はじめに
2025年10月、私たちの家計にとって大きな試練が訪れています。帝国データバンクが9月30日に発表した調査によると、主要食品メーカー195社における10月の飲食料品値上げは3024品目に達し、半年ぶりの大型値上げラッシュとなりました。特に酒類・飲料分野での値上げが顕著で、日常の買い物に大きな影響を与えることが予想されます。
10月の値上げ規模:3024品目という衝撃
前年を上回る値上げラッシュ
2025年10月の値上げ品目数3024品目は、前年10月の2924品目から100品目、率にして3.4%の増加となりました。これで10カ月連続で前年を上回る結果となり、連続増加期間としては2022年の統計開始以降で最長を更新しています。
単月の値上げ品目数としては5カ月連続で1,000品目を超えており、4月の4,225品目以来、6カ月ぶりに3,000品目を突破しました。値上げラッシュが一時的な現象ではなく、長期化・恒常化していることを示す数字と言えるでしょう。
平均値上げ率は17%
1回あたりの値上げ率平均は17%となっています。これは前年の17%と同水準ですが、決して小さくない値上げ幅です。例えば、これまで100円だった商品が117円になるということであり、複数の商品で値上げが重なれば、家計への影響は無視できない規模になります。
分野別の値上げ状況:酒類・飲料が突出
酒類・飲料:2,262品目の大幅値上げ
10月の値上げで最も目立つのが酒類・飲料分野です。焼酎、リキュール、日本酒などのアルコール飲料を中心に2,262品目が値上げされました。「酒類・飲料」分野で単月あたり2,000品目を超えたのは、2023年10月以来、2年ぶりのことです。
主な値上げ商品:
清涼飲料水
- コカ・コーラ(500ml):税別180円→200円(約11%増)
- 伊藤園「お〜いお茶」(600ml):194円→216円(約11%増)
- ダイドーブレンドオリジナル:税抜140円→160円(約14%増)
これらの値上げにより、自動販売機での飲料価格が200円台に突入するケースも増えると見られています。
日本酒 米価格の高騰を受け、主要な日本酒メーカーが相次いで値上げを実施しています:
- 白鶴酒造:「まる」7%程度、「大吟醸」8%程度の値上げ
- 月桂冠:「つき」(2Lパック)1,546円→1,657円(約7%増)
- 黄桜:全商品の8割を値上げ
加工食品:340品目
包装米飯や餅製品を中心に340品目が値上げの対象となりました。米価格の高騰や資材調達負担増が主な理由です。
主な値上げ商品:
- 東洋水産:「マルちゃん えびシュウマイ」「マルちゃん ごつ盛り ソース焼そば」など
- 江崎グリコ:「朝食りんごヨーグルト」「マイルドカフェオーレ」など32品
- キユーピー:「やさしい献立」シリーズなど介護食
調味料:246品目
焼肉のたれやみそ製品などが値上げの中心となり、246品目が対象となりました。
2025年通年の値上げ見通し
2万品目超えが確実に
2025年通年の値上げは、12月までの公表分で累計2万381品目に達しました。前年の実績である1万2,520品目を62.8%も上回り、2023年の3万2,396品目以来、2年ぶりに2万品目を超える見込みです。
年間を通じた1回当たり値上げ率平均は15%と、前年の17%をやや下回る水準ですが、品目数の増加により、全体としての値上げ圧力は依然として強い状態が続いています。
分野別の通年値上げ状況
調味料:6,148品目 通年で最も多いのが調味料分野で、前年の1,715品目から4,433品目増、率にして258.5%の大幅増となっています。2022年以降で2番目に多い水準です。
酒類・飲料:4,871品目 清涼飲料水、ビール、清酒、焼酎、ワインなど広範囲で値上げが実施され、前年比で8割を超える大幅増となりました。
値上げの要因:複合的なコスト増
主要な値上げ要因
2025年の値上げは、単一の要因ではなく、複数の要因が複合的に重なっています。
1. 原材料高(96.1%) 原材料などモノ由来の値上げが全体の96.1%を占めており、最も大きな要因となっています。
2. 物流費(78.8%) 2024年問題(トラックドライバーの労働時間規制強化)などを背景に、ドライバー不足による運賃引き上げが続いています。物流費を理由とする値上げは前年から大幅に増加しました。
3. エネルギー(光熱費)(64.3%) 光熱費の上昇による生産コスト増が、値上げを後押ししています。
4. 包装・資材(62.9%) アルミや段ボールなどの包装資材のコスト上昇も影響しています。
5. 人件費(50.2%) 昨年以降続いた賃上げによるコストアップが、時間差で価格に反映されています。人件費を理由とする値上げも前年から大幅に増加しました。
円安要因は低下
興味深いのは、「円安」を要因とする値上げの割合が12.4%と、前年から大幅に低下している点です。これは、飲食料品の値上げが外的要因から内的要因による物価上昇にシフトしていることを示しています。
つまり、一過性の円安や悪天候による収量減といった要因だけでなく、人件費や物流費といった構造的・持続的な要因が値上げを支えているということです。これは、今後も値上げが継続する可能性が高いことを意味します。
消費者への影響と節約志向の高まり
実質賃金の長期マイナス
値上げが続く一方で、実質賃金(物価上昇を考慮した賃金)は長らくマイナスの状態で推移してきました。消費者の物価高への反発は根強く、小売現場では以下のような現象が見られています:
- 購買点数の減少
- 割安なプライベート・ブランド(PB)製品へのシフト
- まとめ買いの増加
- 外食から内食への転換
エデンレッドジャパンが実施した「ビジネスパーソンのランチ実態調査2024」によると、約80%のビジネスパーソンが「家計が苦しい」と回答しており、3人に1人が2023年よりランチ代を減らし、4人に1人はランチを欠食することもあると答えています。
家計防衛の必要性
値上げラッシュが長期化・恒常化する中、家計防衛のための工夫が求められています:
- 買い物前に価格比較を行う
- セール時にまとめ買いをする
- PB商品を積極的に活用する
- 食品ロスを減らす工夫をする
- 家計簿アプリなどで支出を可視化する
今後の見通し:年末にかけて「小休止」か
11月は値上げが減少
帝国データバンクによると、11月の食品値上げ予定品目数は9月末時点で100品目未満にとどまっています。11カ月ぶりに前年同月を下回るとみられ、年内続いた飲食料品の値上げラッシュは年末にかけて小休止を迎える見込みです。
通年の値上げ品目は、飲食料品の値上げラッシュが本格化した2022年(2万5,768品目)の水準には届かないとみられ、2万1,000品目前後での着地が予想されています。
しかし構造的な要因は残る
11月以降の値上げが一時的に減少するとはいえ、人件費や物流費といった構造的・粘着性の高いコスト要因は解消されていません。食品メーカー各社は、本体価格の継続的な引き上げによって利益を確保する収益構造を目指しており、飲食料品における値上げは長期化・恒常化するとみられます。
2026年以降も、賃上げの継続、人手不足の深刻化、物流費の上昇など、値上げ圧力となる要因は残り続けるでしょう。
まとめ
2025年10月の飲食料品値上げは3,024品目、通年では2万品目を超える大規模なものとなりました。特に酒類・飲料分野での値上げが突出しており、日常の買い物に大きな影響を与えています。
値上げの要因は、原材料高、物流費、人件費、エネルギーコストなど多岐にわたり、一過性のものではなく構造的・持続的な性格を強めています。円安要因が低下する一方で、内的要因による物価上昇にシフトしているため、今後も値上げは継続する可能性が高いと言えます。
11月以降は一時的に値上げが減速する見込みですが、これは「小休止」に過ぎません。実質賃金の伸び悩みが続く中、消費者の理解を得ながら価格転嫁を進めることができるかは不透明な状況です。
私たち消費者にとっては、値上げラッシュの長期化を前提に、賢い買い物の工夫と家計管理がますます重要になってくるでしょう。同時に、持続的な賃上げの実現と実質賃金の回復が、社会全体の課題として求められています。