出生数70万人割れ目前――日本の少子化は世界の中でどういう位置にあるのか

時事

速報値が示す衝撃の数字

2026年2月26日、厚生労働省は2025年の人口動態統計の速報値を発表した。

2025年の出生数は70万5,809人で、10年連続で過去最少となった。死亡数は160万5,654人。一方、婚姻件数は50万5,656組で2年連続で増加している。厚労省は「若年人口の減少や晩婚化・晩産化といったことが背景として考えられ、少子化に歯止めがかかっていない状況と重く受け止めている」としている。

この速報値は外国人を含む数字だ。なお、前年2024年の速報値は72万0,988人だったが、確定値(日本人のみ)で見ると2024年の出生数は68万6,061人となり、1899年の統計開始以来初めて70万人を割り込んだ。合計特殊出生率は1.15で、前年の1.20より低下している。

数字の基準にかかわらず、少子化のスピードは専門家の予測を大幅に上回るペースで進んでいる。国の想定より15年早く70万人(日本人のみの確定値ベース)を割り込んだ。

世界と比べた日本の位置

先進国(G7)の中での日本

少子化は先進国共通の課題だが、日本の状況は特に深刻だ。

日本のG7内での順位は第6位と非常に低く、世界的に見ても227か国中212位であり、最低水準にある。人口を維持するには出生率2.06〜2.07が必要とされるが、2024年のデータではG7すべての国がこの数値を下回っており、多くの先進国が深刻な少子化問題を抱えていることがわかる。

G7で最も高いのはフランスで、日本は第6位にあたる。

フランスとスウェーデンは、かつて日本と同じように出生率が低下した時期を経験しながら、国家戦略として少子化対策を推進し、出生率を回復させてきた代表例として知られる。フランスは1990年代に出生率が1.65まで低下したが、2010年には2.01まで回復。スウェーデンも1999年に1.50で最低を記録した後、1.9台まで回復した。ただし最近は両国でも再び出生率の低下が見られており、フランスの2024年の出生率は1.62と、過去100年余りで最も低い水準を更新している。

近隣アジア諸国との比較

日本を取り巻くアジアの状況も深刻だ。むしろ日本よりさらに低い国が近隣に存在する。

近隣アジアに注目すると、韓国は0.734人、台湾は0.863人、中国は1.013人と、いずれも日本の合計特殊出生率1.217(国連推計)より低い。韓国や台湾では経済・制度面での対策を積極化しているものの、「子は少なくても質を高く育てる」といった家族観が合計特殊出生率の改善を阻む要因となっている。中国では長年にわたる一人っ子政策で「子どもは一人で十分」という家族観が定着したことが改善を阻む要因となっており、国連予測では50年後に10億人を割り込む見通しだ。

出生率が高い国・地域

一方、世界を広く見渡すと、出生率の高い国も多く存在する。アフリカ地域では軒並み高い出生率が維持されており、背景の一つとして、一族の血脈を保ち社会的地位を受け継がせるために子どもを持つことに高い価値を置いており、避妊への抵抗感が根強いことが挙げられる。また、人口抑制政策を確立している国が少なく、家族計画の普及が遅れていること、貧しい家庭が多く労働力として子どもをたくさん産むことも理由として指摘されている。

世界平均の合計特殊出生率は2.248人(2024年)であり、人口置換水準を上回る水準にあることなどから、世界全体の人口は引き続き右肩上がりで増えている。つまり「少子化」は先進国特有の問題であり、経済発展と出生率低下は強く結びついている。

少子化が引き起こす問題

労働力不足と経済縮小

出生数の減少は、数十年後の労働力人口の減少に直結する。働き手が減れば国内総生産(GDP)の成長も鈍化し、税収も落ち込む。社会保障費の増大と税収減という二重苦に直面した国家財政は維持が難しくなっていく。

すでに日本では多くの業種で人手不足が深刻化しており、建設・介護・農業・飲食業など、現場を支える担い手の確保が喫緊の課題となっている。

社会保障制度の持続可能性

少子高齢化が進むと、現役世代が高齢者を支える社会保障の構造が崩れていく。年金・医療・介護の財源を確保するために必要な「支え手」が不足し、1人の高齢者を支える現役世代の人数は年々減少している。出生数が毎年減少し続けているのとは反対に、死亡数は大幅に増加しており、出生数から死亡数を差し引くと人口はマイナスとなり、その数は2024年に初めて90万人を超えた。現在の社会保障制度はある程度の人口規模を前提に設計されており、出生数が急減する中でその抜本的な見直しが迫られている。

地域社会の崩壊

少子化は都市部より地方でより深刻な影響を及ぼす。学校の廃校、商店街の空洞化、公共交通の廃止、地域コミュニティの解体――人口減少が続く地方では、生活インフラの維持すら困難になりつつある自治体も少なくない。若者の都市集中が進む中で、地方の消滅リスクは現実のものとなっている。

国防・安全保障への影響

人口は国の底力を支える基盤でもある。若年人口の減少は、自衛隊をはじめとする防衛力の担い手確保にも影響を与える。すでに自衛隊の充足率低下は問題化しており、人口減少との関係は安全保障の観点からも無視できない課題となっている。

諸外国の少子化対策――何が効いているのか

フランスのモデル

フランスは家族給付の水準が全体的に手厚い上に、特に第3子以上の子をもつ家族に有利になっているのが特徴だ。かつては家族手当等の経済的支援が中心だったが、1990年代以降は保育の充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で進められてきた。

具体的には、第2子以上の家庭への家族手当(所得制限なし)、N分N乗方式と呼ばれる多子家庭に有利な所得税の軽減、3歳以上の保育学校への100%就学保障、保育ママやベビーシッターの低コスト活用制度などが整備されている。「産めば産むほど有利なシステム」として設計されているのがフランスモデルの特徴だ。

スウェーデンのモデル

スウェーデンでは、40年近くにわたり経済的支援や「両立支援」施策を進めてきた。両親保険(1974年に導入された世界初の両性が取得できる育児休業の収入補填制度)に代表される充実した育児休業制度、多様かつ柔軟な保育サービスを展開し、男女平等の視点から社会全体で子どもを育む支援制度を整備している。

出産後480日間の育児休暇のうち390日間は所得の8割が支給される。この育児休暇は両親の合計で与えられるのがポイントで、父親が育児・家事の主な担い手になることも珍しくない。GDP(国内総生産)に占める少子化対策への公的支出の割合は、スウェーデンが3.4%、フランスは2.9%と、日本(1.6%)の2倍前後に上る。

「欧米モデルのコピー」では解決しない

ただし、欧州モデルをそのまま日本に移植することには限界があるという指摘もある。

合計特殊出生率が高いフランスやスウェーデンでは婚外子や同棲の割合が高く、生まれる子の半分以上が法律婚によらない出生だ。しかし日本では、同棲率や婚外子率が2%前後にとどまっており、同棲率はかえって低下している。

日本では、近年は多少低下気味とはいえ、結婚した女性は平均2人程度は産んでいる。同棲率や婚外子率が低いので、結婚していない若者が増えたことが最大の要因だ。

つまり日本の少子化の本質は「結婚した夫婦が子どもを産まない」のではなく、「そもそも結婚しない・できない若者が増えている」ことにある。背景には経済的な将来不安、住宅コスト、長時間労働文化、男女の不平等な家事・育児負担など、複合的な要因が絡み合っている。

打開策はあるのか――日本が取りうるアプローチ

経済的支援の抜本的強化

育児にかかる費用の実態に対応した児童手当の拡充、保育・教育費の無償化範囲の拡大、第2・3子への手厚い加算制度の導入などが求められる。現在の日本の家族関係政府支出はGDP比約1.6%にとどまり、フランスやスウェーデンの半分程度だ。財源論を含めた本格的な議論が必要だ。

男性育休の実質化と働き方改革

制度としての育休は整備されてきたが、男性の取得率はいまだ低く、職場での空気や上司の態度が取得を阻む現実がある。スウェーデンのように「父親が育児休業を取るのが当たり前」という社会規範の変革なくして、出生率の回復は難しい。長時間労働文化の是正と、育児と仕事を本当に両立できる職場環境の整備が必要だ。

若者の将来不安の解消

若者が将来の生活リスクを感じることなく、自分の子どもを自分が育った以上の環境で育てられる状況を整えることが必要だ。それを「確信」して初めて、結婚や恋愛に踏み切ろうとする若者が増える。正規・非正規雇用の格差是正、若者の賃金水準の底上げ、奨学金問題の解消など、若者が「子育てできる経済的見通し」を持てる環境づくりが急務だ。

移民・外国人労働者の受け入れ

即効性という点では、移民・外国人労働者の受け入れも選択肢の一つとして現実的な議論が求められる。ただし、社会統合のコスト、言語・文化の壁、国民の合意形成など、クリアすべき課題も多い。日本社会がどこまでこの変化を受け入れられるか、社会的な合意形成が問われる。

短期ではなく「数十年単位」の取り組みが必要

フランスとスウェーデンの政策は、十分に手厚く、とても長い時間をかけて行われており、その成果がやっとこの程度の回復をもたらしたといえる。少子化対策に即効薬はない。社会構造を変えるには数十年単位の一貫した取り組みが必要であり、政権が変わっても方針がぶれない長期的なコミットメントが不可欠だ。

まとめ

2025年の出生数(速報値・外国人含む)は70万5,809人と10年連続で過去最少を更新した。前年2024年の速報値は72万0,988人、日本人のみの確定値では68万6,061人と統計開始以来初めて70万人を割り込んでおり、厚労省が当初想定していたより15年も早いペースで少子化が進行している。

合計特殊出生率1.15(2024年)は先進国の中でも最低水準に位置し、韓国・台湾・中国とともに東アジアの「超低出生率クラスター」を形成している。問題の本質は経済的支援の不足だけではなく、若者の将来不安、男女不平等な家事育児負担、長時間労働文化、晩婚化・非婚化の進行など、社会構造全体の問題だ。フランスやスウェーデンのモデルからは多くを学べるが、そのままコピーすることには限界もある。日本社会の実情に即した複合的・長期的なアプローチが求められている。

婚姻数が2年連続で増加したことは唯一の明るい兆しともいえる。しかし結婚から出産への流れを支える経済的・社会的基盤が整わなければ、この回復も出生数の増加には直結しない。「少子化に歯止めがかかっていない」という厚労省の重い言葉を、社会全体で真剣に受け止める必要がある。


本記事は2026年2月時点の情報に基づいています。出生数の数値は集計方法(速報値/確定値、外国人含む/日本人のみ)によって異なります。合計特殊出生率の数値は各機関・年次により若干異なる場合があります。

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