2025年10月6日、日本中に嬉しいニュースが飛び込んできました。大阪大学の坂口志文(さかぐち・しもん)特任教授が、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのです。今回は、この素晴らしい科学者について、高校生の皆さんにも分かりやすくご紹介します。
どんな人なの?
坂口志文さんは1951年、滋賀県長浜市で生まれました。現在74歳です。琵琶湖のほとりで育った坂口さんは、子どもの頃から読書が大好きで、少年少女文学全集を読み破ったり、お父さんの難しい本まで読んでいたそうです。
お父さんは高校の校長先生で、「志文」という珍しい名前は聖書から取られたと言われています。自然豊かな環境でのびのび育ち、友達とよく遊ぶ一方で、勉強にも熱心な少年でした。
地元の長浜北高校を卒業後、京都大学医学部に進学。1976年に卒業した後は、愛知県がんセンターで研究をスタートしました。その後、アメリカに渡り、世界トップレベルの研究機関で学びました。
どんな研究をしたの?
坂口さんが発見したのは「制御性T細胞(せいぎょせいティーさいぼう)」という細胞です。これは免疫の世界における大発見でした。
私たちの体には「免疫」という仕組みがあります。これは、ウイルスや細菌などの敵が体に入ってきたときに、それらを攻撃して退治するシステムです。この攻撃を担当するのが「T細胞」という細胞です。
でも、考えてみてください。攻撃力が強いのはいいことですが、もし暴走して自分の体まで攻撃し始めたらどうなるでしょう?実はこれが起こってしまうのが「自己免疫疾患」という病気です。リウマチや1型糖尿病などがその例です。
坂口さんは、正常な体の中には免疫の攻撃にブレーキをかける特別なT細胞があることを発見しました。これが「制御性T細胞」です。車に例えるなら、アクセルだけでなくブレーキもちゃんと装備されていることを証明したのです。
この発見は1995年に発表されましたが、最初は多くの科学者に信じてもらえませんでした。「そんな細胞は存在しない」と批判されたこともあったそうです。しかし坂口さんは諦めず、20年以上にわたって研究を続け、その存在を証明し続けました。
どんな影響があるの?
制御性T細胞の発見は、医療の世界に大きな可能性をもたらしました。
まず、自己免疫疾患の治療です。免疫が暴走する病気なら、この「ブレーキ細胞」を増やせば治療できるかもしれません。また、アレルギーの予防にも応用が期待されています。
さらに意外なことに、がん治療にも役立つと考えられています。がん細胞は、実はこの制御性T細胞を利用して免疫の攻撃から逃れているのです。だから、逆にこの細胞の働きを抑えれば、免疫ががん細胞を攻撃しやすくなるというわけです。
坂口さんの研究は「免疫学最後の大発見」とも呼ばれ、世界中の科学者に影響を与えました。
研究を支えた人たち
坂口さんの成功の影には、奥さんの教子(のりこ)さんの存在がありました。お二人は愛知県がんセンターで出会い、結婚。アメリカ留学時代も一緒に研究に取り組み、まさに二人三脚で歩んできました。
坂口さんは受賞後の会見で「研究を諦めずに続けられたのは妻の支えがあったから」と語っています。教子さんも研究者として多くの論文を共に発表し、2016年には夫婦でバイオベンチャー企業を設立するなど、科学と医療の発展に貢献し続けています。
坂口さんってどんな性格?
周りの人たちによると、坂口さんは穏やかで謙虚な人柄だそうです。「研究は人のためにある」という信念を持ち、成果よりも真理を探求することを大切にしてきました。
逆風の時代も諦めなかった粘り強さ、そして科学の世界は「うそが消え本当のことは残る、いい世界」という言葉からは、真摯な研究者としての姿勢が伝わってきます。
まとめ
坂口志文さんの研究人生は、「信じる道を貫くことの大切さ」を私たちに教えてくれます。最初は理解されなくても、正しいことは必ず認められる。そう信じて20年以上も研究を続けた結果が、今回のノーベル賞受賞につながったのです。
高校生の皆さんにとって、坂口さんの姿は、将来の夢を追いかける上で大きな励みになるはずです。科学者を目指す人だけでなく、どんな分野でも、情熱と粘り強さがあれば道は開けるということを、坂口さんは身をもって示してくれました。
授賞式は12月10日、スウェーデンのストックホルムで行われます。日本の誇る科学者の晴れ舞台を、ぜひ見守りましょう!
 
