2025年10月21日、高市早苗氏が日本初の女性総理大臣として組閣した新内閣において、金子恭之氏(63歳)が国土交通大臣に就任しました。熊本県選出のベテラン議員であり、総務大臣経験者でもある金子氏は、地方自治と災害対応の豊富な経験を活かし、国土の安全と発展を支える重責を担うことになりました。
国土交通大臣という重責:国土の守護者にして発展の推進役
国土交通大臣は、国土の総合的な開発・保全、交通インフラの整備・運営、観光立国の推進など、国民生活と経済活動の基盤を支える極めて重要な職責です。災害大国・日本において、防災・減災対策の要としての役割も担っています。
国土交通省の主要な所掌事務
1. 国土政策・地域振興 国土形成計画の策定、地域の活性化、過疎対策、離島振興など、国土の均衡ある発展を推進します。人口減少社会において、コンパクトシティの形成、地域公共交通の維持、空き家対策など、持続可能な地域づくりが重要な課題となっています。東京一極集中の是正と地方創生の実現に向けて、国土政策の観点から総合的な施策を展開する必要があります。
2. 社会資本整備 道路、河川、港湾、空港など、経済活動と国民生活を支える社会インフラの整備・維持管理を統括します。高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が進む中、予防保全への転換、長寿命化対策、更新投資の最適化など、インフラマネジメントの高度化が求められています。また、生産性向上に資する物流ネットワークの強化も重要な任務です。
3. 交通政策 鉄道、自動車、航空、海運など、あらゆる交通モードの安全確保と利便性向上を図ります。交通事故削減、公共交通の維持・活性化、バリアフリー化の推進、自動運転などの新技術への対応など、多様な課題に取り組みます。特に、高齢化が進む中での移動手段の確保は、国民の生活の質に直結する重要課題です。
4. 防災・減災対策 治水対策、土砂災害対策、地震・津波対策など、自然災害から国民の生命と財産を守る役割を担います。気候変動により激甚化・頻発化する災害に対し、流域治水、事前防災、国土強靱化など、ハード・ソフト両面からの総合的な対策が必要です。また、災害時の緊急対応、復旧・復興支援も重要な任務となっています。
5. 住宅・建築行政 住宅政策、建築基準行政、不動産業の振興など、国民の居住環境の向上を図ります。空き家対策、マンション管理適正化、省エネ住宅の普及、耐震化促進など、安全で快適な住環境の実現が求められています。
6. 観光立国の推進 訪日外国人旅行者の誘致、観光地域づくり、観光産業の振興など、観光を通じた経済活性化と地域振興を推進します。コロナ禍からの観光需要回復、オーバーツーリズム対策、持続可能な観光の実現など、新たな課題への対応が必要です。
7. 海上保安・海洋政策 海上保安庁を所管し、領海警備、海難救助、海洋環境保全などを統括します。尖閣諸島周辺での中国公船への対応など、海洋安全保障の最前線を担う重要な役割があります。
このように国土交通大臣は、国土の安全と発展を支える幅広い分野を統括する、まさに国家の基盤を守る重要な職責なのです。
金子恭之氏の経歴:地方行政のプロフェッショナルから国政へ
熊本での生い立ちと学歴
金子恭之氏は1961年2月5日、熊本県上益城郡矢部町(現・山都町)に生まれました。阿蘇山麓の自然豊かな環境で育ち、地方の実情を肌で感じながら成長しました。熊本県立熊本高等学校を卒業後、慶應義塾大学法学部に進学。1984年に同大学を卒業しました。
自治省での官僚キャリア
1984年4月、自治省(現・総務省)に入省した金子氏は、地方自治行政のエキスパートとして、キャリアを積み重ねました。
入省後は、地方税制、地方財政、地方行政など、地方自治の根幹に関わる部署で勤務。特に地方財政局では、地方交付税制度の運用、地方債の管理など、地方自治体の財政運営を支える重要な業務に従事しました。
1990年から1992年まで、岐阜県総務部財政課長として出向。地方の現場で予算編成、財政運営の実務を経験しました。この経験は、国と地方の関係を実地で理解する貴重な機会となりました。
1995年から1997年まで、熊本県総務部長として出向。地元熊本県で県政の中枢を担い、行政改革、災害対応、地域振興など幅広い分野で手腕を発揮しました。特に、1997年の鹿児島県北西部地震への対応では、危機管理の実務を経験しました。
自治省消防庁では、防災対策、消防行政に従事。阪神・淡路大震災後の防災体制の見直し、消防の広域化など、国民の安全を守る政策立案に携わりました。この経験は、国土交通大臣として防災・減災対策を推進する上で重要な基盤となっています。
政界への転身と着実な歩み
1998年、37歳で自治省を退官し、政界への転身を決意。同年7月の第18回参議院議員選挙に熊本県選挙区から自由民主党公認で立候補し、初当選を果たしました。
2003年11月の第43回衆議院議員総選挙で、熊本5区から鞍替え出馬し、衆議院議員に初当選。以来、連続当選を重ね、現在7期目を務めています。
国会・党内での豊富な実績
委員会活動
- 衆議院総務委員長(2016年)
- 衆議院災害対策特別委員長(2018年)
- 衆議院国土交通委員会理事
- 衆議院予算委員会委員
災害対策特別委員長時代は、西日本豪雨、北海道胆振東部地震など、相次ぐ自然災害への対応にあたり、被災地支援、復旧・復興対策の推進に尽力しました。
政府での役職
- 総務大臣政務官(2006年・第1次安倍内閣)
- 総務副大臣(2012年・第2次安倍内閣)
- 総務大臣(2021年・菅内閣、岸田内閣)
総務大臣在任中は、デジタル化の推進、地方創生、マイナンバーカードの普及、携帯電話料金の引き下げなど、重要政策を推進。特に、コロナ禍での地方自治体支援、地方創生臨時交付金の運用などで実績を上げました。
党内での役職
- 自由民主党総務部会長(2014年)
- 自由民主党熊本県支部連合会会長(現職)
- 自由民主党行政改革推進本部事務局長
熊本地震での陣頭指揮
2016年4月の熊本地震では、地元選出議員として災害対応の最前線に立ちました。政府との連携、被災者支援、復旧・復興対策の推進など、地域のリーダーとして奔走。特に、仮設住宅の確保、インフラの復旧、なりわい再建支援など、きめ細かな対応を行いました。
この経験は、大規模災害への対応能力を実地で身につける機会となり、国土交通大臣として災害対策を統括する上で貴重な財産となっています。
国土交通大臣としての資質:なぜ金子氏なのか
1. 地方自治の専門性
自治省での15年間の経験と、総務大臣としての実績は、国と地方の連携を重視する国土交通行政において大きな強みです。地方の実情を深く理解し、地方自治体との円滑な調整ができる能力は、地域振興や社会資本整備を進める上で不可欠です。
2. 災害対応の実績
消防庁での勤務経験、熊本地震での陣頭指揮、災害対策特別委員長としての活動など、防災・減災対策に関する豊富な経験を持っています。激甚化する自然災害への対応が求められる中、この実践的な経験は極めて重要な資質です。
3. インフラ整備への理解
地方自治体の財政運営に精通している金子氏は、限られた財源での効率的なインフラ整備の必要性を深く理解しています。老朽化対策と新規投資のバランス、費用対効果を重視した事業選択など、現実的な政策立案が可能です。
4. 地方の視点
熊本という地方選出議員として、都市部と地方部の格差、地方の交通インフラの重要性を身をもって知っています。地方創生、地域公共交通の維持など、地方の立場に立った政策推進が期待できます。
5. 調整力と実行力
総務大臣として省庁間調整を経験し、与野党問わず幅広い人脈を持つ金子氏は、複雑な利害調整が必要な国土交通行政において、その調整力を発揮することが期待されます。
今後の課題と期待される役割
1. 国土強靱化の推進
5か年加速化対策の後継となる新たな国土強靱化基本計画の策定と実行が求められます。流域治水の推進、盛土規制の強化、インフラの耐震化など、事前防災への投資を加速する必要があります。特に、線状降水帯による豪雨災害、南海トラフ地震、首都直下地震など、想定される大規模災害への備えが急務です。
2. インフラ老朽化対策
高度経済成長期に建設された道路、橋梁、トンネル、港湾施設などの老朽化が急速に進んでいます。予防保全型メンテナンスへの転換、新技術を活用した点検・診断の効率化、更新投資の優先順位付けなど、戦略的なインフラマネジメントが必要です。
3. 物流の2024年問題への対応
トラックドライバーの時間外労働規制により、物流の停滞が懸念されています。モーダルシフトの推進、物流DXの加速、高速道路ネットワークの機能強化など、物流システム全体の効率化が求められます。
4. 観光立国の復活
インバウンド6000万人目標の達成に向けて、受入環境の整備、地方への誘客促進、持続可能な観光地づくりが必要です。オーバーツーリズム対策と地域経済活性化の両立という難しい課題にも取り組む必要があります。
5. カーボンニュートラルへの対応
運輸部門のCO2削減、グリーンインフラの推進、ZEH・ZEB(ゼロエネルギー住宅・ビル)の普及など、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが求められます。
6. 地域公共交通の維持・活性化
人口減少により、地方のバス路線、鉄道路線の維持が困難になっています。MaaSの推進、自動運転の実装、コミュニティバスの支援など、地域の移動手段確保が重要な課題です。
高市内閣における位置づけと展望
高市総理が金子恭之氏を国土交通大臣に起用したことには、明確な政治的意図があります。
第一に、総務大臣経験者を起用することで、国と地方の連携強化を図る姿勢を示しています。地方創生は高市政権の重要政策であり、その実現には国土交通省と地方自治体の緊密な連携が不可欠です。
第二に、災害対応の実績を持つ人材を配することで、防災・減災を重視する政権の姿勢を明確にしています。気候変動により災害が激甚化する中、国民の安全・安心の確保は最優先課題です。
第三に、ベテラン議員の起用により、政権の安定性と実行力を確保する狙いがあります。
結びに:国土の未来を描く実践者として
金子恭之国土交通大臣の就任は、地方の実情を理解し、災害対応の経験を持つ実務派が、日本の国土政策を担うことを意味します。自治省での地方行政経験、総務大臣としての実績、熊本地震での陣頭指揮。これらの経験は、国土交通大臣として国土の安全と発展を支える上で、かけがえのない財産です。
日本の国土は今、人口減少、インフラ老朽化、自然災害の激甚化という三重の課題に直面しています。しかし、これらの課題を克服することで、安全で豊かな国土を次世代に引き継ぐことができます。
金子国土交通大臣には、その豊富な経験と実践力を活かし、「安全・安心な国土」「活力ある地域」「持続可能な社会」の実現に向けて、リーダーシップを発揮することが期待されています。特に、防災・減災対策の充実、地方創生の推進、インフラの戦略的維持管理など、国民生活に直結する課題への取り組みが注目されます。
高市内閣の「決断と前進」のスローガンの下、金子国土交通大臣が描く国土の未来図がどのようなものか、その実現に向けた取り組みに大いに期待したいと思います。

