2025年10月21日、高市早苗氏が日本初の女性総理大臣として組閣した新内閣において、松本尚氏(62歳)がデジタル大臣に就任しました。救急医として医療現場の最前線で活躍してきた松本氏が、日本のデジタル変革を推進する重責を担うという異例の人事が注目を集めています。
デジタル大臣という重責:日本のDX推進の司令塔
デジタル大臣は、2021年に創設されたデジタル庁のトップとして、日本社会全体のデジタル変革を推進する極めて重要な職責です。行政のデジタル化から民間のDX支援まで、デジタル技術を活用した社会変革の司令塔として機能します。
デジタル庁の主要な所掌事務
1. 行政のデジタル化推進 国・地方自治体の情報システムの統一・標準化、行政手続きのオンライン化、ワンストップサービスの実現など、行政サービスのデジタル変革を統括します。マイナンバーカードの普及促進と利活用拡大、デジタル完結の実現、行政の縦割り打破など、国民の利便性向上と行政効率化を同時に進める必要があります。
2. データ戦略の推進 官民のデータ連携基盤構築、オープンデータの推進、データの標準化など、データ駆動型社会の実現を目指します。個人情報保護とデータ利活用のバランスを取りながら、新たな価値創造を促進する環境整備が求められています。
3. デジタル社会の共通基盤整備 マイナンバー制度の運営、政府共通のクラウド基盤構築、認証・決済などの共通機能提供など、デジタル社会の基盤インフラを整備します。サイバーセキュリティの確保、システムの安定運用、災害時の事業継続性確保も重要な任務です。
4. 規制改革とDX推進 デジタル化を阻害する規制の見直し、デジタル原則に基づく規制改革、民間DXの促進支援など、社会全体のデジタル変革を加速させる役割を担います。アナログ規制の一掃、デジタル完結の原則化など、大胆な改革が求められています。
5. デジタル人材の育成 デジタル人材の確保・育成、リスキリング支援、デジタルリテラシー向上など、人材面からデジタル社会を支える基盤づくりを推進します。
松本尚氏の経歴:医療現場から政界への転身
医師としての原点
松本尚氏は1962年12月18日、千葉県に生まれました。地元の高校を卒業後、1988年に日本医科大学医学部を卒業し、医師免許を取得。救急医学を専門とし、生命の最前線で奮闘する道を選びました。
日本医科大学付属病院で研修医として勤務後、救急医療センターで救急医として本格的なキャリアをスタート。交通事故、急病、災害医療など、一刻を争う現場で的確な判断と迅速な処置を行い、多くの命を救ってきました。
災害医療のスペシャリストとして
1995年の阪神・淡路大震災では、医療チームの一員として被災地に入り、過酷な環境下での医療活動を経験。この経験から災害医療の重要性を痛感し、DMAT(災害派遣医療チーム)の創設と発展に尽力しました。
2011年の東日本大震災では、DMATの統括官として被災地での医療活動を指揮。情報システムを活用した医療資源の最適配置、遠隔医療による診療支援など、ICTを活用した災害医療の新たなモデルを構築しました。
医療のデジタル化推進者
松本氏は早くから医療分野でのICT活用の重要性に着目していました。電子カルテの導入推進、遠隔医療システムの開発、医療データの標準化など、医療のデジタル化に積極的に取り組んできました。
特に、救急医療情報システムの構築では、救急車からの患者情報伝送、病院間での情報共有、AIを活用した診断支援など、先進的な取り組みを主導。「命を救うデジタル技術」の可能性を実証してきました。
政界への転身
2009年の第45回衆議院議員総選挙で、千葉12区から民主党公認で立候補し初当選。医療現場の課題を国政に反映させるべく、政治家としての新たな道を歩み始めました。
2012年の政権交代で一度落選するも、2021年の第49回総選挙で日本維新の会から立候補し返り咲き。2024年の第50回総選挙で自由民主党に移籍し、3期目の当選を果たしました。
国会での活動実績
委員会活動
- 衆議院厚生労働委員会理事
- 衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員会委員
- 衆議院デジタル社会推進特別委員会委員
医療政策とデジタル政策の両面で専門性を発揮。医療DXの推進、オンライン診療の規制緩和、医療データの利活用促進など、医療とデジタルの融合領域で重要な提言を行ってきました。
主な政策提言
- 全国医療情報プラットフォームの構築
- PHR(Personal Health Record)の推進
- 医療AIの開発支援と実装促進
- 災害時医療情報システムの標準化
デジタル大臣としての資質:なぜ松本氏なのか
1. 現場主義とユーザー視点
救急医として生死の境で働いてきた松本氏は、現場のニーズを深く理解しています。使いやすさ、確実性、迅速性を重視する医療現場での経験は、国民目線でのデジタルサービス設計に活かされることが期待されます。
2. システム思考と全体最適化
救急医療では、限られた資源を最適配分し、システム全体で最大の効果を生む必要があります。この経験は、縦割りを排した政府情報システムの統合・最適化において重要な視点となります。
3. 危機管理能力
災害医療での指揮経験は、サイバー攻撃や大規模システム障害など、デジタル分野での危機管理に直接活かされます。冷静な判断力と迅速な意思決定能力は、デジタル庁トップとして不可欠な資質です。
4. データ活用の実践知
医療データを活用した診断支援、疫学研究、政策立案などの経験は、政府のデータ戦略推進において貴重な知見となります。個人情報保護と利活用のバランスについても、医療分野での実践を通じて深い理解を持っています。
今後の課題と期待される役割
1. マイナンバーカードの完全普及と利活用拡大
健康保険証との一体化、運転免許証との統合、各種資格証明のデジタル化など、マイナンバーカードを真の「デジタル社会のパスポート」として確立する必要があります。医療分野での活用実績を活かし、国民の不安を払拭しながら普及を進めることが期待されます。
2. 行政手続きの100%デジタル完結
出生から死亡まで、すべての行政手続きをスマートフォンで完結できる社会の実現が求められています。医療現場で培った「待たせない」「迷わせない」サービス設計の思想を、行政サービス全体に展開することが期待されます。
3. 地方自治体のDX支援
システムの標準化・共同化、クラウド移行、デジタル人材の確保支援など、地方自治体のデジタル化を加速する必要があります。医療分野での地域連携の経験を活かし、自治体間の協力体制構築が期待されます。
4. デジタル田園都市国家構想の実現
地方でも都市と同じデジタルサービスを享受できる環境整備が急務です。遠隔医療の経験を活かし、遠隔教育、テレワーク、オンライン行政サービスなど、地方創生につながるデジタル基盤の構築が求められます。
5. サイバーセキュリティの強化
重要インフラのセキュリティ確保、個人情報保護の徹底、サイバー攻撃への対処能力向上など、デジタル社会の安全・安心を守る体制強化が必要です。
6. AI・Web3など新技術の社会実装
生成AI の行政活用、ブロックチェーンを活用した新サービス、メタバースでの行政サービス提供など、新技術の適切な導入と規制のバランスが求められます。
高市内閣における位置づけと展望
高市総理が松本尚氏をデジタル大臣に起用したことには、明確な戦略的意図があります。
第一に、医療という国民生活に直結する分野でのデジタル化実績を持つ人材を起用することで、国民目線でのデジタル改革を進める姿勢を示しています。
第二に、現場主義を貫いてきた実務家を登用することで、机上の空論ではない実効性のあるデジタル政策を推進する意図が見られます。
第三に、与野党を超えた経歴を持つ人材の起用により、デジタル政策での超党派的な合意形成を目指す姿勢を示しています。
結びに:命を救う経験がデジタル社会を救う
松本尚デジタル大臣の就任は、日本のデジタル変革に新たな視点をもたらすものです。救急医として多くの命を救い、災害医療で陣頭指揮を執り、医療のデジタル化を推進してきた松本氏。その経験はすべて、国民の生活を豊かにするデジタル社会の実現につながります。
「一秒の遅れが命取りになる」救急医療の現場で培われた迅速性と確実性の追求は、デジタル改革においても重要な指針となるでしょう。また、「患者ファースト」の精神は、「国民ファースト」のデジタルサービス設計に活かされることが期待されます。
日本のデジタル化は待ったなしの課題です。国際競争力の回復、少子高齢化への対応、地方創生の実現など、デジタル技術なしには解決できない課題が山積しています。松本デジタル大臣には、医療現場で培った実践知と改革への情熱を持って、日本のデジタル変革を力強く推進することが期待されています。
高市内閣の「決断と前進」のスローガンの下、異色の経歴を持つ松本デジタル大臣が、どのような改革を成し遂げるのか。その手腕に大きな期待が寄せられています。

