2025年10月21日、高市早苗氏が日本初の女性総理大臣として組閣した新内閣において、赤沢亮正氏(64歳)が経済産業大臣に就任しました。鳥取県選出のベテラン議員である赤沢氏は、大蔵省(現財務省)での豊富な行政経験と、内閣府副大臣としての実績を持つ実力派として、日本経済の再生と産業競争力強化の重責を担うことになりました。
経済産業大臣という重責:日本経済の司令塔として
経済産業大臣は、日本の産業政策と通商政策を統括し、経済成長と産業競争力強化を推進する極めて重要な職責です。グローバル化が進展し、技術革新が加速する現代において、その役割はますます重要性を増しています。
経済産業省の主要な所掌事務
1. 産業政策の企画・立案 日本の産業構造の高度化、新産業の創出、既存産業の競争力強化など、産業政策全般を統括します。特に近年では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、グリーントランスフォーメーション(GX)への対応、スタートアップ支援など、経済の構造転換を促す政策の重要性が高まっています。製造業、サービス業、情報産業など、幅広い産業分野の振興策を立案・実施し、日本経済の成長エンジンを創出する役割を担います。
2. 通商政策・対外経済関係 国際貿易の促進、経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)の交渉、輸出入管理、対外投資の促進など、日本の通商政策全般を担当します。米中対立が深まる中での経済安全保障の確保、サプライチェーンの強靱化、重要技術の管理など、複雑な国際情勢への対応が求められています。また、WTO改革への対応、RCEP・CPTPPなど多国間経済枠組みでの主導的役割も期待されています。
3. エネルギー政策 資源小国である日本にとって、エネルギーの安定供給は国家の生命線です。原子力政策、再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギーの推進、電力・ガス市場の制度設計など、エネルギー政策全般を統括します。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、エネルギー構造の転換を進めながら、産業競争力を維持するという難しい舵取りが求められています。
4. 中小企業政策 日本の企業数の99%以上、雇用の約7割を占める中小企業の振興は、日本経済の基盤強化に不可欠です。事業承継支援、生産性向上支援、資金繰り対策、デジタル化支援など、中小企業が直面する課題への対応を統括します。地域経済の活性化と雇用の維持・創出において重要な役割を果たしています。
5. イノベーション・技術政策 AI、量子技術、バイオテクノロジーなど、先端技術の研究開発促進と社会実装を推進します。産業技術総合研究所(AIST)などの研究機関を所管し、産学官連携によるイノベーション創出を支援。また、知的財産戦略、標準化戦略など、技術を競争力に転換する仕組みづくりも重要な任務です。
このように経済産業大臣は、日本経済の成長戦略を描き、産業の国際競争力を高める、まさに経済政策の司令塔としての役割を担っているのです。
赤沢亮正氏の経歴:大蔵官僚から政治家への華麗な転身
エリート街道と官僚キャリア
赤沢亮正氏は1960年12月18日、東京都に生まれました。慶應義塾高等学校を経て、1984年に東京大学法学部を卒業。同年4月、大蔵省(現財務省)に入省しました。東大法学部から大蔵省という、日本のエリート官僚の王道を歩んだ人物です。
大蔵省では主計局、銀行局、国際金融局など中枢部署を歴任。特に主計局では国家予算の編成に携わり、日本の財政運営の実務を深く学びました。この経験は、経済政策と財政政策の連携を理解する上で貴重な財産となっています。
1991年から1993年まで、在アメリカ日本国大使館一等書記官として勤務。米国の経済政策、金融システムを間近で観察し、国際金融の実務を経験しました。この時期は日米構造協議が行われていた時期でもあり、通商摩擦の最前線で交渉実務を学ぶ機会となりました。
プリンストン大学での研鑽
1993年から1995年まで、米国プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール(公共政策大学院)に留学し、国際関係論を専攻。修士号(MPA)を取得しました。プリンストン大学は公共政策分野で世界トップクラスの教育機関であり、ここでの学びは国際的視野と政策分析能力を大きく向上させました。
留学中は、グローバル経済における日本の役割、産業政策と競争政策の関係、金融システムの国際比較など、幅広いテーマで研究を行いました。また、各国からの留学生との交流を通じて、国際的な人脈を構築しました。
国際金融の専門家として
帰国後は大蔵省国際金融局で勤務し、1997年のアジア通貨危機への対応に従事。IMFとの協調、アジア各国への金融支援、国際金融システムの安定化など、危機管理の実務を経験しました。この経験は、経済危機への対応能力を養う貴重な機会となりました。
2001年、財務省を退官。約17年間の官僚生活で培った財政・金融・国際経済の専門知識は、後の政治活動の強固な基盤となっています。
政界への挑戦と着実な実績
2005年9月、第44回衆議院議員総選挙で鳥取2区から自由民主党公認で立候補し、初当選を果たしました。以来、連続当選を重ね、現在6期目を務めています。
国会での活動
- 衆議院財務金融委員会理事(複数回)
- 衆議院予算委員会委員
- 衆議院経済産業委員会委員
- 衆議院国土交通委員会委員
- 決算行政監視委員会委員
財務金融委員会では、金融システムの安定化、税制改正、財政健全化など重要課題の審議に深く関わってきました。特に、リーマンショック後の金融危機対応、消費税率引き上げに関する議論、金融規制改革などで専門性を発揮しました。
政府での役職
- 防衛大臣政務官(2012年・第2次安倍内閣)
- 内閣府副大臣(2014年・第2次安倍改造内閣)
内閣府副大臣時代は、国家戦略特区、地方創生、規制改革、防災などを担当。特に国家戦略特区制度の推進では、岩盤規制の打破と地域活性化の両立を目指し、具体的な成果を上げました。
党内での役職
- 自由民主党財務金融部会副部会長
- 自由民主党鳥取県支部連合会会長
- 自由民主党国会対策委員会副委員長
- 自由民主党税制調査会幹事
党税制調査会では、法人税改革、消費税の軽減税率、研究開発税制など、産業競争力強化に資する税制改正に取り組んできました。
経済産業大臣としての資質:なぜ赤沢氏なのか
1. 財政と経済の両面理解
大蔵省での主計局経験により、国家財政の制約を理解しながら経済政策を立案できる能力は、赤沢氏の最大の強みです。限られた財源の中で最大の政策効果を生み出す、費用対効果を重視した政策設計が可能です。また、税制と産業政策の連携により、民間投資を促進する仕組みづくりにも精通しています。
2. 国際感覚と交渉力
在米大使館勤務、プリンストン大学留学、アジア通貨危機対応など、豊富な国際経験を持つ赤沢氏は、グローバル経済の中での日本の立ち位置を的確に理解しています。英語力も堪能で、国際会議での直接交渉が可能です。経済安全保障が重要性を増す中、この国際感覚は不可欠な資質です。
3. 危機管理能力
アジア通貨危機、リーマンショックなど、複数の経済危機対応を経験してきた赤沢氏は、危機時の迅速な意思決定と実行力を持っています。コロナ禍からの経済回復、エネルギー危機への対応など、現在日本が直面する課題への対処能力が期待されます。
4. 地方の視点
鳥取県という地方選出議員として、地方経済の実情を深く理解しています。中小企業支援、地域産業振興、地方創生など、東京一極集中是正に向けた政策立案において、地方の視点を反映させることができます。
5. 政策立案の理論と実践
東京大学法学部での法律の素養、プリンストン大学での政策科学の理論、大蔵省での実務経験、そして20年近い政治経験。これらすべてを兼ね備えた赤沢氏は、理論と実践の両面から政策を構築できる稀有な人材です。
今後の課題と期待される役割
1. 経済安全保障の強化
半導体、レアアース、医薬品など、重要物資のサプライチェーン強靱化は喫緊の課題です。友好国との連携強化、国内生産基盤の整備、代替供給源の確保など、経済安全保障推進法に基づく具体的施策の実行が求められます。また、先端技術の流出防止、外資規制の適正化など、技術保全と投資促進のバランスも重要です。
2. GX(グリーントランスフォーメーション)の推進
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、150兆円規模のGX投資を促進する必要があります。GX経済移行債の活用、カーボンプライシングの導入、グリーンイノベーション基金の運用など、脱炭素と経済成長の両立を図る政策運営が求められます。
3. DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
日本のデジタル競争力向上は待ったなしの課題です。中小企業のDX支援、デジタル人材の育成、データ利活用の促進、サイバーセキュリティの強化など、デジタル経済への転換を加速する必要があります。
4. スタートアップエコシステムの構築
5年で10倍というスタートアップ育成5か年計画の実現に向けて、資金供給の拡充、人材の流動化促進、大企業との連携強化、グローバル展開支援など、イノベーション創出の環境整備が急務です。
5. エネルギー政策の再構築
原子力発電の活用、再生可能エネルギーの主力電源化、水素・アンモニア等の新エネルギー開発など、エネルギーミックスの最適化が必要です。電力の安定供給確保と電気料金の抑制という難しい課題に取り組む必要があります。
6. 中小企業の事業承継と生産性向上
経営者の高齢化が進む中、円滑な事業承継の支援は地域経済維持の鍵となります。また、賃上げ原資確保のための生産性向上支援、価格転嫁対策など、中小企業の経営基盤強化が求められています。
高市内閣における位置づけと展望
高市総理が赤沢亮正氏を経済産業大臣に起用したことには、明確な戦略的意図があります。
第一に、財務省出身者を起用することで、成長戦略と財政健全化の両立を図る姿勢を示しています。第二に、国際経験豊富な人材を配することで、経済安全保障と自由貿易の推進という複雑な課題への対応力を高めています。第三に、ベテラン議員の起用により、政権の安定性と政策実行力を確保する狙いがあります。
結びに:日本経済再生の舵取り役として
赤沢亮正経済産業大臣の就任は、日本経済が直面する構造的課題に正面から取り組む高市政権の決意を示すものです。財政・金融の専門知識、国際感覚、危機管理能力、そして地方の視点。これらすべてを兼ね備えた赤沢氏は、複雑化する経済課題に対応できる適任者と言えるでしょう。
日本経済は今、大きな転換期にあります。デジタル化の遅れ、脱炭素への対応、少子高齢化による労働力不足、国際競争力の低下など、解決すべき課題は山積しています。しかし、これらの課題は同時に、新たな成長の機会でもあります。
赤沢経済産業大臣には、その豊富な経験と専門知識を活かし、日本経済の新たな成長軌道を描くことが期待されています。特に、GXとDXという二つの変革を同時に進めながら、日本の産業競争力を高めるという困難な任務に、果敢に挑戦していただきたいと思います。
高市内閣の「決断と前進」のスローガンの下、赤沢経済産業大臣が日本経済にどのような変革をもたらすのか。その手腕に大いに期待したいと思います。

