事件の概要
2025年10月7日、自民党本部での高市早苗総裁への囲み取材の待機中に、報道陣の一部から「支持率下げてやる」「支持率下げるような写真しか出さねえぞ」といった発言がマイクに拾われ、日本テレビのインターネット生中継を通じて配信された。この動画はSNS上で瞬く間に拡散し、わずか1日余りで約3700万回も視聴される事態となった。
時事通信社は翌9日、この発言が自社の男性写真記者によるものであることを認め、「報道の公正性、中立性に疑念を抱かせる結果を招いた」として厳重注意処分を下すとともに、自民党に謝罪する意向を表明した。
何が問題だったのか
この事件の最大の問題点は、報道機関の根幹である「公正性」と「中立性」への信頼を揺るがす発言が、記者自身の口から発せられたことにある。
報道機関は客観的な事実を伝える責務を負っており、特定の政治家や政党に対して意図的に不利な報道をすることは、ジャーナリズムの倫理に反する行為だ。たとえ雑談や冗談であったとしても、「支持率を下げる」ことを意図した報道姿勢を示唆する発言は、メディアへの信頼を大きく損なうものといえる。
さらに深刻なのは、このような発言が「いつの間にか」全国に配信されてしまう現代のメディア環境だ。慶応大学の津田正太郎教授が指摘するように、今やあらゆる場所にカメラがあり、記者の一挙手一投足が監視される時代となっている。従来であれば取材現場の内輪話で済んだかもしれない発言が、即座に社会に晒される状況が生まれているのだ。
社会への影響
この事件は、すでに「偏向報道」への批判が高まる中で起きた。SNS上では「冗談であれ、許されない発言」といった厳しい批判が相次ぎ、既存メディアへの不信感をさらに増幅させる結果となった。
報道の自由は民主主義の根幹をなすものだが、それは報道機関が公正・中立であることが大前提となる。今回の事件は、その信頼がいかに脆いものであるか、そして一度失われた信頼を取り戻すことがいかに困難であるかを示す事例となった。
報道に携わるすべての人々が「常に見られている」という自覚を持ち、プロフェッショナルとしての自覚と責任を再確認する必要があるだろう。

