自民党圧勝で現実味を帯びる憲法改正――各党の主張と知っておくべきリスクを徹底解説

制度

2026年2月8日に投開票された第51回衆議院議員選挙で、自民党が310議席を超える歴史的圧勝を果たしました。これは単独政党として戦後初めて衆議院の3分の2以上を獲得したことを意味し、憲法改正の発議に必要な要件を自民党単独でクリアする前例のない状況が生まれています。高市早苗首相は選挙期間中から「憲法改正をやらせてほしい」と繰り返し訴えており、戦後一度も改正されたことのない日本国憲法がいよいよ変わる可能性が高まっています。

この記事では、そもそも憲法改正にはどのような案があるのか、各党はどのような立場を取っているのか、現行憲法にどのような問題が指摘されているのか、そして改正にはどのようなリスクが伴うのかを整理します。

自民党が掲げる「改憲4項目」

自民党は結党以来「憲法の自主的改正」を党是として掲げてきました。現在、具体的な改正案として提示しているのは以下の4項目です。

第1に、自衛隊の明記です。 現行の9条1項・2項はそのまま維持しつつ、新たに「9条の2」を設けて自衛隊を憲法上に位置づけるという案です。自民党は、多くの憲法学者が自衛隊を違憲とし、教科書でも違憲論に触れている現状を問題視しています。高市首相は「彼らの誇りを守り、実力組織として位置付けるため、当たり前の改憲だ」と主張しています。

第2に、緊急事態対応の強化です。 大規模な自然災害や有事の際に、国会の機能を維持しつつ、それが困難な場合は内閣の権限を一時的に強化して迅速に対応できる仕組みを憲法に規定するというものです。東日本大震災やコロナ禍の経験から、緊急時の法的枠組みの必要性が議論されてきました。

第3に、参議院の合区解消です。 人口減少が進む地域で選挙区が隣県と統合される「合区」が発生しており、都道府県単位で少なくとも1人は選出できる制度を憲法に盛り込もうという案です。

第4に、教育環境の充実です。 家庭の経済的事情に左右されない教育を受けられる環境を整備するため、教育に関する条文を拡充しようという提案です。

各党の憲法改正に対するスタンス

憲法改正に対する各党の立場は大きく分かれています。

与党と連立を組む日本維新の会は、自民党以上に積極的な改憲姿勢を見せています。9条の改正に加え、緊急事態条項の創設を強く主張し、国民投票の早期実施を訴えています。衆参両院の憲法審査会に条文起草委員会を常設すべきだという具体的な提案も行っています。

国民民主党は、首相の解散権の制限や憲法裁判所の設置など、統治機構の改革に重点を置いた独自の改憲案を提起しています。緊急事態条項の創設にも賛成の立場です。玉木代表は選挙後も「是々非々」路線を強調しており、改憲の方向性次第では協力する姿勢を示しています。

参政党は「創憲」という独自の概念を打ち出し、国民自らが憲法を創るという国民運動の推進を掲げています。日本保守党も9条改正を公約に盛り込み、自衛のための実力組織保持の明記を求めています。

みらい(安野氏の新党)は、9条改正について「現実に即して」検討すべきだという理解を示しつつ、時代の変化に合わせた改正を視野に入れる姿勢を取っています。

一方、護憲側の政党も明確な主張を展開しています。共産党は「憲法9条を守り抜き、改憲策動を許さない」と全面的に反対の姿勢を崩していません。れいわ新選組も「改憲ではなく、現行憲法を生かして必要な法や制度の整備を行う」として、既存の法律による対応で十分だと主張しています。社民党も9条に基づく平和外交の推進を掲げています。

惨敗した中道改革連合(旧立憲民主党・公明党系)は、自衛隊の憲法上の位置付けなどの議論を踏まえた改憲論議の深化を訴えていましたが、選挙で大幅に議席を失ったことで、国会における発言力は大きく低下しています。

現行憲法にはどのような問題が指摘されているのか

現行の日本国憲法は1947年に施行されて以来、一度も改正されていません。世界の主要国では憲法改正が定期的に行われており、アメリカは27回、ドイツは60回以上の改正を経ています。日本だけが約80年間にわたり一切変更を加えていないことは、それ自体が議論の対象となっています。

最も大きな問題として指摘されるのは、憲法と現実の乖離です。9条2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と規定していますが、現実には世界有数の実力を持つ自衛隊が存在しています。この矛盾は「解釈改憲」によって運用されてきましたが、憲法学者の多数が自衛隊を違憲と判断しているという学術的な状況は、法治国家として健全とは言いがたいとの批判があります。

また、緊急事態に関する規定がないことも問題視されています。大規模災害や感染症のパンデミック、武力攻撃などの緊急事態に際して、国会が機能しなくなった場合の対処法が憲法上明確でないという指摘は、東日本大震災やコロナ禍を経て説得力を増しています。

さらに、国際環境の大きな変化も議論の背景にあります。中国の軍事力増強、北朝鮮の核・ミサイル開発、ロシアのウクライナ侵攻など、日本を取り巻く安全保障環境は憲法制定時とは根本的に異なっています。

改正に伴うリスクと懸念

一方で、憲法改正には重大なリスクも指摘されています。

歯止めの喪失という問題があります。 自衛隊を憲法に明記した場合、これまで9条が果たしてきた軍事力行使に対する立憲的な歯止めが弱まる可能性があります。法学者からは、新たに加えられた条文(9条の2)が既存の9条1項・2項に優先する「後法優先の原則」が働き、実質的に9条が骨抜きになるとの懸念が示されています。自衛隊の活動範囲の拡大や防衛費の際限ない増大につながりうるという指摘です。

緊急事態条項の濫用リスクも深刻です。 歴史的に見ると、緊急事態条項は権力の集中に悪用された例があります。条項の発動条件や期間制限が曖昧であれば、時の政権による恣意的な運用を許す危険性があります。特に、緊急事態中に選挙を延期できる規定と組み合わされた場合、民主的なチェック機能が形骸化するリスクがあります。

国民投票の課題も見過ごせません。 憲法改正には最終的に国民投票で過半数の賛成が必要ですが、投票率が低かった場合、少数の意見で憲法が変更されてしまう可能性があります。また、国民投票法における広告規制の不十分さなど、制度的な課題も残されています。

さらに、「お試し改憲」への警戒もあります。 比較的合意を得やすい項目(教育充実や合区解消)から着手し、一度改憲の実績を作った上で、より本質的な条文の改正に進むという段階的な戦略に対して、最初の一歩を許せば歯止めが利かなくなるとの批判があります。

国民一人ひとりが考えるべき時

今回の選挙結果により、憲法改正はもはや「いつか来る話」ではなく、近い将来に国民投票が実施される可能性がある具体的な政治課題となりました。自民党が衆議院で単独3分の2以上を確保した今、参議院でも改憲勢力が3分の2を維持している状況を踏まえれば、改正発議自体は現実的に可能な状態です。

重要なのは、最終的な決定権は国民投票にかけられた国民一人ひとりにあるということです。改正の賛否を判断するためには、具体的にどの条文がどのように変わるのか、それによって私たちの生活や権利にどのような影響があるのかを正確に理解する必要があります。

「改憲か護憲か」という二項対立で捉えるのではなく、4項目それぞれの内容を吟味し、変えるべきところと守るべきところを冷静に見極めることが求められています。戦後80年近くにわたって日本の平和と繁栄を支えてきた憲法をどうするのか。その答えは、国民一人ひとりの手に委ねられています。

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