2024年12月19日、政府は首都直下地震の被害想定を12年ぶりに見直し、新たな報告書を公表しました。30年以内に70%程度の確率で発生するとされるマグニチュード7クラスの首都直下地震。死者最大1万8000人、経済被害83兆円という想定は、私たち一人ひとりに「自分ごと」として備えることの重要性を改めて突きつけています。
新たな被害想定の概要
今回公表された報告書によれば、最も首都機能に影響が大きい「都心南部直下地震」が発生した場合、茨城県から神奈川県の5都県187市町村で震度6弱以上を観測すると想定されています。東京・江東区では最大震度7に達する可能性があります。
想定される死者数は最大約1万8000人で、その3分の2にあたる約1万2000人が火災による犠牲者です。全壊・焼失となる建物は最大約40万棟、経済被害は最大約83兆円に上ります。
ハード・ソフト両面で対策が進められてきたにもかかわらず、前回2013年の想定(死者最大2万3000人)からわずか5000人の減少にとどまりました。政府が掲げた「10年で死者を半減させる」という目標には遠く及ばない結果となっています。
ライフラインの復旧には1か月以上かかるものもあり、東京湾沿岸の火力発電所の被災状況次第では、計画停電や最悪の場合ブラックアウトに陥る可能性も指摘されています。
帰宅困難者は最大約840万人と想定され、そのうち約670万人には職場や学校などの居場所があるものの、3日以上とどまれる備えが必要とされます。避難所への避難者は最大約480万人で、ライフラインの途絶が続く影響で、地震発生2週間後にピークを迎える見込みです。
首都直下地震とは何か
首都直下地震とは、首都圏の直下で発生が予測されているマグニチュード7クラスの地震です。相模トラフ沿いのプレート境界や、その周辺の活断層で発生する可能性があります。
政府の地震調査研究推進本部によれば、マグニチュード7程度の地震が30年以内に発生する確率は約70%とされています。これは「いつ起きてもおかしくない」レベルの高確率です。
首都圏には政治・経済・文化の中枢機能が集中しており、人口も過密です。そのため、被害は日本全体に及ぶことが懸念されています。
私たちが備えるべきこと
今回の報告書で強調されているのは「ひとりひとりが『自分ごと』として対策に取り組む」というメッセージです。政府の増田寛也主査は、個人や家庭で以下の対策を実施するよう呼びかけています。
住宅の耐震化は最も重要な対策の一つです。特に1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物は、大地震で倒壊する危険性が高いとされています。自治体の耐震診断や改修補助制度を活用し、早急に対策を講じる必要があります。
家具の固定も命を守る重要な対策です。阪神・淡路大震災では、死因の約83%が建物倒壊による圧死でした。寝室や居間の大型家具を壁に固定し、就寝時の安全を確保しましょう。
感震ブレーカーの設置は電気火災を防ぐために有効です。地震による火災の多くは、停電後の通電時に発生します。感震ブレーカーは一定以上の揺れを感知すると自動的に電気を遮断するため、延焼拡大を防ぐことができます。
食料や水の備蓄は最低3日分、できれば1週間分を用意しておくことが推奨されています。避難所より在宅避難の方が過ごしやすいため、自宅で長期間生活できるよう備えることが重要です。具体的には、飲料水(1人1日3リットル)、非常食、常備薬、懐中電灯、ラジオ、モバイルバッテリーなどを準備しましょう。
職場での備えも欠かせません。帰宅困難者対策として、職場に3日分以上の水と食料、簡易トイレなどを備蓄しておく必要があります。むやみに帰宅しようとすると、緊急車両の移動を妨げる可能性があります。
日本を襲った大地震の歴史
日本は地震大国であり、これまでも多くの大地震に見舞われてきました。その経験から学ぶことは、今後の防災対策に不可欠です。
関東大震災(1923年)は、マグニチュード7.9の関東地震により発生しました。死者・行方不明者は約10万5000人に上り、明治以降最大の地震被害となっています。正午前の発生だったため、昼食の準備中に出火した火災が強風にあおられて延焼し、3日間燃え続けました。木造住宅が密集していた東京では、火災による焼死が多数を占めました。
阪神・淡路大震災(1995年)は、マグニチュード7.3の兵庫県南部地震により発生しました。早朝5時46分の発生で、就寝中の人が多かったため、死者6434人の約83%が建物倒壊による圧死でした。戦後の高度経済成長期を経た大都市を襲った初めての大地震として、現代都市の脆弱性を浮き彫りにしました。
東日本大震災(2011年)は、マグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震により発生しました。日本国内観測史上最大の地震で、死者・行方不明者は約2万人に達しました。巨大津波による被害が甚大で、福島第一原子力発電所事故も引き起こしました。この震災を契機に、大規模災害への対策が全国的に見直されることとなりました。
これら3つの大震災から学べることは、地震の種類や発生時間、気象条件などによって被害の様相が大きく異なるということです。そして、どの震災でも事前の備えが被害を軽減する鍵となっています。
今後の日本の防災対策
今回の被害想定見直しを受けて、政府は2025年春に「首都直下地震緊急対策推進基本計画」を改定する予定です。減災目標の達成状況を検証し、新たな対策を盛り込む方針です。
しかし、公助には限界があります。大規模災害時には行政の対応能力を超える事態が発生します。だからこそ「自助」と「共助」が重要なのです。
自助とは、自分の命は自分で守ることです。住宅の耐震化、家具の固定、備蓄などは個人でできる対策です。共助とは、地域で助け合うことです。日頃から近所付き合いを大切にし、災害時に協力し合える関係を築いておくことが重要です。
企業にも事業継続計画(BCP)の策定が求められています。災害時でも重要業務を継続できるよう、事前に対策を講じておく必要があります。
おわりに
首都直下地震は必ず来ます。それがいつなのかは誰にもわかりません。だからこそ、今日から備えを始めることが大切です。
「自分は大丈夫」という根拠のない楽観主義ほど危険なものはありません。新たな被害想定が示すのは、私たち一人ひとりの行動次第で被害を減らせるという事実です。
住宅の耐震化、家具の固定、備蓄、感震ブレーカーの設置。これらは決して難しいことではありません。費用がかかるものもありますが、自治体の補助制度も用意されています。
関東大震災から100年が経ちました。阪神・淡路大震災から30年、東日本大震災から14年。先人たちが命と引き換えに残してくれた教訓を無駄にしてはいけません。
備えあれば憂いなし。首都直下地震を「自分ごと」として捉え、できることから始めましょう。あなたとあなたの大切な人の命を守るために。

