委員
- 参議院国際経済・外交調査会委員
外交防衛委員会では、日米安全保障、経済安全保障、サイバーセキュリティなどの議論に積極的に参加。英語力を活かし、在日米軍関係者との意見交換も行ってきました。
政府での役職
- 総務大臣政務官(2017年・第3次安倍第3次改造内閣)
- 防衛大臣政務官(2020年・菅内閣)
防衛大臣政務官時代は、防衛装備・技術協力、サイバー防衛、宇宙・電磁波領域での能力強化などを担当。防衛産業基盤の強化、先端技術の保全など、経済安全保障に直結する課題に取り組みました。
党内での役職
- 自由民主党青年局次長(2018年)
- 自由民主党女性局次長(2019年)
- 自由民主党国防部会副部会長(2021年)
経済安全保障への取り組み
小野田氏は、早くから経済安全保障の重要性を訴えてきました。
重要技術の保護 外資による日本企業買収への規制強化、大学・研究機関での技術流出防止、留学生・研究者の身元確認強化などを提言。「技術は国家の生命線」として、技術保全の重要性を訴えてきました。
サプライチェーン強靱化 コロナ禍でのマスク・医療物資不足、半導体不足などを踏まえ、重要物資の国内生産回帰、友好国との連携強化を主張。「経済的相互依存の武器化」への対抗策を提言してきました。
国際連携の推進 日米同盟を基軸としながら、欧州、豪州、インドなど価値観を共有する国々との経済安全保障協力を推進。「自由で開かれた経済秩序」の維持を訴えてきました。
経済安全保障担当大臣としての資質:なぜ小野田氏なのか
1. 国際感覚とバイリンガル能力
米国生まれで日米両文化を理解し、ネイティブレベルの英語力を持つ小野田氏は、国際交渉において大きな強みを持っています。経済安全保障は国際協調が不可欠な分野であり、同盟国・パートナー国との直接対話能力は重要な資質です。
2. 安全保障の実務経験
防衛大臣政務官として、防衛装備・技術協力、サイバー防衛などに携わった経験は、経済と安全保障の交差点を理解する上で貴重です。軍事技術の民生転用、デュアルユース技術管理など、複雑な課題への対応能力が期待されます。
3. 若さと発信力
42歳という若さは、新しい脅威への柔軟な対応、デジタル技術への理解、長期的視点での政策立案において強みとなります。SNSを活用した情報発信により、経済安全保障の重要性を国民に分かりやすく伝える能力も重要です。
4. ビジネス経験
民間企業での実務経験、特に外資系IT企業での勤務経験は、企業の視点から経済安全保障を理解する上で重要です。規制と産業振興のバランス、企業負担への配慮など、実務的な政策設計が可能です。
今後の課題と期待される役割
1. 経済安全保障推進法の本格運用
2022年に成立した経済安全保障推進法の4つの柱(サプライチェーン強靱化、基幹インフラ防護、官民技術協力、特許非公開)の本格運用が求められます。制度の実効性確保、企業負担の軽減、国際競争力との両立など、きめ細かな制度設計が必要です。
2. 半導体産業の強化
次世代半導体の国内生産確立、日米半導体協力の深化、人材育成など、半導体産業エコシステムの構築が急務です。TSMCの熊本工場、Rapidusの北海道工場への支援など、巨額投資の効果的運用が求められます。
3. 重要鉱物の確保
リチウム、コバルト、レアアースなど、脱炭素・デジタル化に不可欠な重要鉱物の安定確保が課題です。資源外交の強化、リサイクル技術開発、代替材料研究など、多面的アプローチが必要です。
4. 経済的威圧への対抗
経済的依存関係を利用した威圧や制裁に対する抵抗力強化が必要です。「経済版NATO」とも呼ばれる集団的経済安全保障の枠組み構築、報復措置の制度化など、抑止力強化が求められます。
5. 先端技術の育成と保護
AI、量子、バイオ、宇宙など、次世代の競争力を左右する先端技術の開発促進と流出防止の両立が必要です。研究開発投資の拡大、国際共同研究の推進、セキュリティクリアランス制度の導入など、総合的な取り組みが求められます。
6. 国民理解の促進
経済安全保障は国民生活に直結する重要課題でありながら、その概念は分かりにくい面があります。具体例を用いた分かりやすい説明、企業・大学への啓発活動など、国民的理解の促進が必要です。
高市内閣における位置づけと展望
高市総理が小野田紀美氏を経済安全保障担当大臣に起用したことには、戦略的な意図があります。
第一に、若手女性議員の登用により、政権の清新さと多様性を示しています。
第二に、国際感覚豊かな人材の起用により、同盟国・パートナー国との連携強化を重視する姿勢を表しています。
第三に、安全保障の実務経験者を配することで、経済安全保障を国家安全保障戦略の中核に位置付ける決意を示しています。
結びに:新たな安全保障観で守る日本の未来
小野田紀美経済安全保障担当大臣の就任は、日本の経済安全保障政策に新たな推進力をもたらすものです。米国生まれの国際感覚、防衛政務官としての安全保障経験、そして42歳という若さ。これらすべてが、複雑化する経済安全保障の課題に立ち向かう上での強みとなるでしょう。
経済安全保障は、21世紀の国家間競争の主戦場です。技術覇権をめぐる米中対立、サプライチェーンの地政学化、経済的相互依存の武器化など、新たな脅威が次々と現れています。
小野田大臣には、その国際感覚と実務能力を活かし、日本の経済的自律性と不可欠性を高める政策を推進することが期待されています。特に、同志国との連携強化、先端技術の育成と保護、サプライチェーンの強靱化など、日本の経済安全保障の土台を固める取り組みが求められます。
高市内閣の「決断と前進」のスローガンの下、小野田経済安全保障担当大臣がどのような成果を上げるのか。42歳の若き大臣の手腕に、日本の経済主権と技術優位の未来がかかっています。

