2025年10月、日本の政治は大きな転換点を迎えている。26年間にわたって続いた自民・公明両党の連立政権が解消を決定し、次の首班指名選挙をめぐる駆け引きが激しさを増している。この記事では、首班指名とは何か、これまでの歴史、そして今回の首班指名選挙がどうなりそうかについて解説する。
首班指名とは何か
首班指名選挙とは、日本の内閣総理大臣を選出する選挙のことである。日本国憲法第67条に基づき、国会議員の中から国会の議決によって総理大臣を指名する制度だ。国民が直接投票するのではなく、選挙で選ばれた国会議員が投票を行う間接選挙の形式をとっている。
首班指名選挙は衆参両院それぞれで独立して行われ、記名投票によって実施される。投票総数の過半数を得た議員が内閣総理大臣に指名される仕組みだ。もし1回目の投票で過半数を獲得した候補がいない場合は、上位2名による決選投票が行われ、その場合は相対的多数の票を得た候補が選出される。
衆議院と参議院で異なる候補を指名した場合は両院協議会が開かれるが、そこでも意見が一致しない場合、または参議院が10日以内に議決しない場合は、衆議院の優越により衆議院の議決が国会の議決となる。これが日本の議院内閣制の基本的な仕組みである。
これまでの首班指名の歴史
戦後の日本において、衆議院で決選投票が行われたのは数回しかない。特に自民党が立党してからは、過半数を持つ与党の総裁がそのまま首相に指名されるケースがほとんどだったため、決選投票は例外的な事態だった。
記録に残る決選投票としては、1979年の大平正芳氏と福田赳夫氏の対決がある。これは自民党内の派閥抗争「四十日抗争」として知られ、同じ自民党から2名の候補が出た異例の事態だった。この時、野党の多くは決選投票で無効票を投じ、大平氏が指名された。
1994年には村山富市氏が首相に指名された際にも決選投票が行われた。この時は自民党が野党だったが、社会党と連立を組むことで政権に復帰した。
そして最近では2024年11月の首班指名選挙で30年ぶりとなる決選投票が実施された。自民・公明両党が過半数を割り込んだ結果、1回目の投票では誰も過半数を獲得できず、決選投票にもつれ込んだ。最終的には石破茂氏が第103代総理大臣に選出されたが、決選投票での無効票は84票に上り、政治の混迷を象徴する結果となった。
また1993年には、自民党が比較第一党でありながら首班指名で敗れ、細川護熙氏を首班とする非自民連立政権が誕生した。この細川連立政権は約8カ月で崩壊し、その後の政治の不安定化が経済停滞の一因になったとも指摘されている。
今回の首班指名はどうなるか
2025年10月現在、日本の政治は大きな変動の中にある。自民党総裁選で高市早苗氏が女性初の新総裁に選出されたが、26年間続いた自公連立政権が解消を決定したことで、首班指名の行方は予断を許さない状況だ。
現在想定される主なシナリオは3つある。
シナリオ1:高市早苗総裁が首相に指名される
自民党は依然として比較第一党であり、高市総裁を首班として推す構えだ。もし一部の野党が協力するか、あるいは決選投票で野党が分裂すれば、高市氏が首相に指名される可能性が最も高い。
シナリオ2:野党が一本化して野党党首が首相に
立憲民主党、維新の会、国民民主党などが候補を一本化すれば、野党党首が首相になる可能性もある。立憲民主党の安住淳国対委員長は「野田代表にこだわらない」と述べ、野党間での柔軟な調整を示唆している。公明党の西田実仁幹事長も、野党候補一本化が実現した場合の協力を否定していない。
シナリオ3:国民民主党の玉木代表が首相に
第3のシナリオとして、国民民主党の玉木雄一郎代表が首相になる可能性も浮上している。玉木氏自身が「首相になることを真剣に考えている」と発言し、基本政策の一致を他党に求める姿勢を示している。国民民主党は衆議院で重要な位置を占めており、キャスティングボートを握る立場にある。
公明党の動きも注目される。斉藤鉄夫代表は野党党首への投票も排除しない姿勢を示しており、これまでの連立相手である自民党から距離を置く姿勢が鮮明になっている。背景には「政治とカネ」の問題、靖国参拝、外国人政策などをめぐる懸念があるとされている。
政治の安定化に向けて
現在の状況は1993年の細川連立政権誕生時と似た側面がある。あの時も自民党が比較第一党でありながら政権を失い、その後の政治の混迷が続いた。国民民主党の玉木代表が言うように、「全く新しい政治状況に突入した」のは間違いない。
首班指名選挙は10月20日から21日頃に行われる見通しだ。当初15日の予定だったが、自公連立解消という大きな変化により日程がずれ込んでいる。
誰が首相に選ばれるにせよ、日本は困難な安全保障環境と経済課題に直面している。政治の停滞は許されない状況であり、各党には国民生活を守るための責任ある行動が求められている。野党間の政策協議も進んでおり、「期間限定連立政権」といった新しい形の政権運営の可能性も議論されている。
次の首班指名選挙は、日本の政治の方向性を大きく左右する重要な分岐点となるだろう。国会議員一人一人の判断が、これからの日本の未来を決めることになる。

