序章:「龍馬」を名乗る男の正体
「日本を変えるのは、坂本龍馬のような志を持った者でなければならない」──そう語る男が今、日本の政治界で大きな波紋を呼んでいます。参政党代表・神谷宗幣、47歳。福井県の高校教師から身を起こし、わずか20年足らずで国政政党のトップに上り詰めた異色の経歴を持つ政治家です。
2022年参院選で約177万票を獲得し一躍注目を集めた参政党。その中心人物である神谷宗幣とは一体何者なのか?なぜ多くの人が彼に惹かれるのか、そして批判者が警戒するのか?今回は、この謎多き政治家の全貌に迫ります。
第1章:福井の青年が見つけた「使命」
普通の青年から政治家への転身
1977年10月12日、福井県高浜町生まれの神谷宗幣。若狭高校から関西大学文学部に進学し、在学中に1年間海外をまわり、「自分を含めた今の若者は、これでいいのか」と疑問を抱くようになったといいます。
大学卒業後、いったんは高校教師の道を選びましたが、教育改革のため政治を志したとして教職を離れ、関西大学法科大学院に進学。2007年3月に法務博士号を取得した後、同年4月に大阪府吹田市議会議員選挙に立候補し初当選を果たします。
「龍馬プロジェクト」という壮大な構想
市議として2期6年を務める中で、神谷氏が手がけた最も注目すべき活動が「龍馬プロジェクト」です。2010年に「龍馬プロジェクト全国会」を発足し、以来会長を務めているこの組織は、党や派閥の垣根を超えて同じ志を持つ20代から40代の地方議員が中心となって誕生しました。
現在では全国で200名もの若手政治家たちが所属し、日本最年少市長も県知事も輩出するまでに成長。まさに地方政治界の一大勢力となっています。
第2章:国政への挑戦と挫折、そして再起
自民党からの出馬と敗北
2012年の衆院選に自民党から出馬したものの、落選を経験。しかし、この挫折が後の参政党結成への布石となります。
2013年、イシキカイカク株式会社を設立し、政治や歴史、経済をテーマに各地で講演活動やインターネット番組配信に取り組むようになります。この時期に培った発信力と人脈が、後の政党運営に大きく活かされることになります。
参政党結成の決断
2020年4月、参政党を結党。党名の「参政」には「政治に参加する」という意味が込められており、英語表記は「Party of Do It Yourself」──まさに「DIY政治」を標榜しています。
そして2022年7月の第26回参議院議員通常選挙で得票率2%を上回って1議席を獲得し、神谷が当選。法制度上の政党要件を満たす国政政党となったのです。
第3章:参政党の独特な政策世界
「オーガニック給食」という旗印
参政党の政策で最も注目されるのが「食の安全」への取り組みです。「日本の食と子供を守る給食プロジェクト」を展開し、全国133名の参政党議員が学校給食の質の向上に取り組んでいます。
神谷代表も「給食を無償化したら質が落ちる」と述べ、「オーガニック給食」の重要性をうたってきた一方で、「給食の有機食材使用義務化を加速」を公約に掲げているものの、実現可能性については専門家から疑問視する声も上がっています。
教育政策の核心
参政党の教育政策の核心は、「学力(テストの点数)より学習力(自ら考え自ら学ぶ力)の高い日本人の育成」です。具体的には教育バウチャー制の導入やフリースクールの整備など、制度面での改革を掲げる一方で、歴史教育の変更など、内容面においても改革を目指しているとしています。
移民問題への厳格なスタンス
「移民受け入れより、国民の就労と所得上昇を促進」という方針を掲げ、外国人労働者の受け入れに対しては慎重な姿勢を示しています。この点は「違法外国人問題」の公約として他党との差別化を図っている側面もあります。
第4章:人物像とユニークなエピソード
「イケメン政治家」としての魅力
2014年のインタビューでは「第一印象からして爽やかで、はっきり言って”イケメン”だった。さらに驚いたのはその弁舌の明快さと、思想の芯の強さだ」と評されています。政治家としては珍しく、外見的な魅力も支持拡大の一因となっているようです。
予備自衛官という異色の経歴
予備自衛官という肩書きも持つ神谷氏。政治家でありながら、有事の際には自衛官として活動する可能性がある珍しい立場です。これは彼の国防に対する真剣な姿勢を象徴するエピソードといえるでしょう。
講演家・YouTuberとしての顔
政治家である前に、優れた講演家・情報発信者でもあります。政治や歴史、経済をテーマに各地で講演活動やインターネット番組配信を行い、幅広い層にメッセージを届けています。
第5章:参政党の躍進と論争
2025年参院選での大躍進
2024年の衆院選では比例で3議席を獲得し、2025年の参院選では選挙区と比例区合わせて14議席を獲得。地方議員は150人以上おり、全国に支部を展開しているという急速な拡大を見せています。
「極右」「ポピュリズム」という評価
一方で、極右・右派ポピュリズム政党として位置付けられることが多いのも事実です。「天皇を中心に一つにまとまる平和な国」の形成などを主張する綱領や憲法草案は、既存の政治勢力とは一線を画すものとなっています。
有機農業団体からの批判
興味深いことに、参政党が推進する「オーガニック」政策に対して、有機農業や食の自給と安全を掲げる農民・市民グループから異議申し立ての声明、意思表示が相次いで出されたという現象も起きています。「外見はオーガニック 中身は排外主義」という批判もあります。
第6章:神谷宗幣が描く日本の未来
「DIY政治」の実現
参政党の英語名「Party of Do It Yourself」が示すように、神谷氏は既存の政治システムに依存しない「自分たちでやる政治」を提唱しています。これは龍馬プロジェクト時代から一貫した彼の思想です。
国家観と天皇制
「日本の国益を守り、世界に大調和を生む」という理念を掲げており、綱領や憲法草案では「天皇を中心に一つにまとまる平和な国」の形成などを主張しています。これは現代日本では珍しい明確な君主制支持の立場といえるでしょう。
経済政策への取り組み
現在の日本における国民負担率は約45.8%と高く、税金と社会保険料を差し引いた後の手取りはおよそ半分程度になってしまうことを問題視し、国民負担軽減に向けた政策を推進しています。
第7章:支持と批判の交錯点
なぜ人々は神谷宗幣に惹かれるのか
神谷氏への支持が広がる理由として、以下が挙げられます:
- 明確なメッセージ性:既存政治への不満を抱く層に対して、分かりやすい対立軸を提示
- 実行力のアピール:龍馬プロジェクトでの実績により、「口だけでない政治家」というイメージ
- 情報発信力:YouTubeや講演会を通じた直接的なコミュニケーション
- 「普通の人」からの出発:世襲ではない、元教師という親しみやすい経歴
批判される理由
一方で、以下のような批判も根強く存在します:
- 極端な思想への懸念:排外主義的な政策への警戒
- 実現可能性への疑問:オーガニック給食義務化などの政策の現実性
- ポピュリズムへの批判:大衆迎合的な手法への疑念
- 既存制度への過度な否定:建設的でない批判姿勢
終章:神谷宗幣という現象の意味
神谷宗幣という政治家は、現代日本の複雑な政治状況を映す鏡のような存在です。既存の政治に不満を持つ人々の受け皿として機能する一方で、その急進的な思想や政策には賛否両論があります。
彼の政治手法は確実に一定の支持を集めていますが、それが日本の政治全体にとってプラスなのかマイナスなのかは、まだ判断が分かれるところでしょう。
福井県の小さな町で生まれた一人の青年が、教師を経て政治家となり、ついには国政政党の代表として日本の政治に影響を与えるまでになった──この物語は、現代日本の政治的可能性と危険性の両方を示しているといえるかもしれません。
神谷宗幣と参政党の今後の動向は、日本の政治の多様性と民主主義の健全性を測る重要なバロメーターとなりそうです。彼らが提起する問題意識に向き合いつつ、冷静な判断を下すことが、私たち有権者に求められているのかもしれません。
※本記事は2025年9月時点の情報に基づいて作成されています。