イランで戦争が始まった——日本のガソリン価格はどうなるのか?

世界

2026年2月28日、衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。米国とイスラエルが、イランへの大規模な軍事攻撃を開始したのだ。「遠い中東の話」と感じる人もいるかもしれないが、この戦争は日本のガソリン代、電気代、そして食品を含む幅広い物価に直撃しうる話だ。なぜか、そして今後どうなるのかを整理する。

何が起きているのか——イラン攻撃の経緯

攻撃の背景

2026年に入ってから、米国とイランは核開発問題をめぐる交渉を3度にわたって行ってきた。しかしいずれも合意には至らなかった。

そして2月28日未明、米国とイスラエルは「壮絶な怒り」と名付けられた軍事作戦を発動。米宇宙軍・サイバー軍がイランの通信網を遮断した後、周辺の基地と2隻の空母から100機以上の航空機が発進して空爆を実施。海軍は巡航ミサイル「トマホーク」でイラン南部の拠点を攻撃し、米本土から派遣した戦略爆撃機B2が地下貫通型爆弾でイランの地下施設にも打撃を与えた。

この作戦で、37年間イランに君臨してきた最高指導者アリ・ハメネイ師(86)が死亡した。なお、今回の攻撃は2025年6月にも米軍がイランの核施設を空爆した「12日間戦争」以来の軍事行動で、今回はより広範囲・長期化する様相を呈している。

イランの報復と戦火の拡大

イランはハメネイ師殺害への報復として、イスラエルおよび米軍が駐留するバーレーン・UAE・カタール・クウェートの基地にミサイルを発射。UAEでは民間人1名が死亡したと報じられている。

3月4日にはNATOが、イランから発射されてトルコ領空に向かった弾道ミサイルを撃墜する事態にもなり、戦火は中東全域へと広がっている。

トランプ大統領は「4〜5週間を想定しているが、それよりはるかに長く継続できる能力がある」と述べており、長期化の懸念は現実味を増している。

なぜ日本にとって他人事でないのか——ホルムズ海峡という「急所」

日本の中東依存度

日本の原油輸入のうち、中東への依存度は93.5%(2025年実績・経済産業省)に達する。主な輸入先はUAEとサウジアラビアで両国だけで約8割を占める。そしてこれらの国々から輸出される原油は、ほぼすべてがホルムズ海峡を通って運ばれてくる。

ホルムズ海峡は、北岸にイランが接する幅約30kmの細い海峡だ。この「咽喉部」をイランが押さえている以上、中東の戦乱は自動的に日本のエネルギー安全保障を直撃する。

ホルムズ海峡は「事実上の封鎖」状態に

今回の軍事衝突を受け、多くの船舶がホルムズ海峡の航行を避けている。IMF(国際通貨基金)の調査では、攻撃前に週137隻が通過していた船舶が、現在はほとんど通過できない状態になっていると報告されている。

イラン革命防衛隊は3月1日、米英の石油タンカー3隻を攻撃したと主張。複数のタンカーで負傷者が確認されており、海運各社のリスク判断が急速に厳しくなっている。

日本船主協会は3月4日、「海上安全等対策本部」の初会合を東京都内で開催。ペルシャ湾内に会員関係の船舶44隻・日本人乗組員24人が残っていることを明らかにした。

ガソリン価格はどうなる?——3つのシナリオ

野村総合研究所・日本総研など複数の経済機関がシナリオ分析を公表している。

シナリオ①:短期収束(楽観ケース)

軍事衝突が2025年6月の前回並みにとどまり、原油価格の上昇幅が1バレル10ドル程度に収まるケース。この場合でもガソリン価格は一定上昇するが、政府の補助金対応などで抑制できる余地がある。

シナリオ②:長期化・部分的輸送障害(ベースケース)

軍事衝突が長期化し、ホルムズ海峡での原油輸送への支障が続くケース。原油価格は1バレル87〜90ドル台に上昇すると想定。この場合、ガソリン価格はリッター200円を超える可能性があると複数の専門家が試算している。

シナリオ③:ホルムズ海峡の完全封鎖(悲観ケース)

イランが正式にホルムズ海峡の完全封鎖を宣言し、それが長期間(1年以上)続くケース。原油価格が1バレル120〜140ドル(リーマンショック前の2008年最高水準)に達する可能性がある。日本総研の試算では、中東からの原油・LNG輸入が完全に途絶した場合、石油備蓄が約260日で払底し、電気・ガス業や製造業を中心に減産圧力が高まり、GDPを3%弱押し下げると見込んでいる。

現在のガソリン価格は?

経済産業省が2026年3月4日に発表したデータによると、3月2日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は158円50銭(前週比+1円40銭)。3週連続の値上がりとなった。

ただし、この価格には2月28日以降の米・イスラエルのイラン攻撃の影響はまだ十分に反映されていない。世界の原油価格はWTI先物が攻撃前夜の67ドル台から一時75ドルへと約12%急騰しており、今後数週間で店頭価格への本格的な転嫁が始まるとみられている。

なお、今年1月中旬には154円70銭と約4年半ぶりの安値水準を記録していた。これは2025年12月末にガソリン税の暫定税率が廃止され、リッターあたり20円以上の値下げが実現したためだ。今回の原油高騰はその値下げ効果を相殺しかねない状況だ。

電気代・食品価格にも波及——「第三次オイルショック」の懸念

ガソリンだけが上がるわけではない。

電気・ガス代:LNG(液化天然ガス)の輸入価格は原油価格に連動する傾向があるため、ガスと電気代にも値上がり圧力がかかる。夏ごろには電気・ガス代への本格的な影響が出始めるとの見方もある。

物流コスト:軽油価格の上昇はトラック輸送のコストに直撃する。物流コスト増は、生鮮食品を含むあらゆる商品の価格に転嫁される。

製造業への影響:エネルギーコストの増大は、鉄鋼・化学・自動車などの基幹産業のコスト構造を圧迫し、日本の製造業全体の競争力低下につながりうる。

一部では「第三次オイルショック」という言葉も使われ始めている。

日本政府の対応——備蓄と補助金

日本政府は国家備蓄と民間備蓄を合わせて約8.5ヶ月分の石油備蓄を保有しており、「直ちに需給に影響が出るわけではない」として国民に冷静な対応を呼びかけている。

2025年6月の前回のイラン攻撃の際には、原油価格の急騰を受けてガソリン価格補助金を急遽拡充した経緯がある。今回も状況の長期化によっては、同様の補助措置が検討される可能性がある。

一方で、日本の財政的な対応余力には限界もある。専門家からは、短期的な補助金対応だけでなく、エネルギー調達先の多角化・再生可能エネルギーの推進・原子力発電の活用など、構造的な対応の必要性を指摘する声も上がっている。

今後のポイント——何を注視すべきか

今後の日本のガソリン・物価動向を左右する主なポイントは以下の通りだ。

ホルムズ海峡の状況:事実上の封鎖がどれくらい続くか。正式な封鎖宣言があるかどうかが最大のカギとなる。

戦闘の長期化・拡大:トランプ大統領は4〜5週間の作戦期間を想定しているが、イランの抵抗次第で長期化する可能性がある。また、サウジアラビアやUAEの石油施設がイランの報復攻撃を受ければ、供給不安は一段と深刻化する。

外交的解決の糸口:UAEとカタールがトランプ大統領への働きかけを水面下で続けているとされ、早期の外交的解決を模索する動きもある。

日本政府の補助措置:状況の悪化に応じて、補助金の追加や備蓄の放出などの緊急対応が取られるかどうか。

まとめ

イランで始まった戦争は、日本のガソリン代・電気代・食品価格を通じて、私たち一人ひとりの生活に影響を及ぼしつつある。現時点(3月4日)でのガソリン価格は158円50銭だが、原油市場の急騰がまだ十分に反映されていない段階であり、今後数週間が正念場となる。

悲観シナリオが現実になれば、リッター200円超えも現実的な話として浮上する。過去のオイルショックの経験が示す通り、エネルギー価格の高騰は家計を直撃するだけでなく、経済全体に広範な悪影響をもたらす。

今は状況を冷静に注視しながら、無駄なパニック行動(ガソリンの買い占めなど)を避けつつ、必要に応じた家計の見直しを検討するタイミングかもしれない。


本記事は2026年3月4日時点の報道・各機関の分析をもとに作成しています。状況は急速に変化しており、今後の情勢によって見通しは大きく変わる可能性があります。

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