外国人問題連載①:労働・雇用に関する問題

制度

はじめに

日本で働く外国人労働者は急速に増加しています。2024年10月時点で約230万人に達し、過去最高を更新しました。これは就業者全体のわずか3.4%に過ぎませんが、年間増加数25万人は日本全体の就業者増加数の60.5%を占めており、外国人労働力が日本経済にとって不可欠な存在になっていることを示しています。

しかし、この急速な増加の裏側には、賃金格差、劣悪な労働環境、制度の歪みなど、看過できない問題が山積しています。本記事では、データに基づいて外国人労働者の雇用・労働問題の実態を明らかにし、諸外国との比較を通じて日本の課題と解決策を提案します。

データ・統計から見る現状

急増する外国人労働者

2014年に約79万人だった外国人労働者数は、10年間で約3倍に増加しました。この背景には、深刻な人手不足があります。特に増加が顕著な産業は以下の通りです。

産業別増加率(2023-2024年)

  • 医療・福祉:28.1%増
  • 建設業:22.7%増
  • 宿泊・飲食サービス業:16.9%増

在留資格別の動向 2024年に初めて「専門的・技術的分野の在留資格」(約72万人)が「身分に基づく在留資格」を上回り最多となりました。特に2019年創設の「特定技能」は前年比49.4%増の約21万人と急増しています。

深刻な賃金格差

外国人労働者、特に技能実習生の賃金水準は日本人と比較して著しく低い状況にあります。

在留資格別平均賃金(2024年)

  • 技能実習:約18万2,700円
  • 外国人労働者全体:約24万2,700円
  • 日本人(25-29歳・高校卒):約24万3,000円

技能実習生の賃金は外国人労働者平均より6万円、同年代の日本人より約6万円も低くなっています。多くの受け入れ企業が最低賃金ぎりぎりで雇用している実態があり、住居費や管理費などの控除により手取り額はさらに減少します。

労働環境の問題

技能実習制度を中心に、以下のような問題が指摘されています。

  • 長時間労働と残業代未払い:最低賃金での雇用を前提に、長時間労働で人件費を抑制
  • 転職の制限:原則として受け入れ企業の変更が不可能なため、対等な労使関係が構築できない
  • 失踪の増加:劣悪な労働環境や賃金トラブルが原因で、2024年も多数の失踪者が発生

これらの問題は国際的にも批判を受けており、政府は2027年4月頃に技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」へ移行する方針を決定しています。

諸外国の状況と比較

ドイツ:市民として受け入れる姿勢

ドイツはアメリカに次ぐ世界第2位の外国人受け入れ国です。重要な特徴は以下の通りです。

制度の特徴

  • 一定のスキルを持つ外国人労働者には積極的に定住を促し、市民として受け入れる
  • 労働市場テストを原則廃止し、一定年数就労すれば無期限滞在が可能
  • 外国人労働者にもドイツ人と同様の労働法上の権利を保障

課題 ドイツでも外国人労働者の給与はドイツ人平均の64%程度にとどまり、失業率はドイツ人の2.35倍と格差が存在します。言語や資格認定の問題が背景にあります。

カナダ・オーストラリア:包括的な権利保護

これらの国々は移民国家として、外国人労働者に対する包括的な保護制度を整備しています。

  • 全労働者に対する基本的就労権の保障
  • 差別禁止法による保護
  • 人権委員会への申し立て制度

日本との比較

日本の制度は諸外国と比較して以下の点で異なります。

日本の特徴

  • 「外国人は一時的な労働者」という位置づけ
  • 転職の制限が厳格(技能実習では原則不可)
  • 賃金水準や労働条件に関する実効性のある監督体制の不足

諸外国の特徴

  • 市民としての受け入れを前提とした制度設計
  • 労働市場での移動の自由
  • 国内労働者と同等の権利保障と実効性のある監視体制

今後予想される懸念

外国人労働力の供給不足

2030年には日本の外国人労働者需要は約419万人に達すると予測されていますが、供給は約342万人にとどまり、77万人の不足が見込まれています。3年前の予測では63万人の不足だったため、状況は悪化しています。

国際的な人材獲得競争の激化

日本の魅力が相対的に低下している要因として以下が挙げられます。

  • 賃金の伸び悩み:長年の賃金停滞と円安の影響
  • 制度の魅力不足:転職制限や短期滞在を前提とした制度設計
  • 競合国の台頭:韓国、台湾、シンガポールなどアジア諸国も積極的に外国人材を受け入れ

ベトナムの送り出し機関でも、以前より人材確保が困難になっており、採用コストが上昇しています。「日本が大好き」という感情だけでは労働者を確保できない時代が到来しています。

社会統合の遅れ

外国人労働者数の増加に対して、受け入れ体制の整備が追いついていません。

  • 行政手続きや医療サービスの多言語化の遅れ
  • 日本語教育支援の不足
  • 地域コミュニティとの統合支援の欠如

解決への提案

短期的施策:制度の実効性向上

賃金・労働条件の適正化

  • 同一労働同一賃金の徹底と監督体制の強化
  • 最低賃金違反や労働時間違反への罰則強化
  • 外国人労働者が相談しやすい多言語対応の窓口整備

転職の柔軟化 育成就労制度では一定条件下での転職を認める方針ですが、さらなる柔軟化が必要です。労働市場での選択肢を広げることで、対等な労使関係の構築と賃金改善につながります。

中期的施策:受け入れ環境の整備

日本語教育支援の拡充 日本語能力が高い労働者ほど仕事の満足度が高いという研究結果があります。入国前から継続的な日本語教育支援を提供することで、定着率向上と生産性向上が期待できます。

行政サービスの多言語化 各種手続きの多言語対応と「やさしい日本語」の活用を推進し、日常生活における障壁を取り除くことが重要です。

社会保障へのアクセス改善 外国人労働者も社会保険の対象ですが、制度理解や手続きの複雑さから十分に活用されていません。わかりやすい情報提供と手続き支援が必要です。

長期的施策:パラダイムシフト

「市民として受け入れる」視点への転換 ドイツやスウェーデンのように、一定のスキルを持つ外国人労働者を市民として受け入れる制度設計が必要です。具体的には以下を検討すべきです。

  • 永住権取得までの期間短縮
  • 家族帯同の条件緩和
  • 地方参政権の付与

産業構造の転換支援 外国人労働力への依存を前提とした低生産性産業の温存ではなく、生産性向上への投資と産業構造の転換を並行して進めることが重要です。

国際的な魅力向上 賃金水準の引き上げ、労働環境の改善、生活環境の整備など、総合的な魅力向上策が必要です。韓国や台湾との競争に勝つためには、制度の見直しだけでなく、実質的な処遇改善が不可欠です。

まとめ

日本の外国人労働者問題は、人手不足の対症療法として外国人を受け入れながら、その権利保護や社会統合を軽視してきたことに起因しています。技能実習制度に象徴される「安価な労働力」としての位置づけから、「社会を支える一員」としての視点への転換が急務です。

2030年には外国人労働者が280万~390万人に達すると予測される中、国際的な人材獲得競争は激化しています。今こそ、短期的な制度改善だけでなく、外国人労働者を市民として受け入れる長期的なビジョンを描き、実行に移す時です。それは、外国人労働者のためだけでなく、持続可能な日本社会を実現するために不可欠な取り組みなのです。

次回は「社会統合・多文化共生の問題」について詳しく見ていきます。

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