AIの話題を耳にしない日はなくなった。しかし「自分の周りでは使っている人をあまり見ない」という感覚もまだ根強い。実際のところ、どれくらいの人がAIを使っているのか。日本と世界では何が違うのか。今回は複数の大規模調査データをもとに、AI利用の現在地を多角的に整理する。
世界の生成AI利用率——すでに7割が「日常的に使用」
世界レベルで見ると、AIの普及は想像以上に進んでいる。
BCG(ボストン コンサルティング グループ)が2025年に世界11カ国・地域の1万600人以上を対象に実施した調査「AI at Work 2025」によると、全回答者の72%が日常的にAIを使用しており、世界全体としてAIの導入は進展した。
国別に見ると差は大きい。インド92%、中東諸国87%などが極めて高い一方、日本は51%と平均以下にとどまる。グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国での普及が特に急速で、先進国の中でも欧米との差が顕著だ。
個人の生成AI利用(仕事・プライベート問わず)では、総務省の2025年版情報通信白書がより詳細なデータを示している。比較調査した中国81.2%、米国68.8%、ドイツ59.2%との差は依然大きい状況だ。
企業の業務利用でも大差
個人だけでなく、企業単位でも日本と欧米・中国の差は際立つ。国内企業での生成AI利用率は55.2%だったが、中国95.8%、米国90.6%、ドイツ90.3%はいずれも9割を超えた。活用方針を巡っても日本では「活用する」とした企業は5割未満で、7〜9割の中国、米国、ドイツと比べ低水準だった。
日本の生成AI利用率——3年で急拡大するも「まだ少数派」
日本国内での生成AI普及はどこまで進んでいるのか。
NRC(日本リサーチセンター)のデイリートラッキング調査によると、生成AIの利用経験率は、2023年3月の3.4%から2025年6月は30.3%へと、この2年あまりで26.9ポイント増加した。
ChatGPTが登場した2022年11月から約2年半で、利用率はおよそ9倍に拡大したことになる。ただし現状ではまだ「使っている人が少数派」という状態だ。
総務省の情報通信白書ベースでは生成AIを使う個人が26.7%にとどまるとの調査結果をまとめた。前回調査からは約3倍に増えたものの、世界との差は大きい。
使わない理由は「必要ない」と「使い方がわからない」
利用しない理由として白書が挙げたのは、「生活や業務に必要ない」が4割を超えて最多で、「使い方がわからない」も4割近い水準だったという。利用意欲の低さと操作ハードルの高さが、日本の普及を阻む二大要因となっている。
年代別の利用実態——若年層と高齢層で2倍以上の開き
AI利用における世代間格差は、あらゆる調査で一貫して確認される最も顕著なデータだ。
日本の年代別利用率(総務省白書)
国内での利用率は年代差が顕著だった。最も利用率が高い20代は44.7%で、40代(29.6%)、30代(23.8%)、50代(19.9%)と続いた。最も低い60代は15.5%にとどまった。
20代の利用率は60代の約3倍。同じ日本に住んでいても、年代によってAIが「日常的なもの」か「縁遠いもの」かで、まったく異なる体験をしていることになる。
10代はさらに高い——「週1以上」が7割
若年層に絞ると数字はさらに跳ね上がる。エン・ジャパンの2025年調査では、週に1回以上利用している方は全体が33%に対し、10代は71%にのぼった。また「毎日」と回答した方は10代が37%、20代が30%だったが、30代以上は各年代10%程度にとどまった。
LINEリサーチの調査でも、現在利用している人は全体で3割強で、年代別では10代が6割弱と最も高かった。10代にとってAIはすでに当たり前のツールになりつつある。
ChatGPTの利用率にも年代差
最も使われているサービス「ChatGPT」の利用率をNRCの調査で見ると、ChatGPTの利用率は20代男性で32.8%、40代男性で30.0%と高く、女性の中では30代が21.6%で最も高い。50代女性(8.4%)および60代女性(7.7%)は全体(20.8%)よりも10ポイント超も低い。
男女別の利用実態——全体では男性が高いが、一部逆転も
男女間でもAI利用率には差が生じているが、年代との組み合わせで見ると複雑な様相を見せる。
全体では男性優位
メディアリーチの2025年調査では、男女別では男性43.8%、女性28.6%で、男性の利用率が女性より高いという結果が出ている。
NRCの調査でも、生成AI計の利用経験率は男性の方が女性よりも高く、年代別では男女20〜30代と男性40代が全体(30.3%)を上回っている。特に男性20代と30代は4割以上と高い。
若年女性は男性を超える場面も
ただし全年代を一括りにできない点が興味深い。若年層(10〜20代)は5割以上が生成AIを週1回以上利用。特に10代女性では6割に達し、デジタルネイティブ世代の高い関心が際立つ。
また、チャットGPTは30代で女性が38%で、男性31%より高いというデータもある。若年〜中年女性でのChatGPT活用はむしろ活発だ。
高齢女性の利用率が最も低い
一方で最も利用率が低い層として浮かび上がるのが、高齢女性だ。女性では20代が51%と最も高く、50代〜60代は22%、20%で全体より利用率が大きく下回っている。
50代・60代女性にとって生成AIはまだ「自分ごと」にはなっていない、という実態がデータからも読み取れる。
職場でのAI利用——日本の経営層と現場の遅れが深刻
個人の利用にとどまらず、企業・職場でのAI活用でも日本は際立った課題を抱えている。
BCGの調査を職位別に分析すると、日本のデータを職位別に見ると、経営層のうち日常的にAIを利用する人は60%で、世界平均からマイナス25ポイントと最も大きく差が開いている。次に差が大きかったのは一般従業員の33%で、世界平均より18ポイント低い結果となった。
「シャドーAI」問題——会社の許可なく使う従業員が半数超
一方で、現場の従業員は会社の方針を待たずに自分でAIを使い始めている。回答者の半数以上(54%)が「正式に許可されていなくてもAIツールを使う」とした。特にZ世代やミレニアル世代は、会社の許可がなくてもAIを利用しようとする可能性が高い。このように、従業員が無断で業務にAIツールを使用する「シャドーAI」の問題は、企業にとってセキュリティリスクの増大を招く可能性がある。
経営層のリーダーシップが鍵
一般従業員のうち、「自社の経営層はAIの使用に関して十分な指針を示してくれている」と感じている人はわずか25%となった。日本の割合はそれをさらに下回る11%となっている。
経営層が「AIを使え」と言うだけでは不十分で、具体的な指針と支援があってこそ現場への浸透が進む。この点で日本企業はまだ大きな課題を抱えている。
効果が出ていない日本企業
導入率が上がっても「使いこなせているか」は別問題だ。PwCの5カ国比較調査(2025年)によると、「期待を上回る効果があった」と回答した日本企業はわずか13%に留まり、これは調査対象国の中で最も低い数値だった。米英(約50%)の4分の1、中国・ドイツ(約25%)の半分という結果だ。
AI利用の主な目的——「検索・調べもの」が最多
実際に生成AIを使っている人は、何に使っているのか。
NRCの調査では、生成AI利用経験者に利用目的と用途を質問した結果は、「情報収集、調べもの、検索内容の要約」が55.5%で最も多い。次に「アイデア出し」が32.8%で続き、「メールや文書の作成(24.0%)」「対話型AIとの会話(23.6%)」「翻訳・通訳(22.6%)」が20%を超えている。
検索エンジンの代替として使い始める人が多く、そこから文書作成・アイデア出しへと用途が広がっていく流れが見える。
まとめ——「使っている人」と「使っていない人」の分断が進む
2025年のデータが示すのは、AI利用の急速な拡大と、同時に生まれつつある「デジタル格差」の深刻化だ。
世界では7割以上が日常的にAIを使い、インド・中東では9割に達する国もある。日本は個人利用で27〜30%台、職場での利用でも世界平均を大きく下回る。
国内でも、10代・20代の若者は過半数がAIを活用する一方、60代・特に60代女性の利用率は1〜2割台にとどまる。男性は全体的に女性より利用率が高いが、若年女性では男性を超える場面もある。
「使っている人」はより便利に、より早く仕事をこなし、「使っていない人」との差は今後ますます広がる可能性がある。利用を妨げる「必要性を感じない」「使い方がわからない」という2つの壁をどう乗り越えるか——個人としても、組織としても、その問いは避けられないところまで来ている。
【主要データ出典】
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」(2025年7月)
- BCG「AI at Work 2025: Momentum Builds, But Gaps Remain」(2025年6月・世界11カ国1万600人超対象)
- NRC(日本リサーチセンター)デイリートラッキング調査(2025年9月)
- PwC「生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較」
- エン・ジャパン「日常・仕事でのAI活用」調査(2025年7月・1,026名対象)
- LINEリサーチ 生成AIに関する調査(2025年6月・15〜69歳3,149名対象)
- メディアリーチ「生成AIによる検索・比較行動調査2025年版」(1,008名対象)
