「政治家って、国会でヤジを飛ばしているだけじゃないの?」
そんなふうに思っている人は少なくないかもしれない。テレビの国会中継に映るのは、どこか眠そうにしている議員たちや、時に騒然とする本会議の風景だ。しかし実際には、国会議員の仕事はテレビに映らない部分の方がはるかに多い。早朝から深夜まで、立法・政策・地元活動・陳情対応と、その仕事は多岐にわたっている。
本記事では、政治家――主に国会議員――が実際にどのような仕事をしているのかを、その役割・日常・報酬・課題まで丁寧に見ていく。
政治家には二つの顔がある
政治家の仕事を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「二つの顔」だ。
一つは「国(や自治体)の立法者」としての顔。もう一つは「地元選挙区の代表」としての顔だ。この二つは時に相互補完しながら、時に矛盾しながら、議員の日常を形作っている。
「国の代表」として法律や予算を決める仕事は、国民全体の利益を考える高い視座を求める。しかし「地元の代表」として支持者の声に応える仕事は、目の前の個別の利害に向き合うことを意味する。この緊張関係こそが、政治家という職業の本質的な難しさでもある。
国会議員の四大仕事
1. 立法――法律をつくる
国会議員の最も本質的な仕事は、法律をつくることだ。日本国憲法第41条は国会を「国の唯一の立法機関」と定めており、法律の制定は議員にしかできない権限だ。
法律ができるまでの流れはおおむね次の通りだ。まず内閣または議員が法案(法律案)を作成・提出する。次にその法案は関連する委員会で審議され、専門的な観点から修正や議論が行われる。その後、本会議で全議員が審議・採決し、衆参両院で可決されれば法律が成立する。
ただし、現実には「議員立法」よりも「内閣提出法案(閣法)」の方が圧倒的に多い。議員が自ら法案を起草するには相当な専門知識と調査能力が求められるため、多くの法案は各省庁の官僚が下書きし、内閣が国会に提出するかたちをとる。議員立法の割合を増やすことは、国会の「自律性」を高める観点から長年課題とされている。
2. 予算の審議と承認
国家予算は内閣が策定するが、それを国民に代わって審議・承認するのが国会の仕事だ。毎年度の予算額は約100兆円規模にのぼり、税金がどの分野にどれだけ使われるかを決める作業は、国民生活に直結する。
予算委員会での審議は、現在の内閣の政策全般を問いただす場ともなっており、野党による政府追及の舞台としてメディアにも取り上げられやすい。
3. 行政の監視
三権分立の観点から、国会は行政(内閣・官僚組織)が正しく機能しているかを監視する役割も担う。国政調査権を持つ国会は、政府に対して資料提出を求めたり、証人を国会に呼んで証言させたりすることもできる。
野党議員にとっては、この「行政の監視・追及」が政治家としての存在感を示す最大の舞台でもある。質問主意書の提出、委員会での鋭い質疑、政治資金や官僚の不正を追うことは、政権与党との力関係にかかわらず、少数でもできる重要な仕事だ。
4. 外交・条約の承認
内閣が諸外国と結ぶ条約についても、国会の承認が必要だ。経済連携協定(EPA)や安全保障関連の条約など、国民の生活に長期的な影響を与える国際的な約束事を、国民の代表として精査・承認するのも議員の責務となる。
テレビに映らない日常――議員の一日
国会会期中の国会議員の一日は、驚くほど分刻みのスケジュールだ。
早朝には地元選挙区での「駅頭活動」からスタートする議員も多い。その後、永田町に移動して「朝食勉強会」に出席し、最新の政策課題についての情報を仕入れる。
午前中は議員会館の事務所が拠点となる。企業・業界団体・市民グループなどからの「陳情」(要望の申し入れ)がひっきりなしに訪れるほか、午後の委員会審議に備えて省庁担当者から政策説明を受ける「レク(レクチャー)」の時間が続く。
午後は委員会や本会議への出席、党の政策部会での議論、省庁・支持者・記者との面会が続き、夜は政治資金パーティーや各種後援会の懇親会に顔を出す。深夜に帰宅するのが常態化している議員も少なくない。
国会の閉会中や週末は、地元選挙区での活動が中心になる。地域の祭りや式典への出席、支持者回り、各種団体との会合——選挙に勝ち続けるためには地域との絆を絶やさないことが不可欠で、この地元活動もまた政治家の「仕事」の重要な一部だ。
地方議員のお仕事
国会議員の話が中心になりがちだが、日本の政治家の大多数は地方議員だ。都道府県議会議員、市区町村議会議員がおり、それぞれ身近な地域の問題に取り組んでいる。
地方議員の仕事は、条例(地方の法律に相当するもの)の制定、地方予算の審議と承認、首長(知事・市長)が行う行政の監視が中心だ。交通、医療、子育て、福祉、農林水産、防災など、市民の日常生活に直結するテーマを扱うことが多く、国会議員よりも住民との距離が近い。
定例議会は年4回行われる地方議会が多く、その会期外は地域を歩き、住民の声を聞き、課題を把握することに時間を割く。国会議員に比べると注目度は低いが、生活の基盤を支える政策を動かしているのは多くの場合、この地方議員たちだ。
報酬と経費――「高すぎる」のか?
国会議員の報酬は「歳費」と呼ばれ、月額129万4,000円。期末手当(ボーナス相当)を含めた年収は約2,188万円だ。これに「調査研究広報滞在費」として年1,200万円が別途支給され、公設秘書(3名まで)の給与も国が負担する。
「高すぎる」という声がある一方で、実態を聞くと単純にそうとも言えない側面もある。事務所の賃料、私設秘書の人件費、政治活動の印刷・通信費など、議員が自腹で負担する経費も膨大で、一人の議員にかかる年間経費は7,500万円にのぼるとも言われる。
問題の本質は金額そのものよりも「お金の使い道の不透明性」にある。調査研究広報滞在費(かつての「文書通信交通滞在費」)は長年、使途の公開義務がなく、領収書なしに使える「第二の報酬」として批判されてきた。近年は透明化に向けた改革が進んでいるが、まだ課題が残されている。
政治家という仕事の本質と課題
政治家に求められる資質を一言で言えば、「公共の利益のために判断し、行動する力」だろう。有権者の声を聴く耳と、時に有権者が望まなくても必要な政策を推し進める胆力の両方が必要だ。
しかし現実の政治家の多くが、法案立案や政策の深掘りよりも、支持者へのあいさつ回りや選挙対策に多くの時間を費やしているという指摘もある。「先生」と呼ばれ、陳情を受け続ける日常の中で、本来の立法者としての使命感が摩耗していく構造的な問題もある。
また政治家の高齢化も課題だ。現役世代・若年世代の声が政治に届きにくくなれば、少子化対策や社会保障改革といった「将来への投資」が後回しにされる可能性がある。
まとめ――「先生」たちの仕事を知ることが民主主義の第一歩
政治家の仕事は、表から見えている国会の答弁や委員会質疑だけではない。早朝の駅頭から深夜の会合まで、法律の立案から地元の陳情対応まで、その仕事は広大で多忙だ。
しかし同時に、その仕事の質や方向性は、最終的に私たち有権者がどれだけ関心を持ち、どのような判断をするかにかかっている。「政治家がどんな仕事をしているのか知る」ことは、選挙で投票する行為に深みを与え、民主主義を機能させる最初の一歩となる。
私たちが「先生」と呼ぶ人たちの仕事の実態を知ること——それ自体が、市民としての政治参加の始まりなのかもしれない。
