2025年、自動運転は「実証」から「実装」へと本格的に移行する転換期を迎えています。日本では2月にレベル4(完全自動運転)の中型バスが国内初の営業運行を開始し、米国ではGoogle系Waymoの自動運転タクシーが週25万回を超える運行を達成しました。しかし、日本と海外の進展状況には大きな差が開いており、様々な課題も浮き彫りになっています。自動運転の現状と未来を整理します。
自動運転レベルとは
自動運転は自動化の度合いに応じて5段階に区分されます。
- レベル1・2:運転支援。ドライバーによる周辺監視が必須
- レベル3:条件付運転自動化。一定条件下でシステムが主体だが、緊急時は人間が対応
- レベル4:高度運転自動化。限定領域内で完全無人運転が可能
- レベル5:完全運転自動化。あらゆる場所で無人運転が可能
現在、レベル3はホンダやメルセデス・ベンツが市販車で実現済み。レベル4の実用化が各国で進んでいます。
日本の現状:地方から都市部へ
政府目標と実証実験
日本政府は「デジタル田園都市国家構想」の下、「2025年度に50カ所程度、2027年度までに100カ所以上でレベル4自動運転サービスを実現」という目標を掲げています。当初の「2030年までに100カ所」から3年も前倒しされました。
2024年度には全国で約100カ所もの実証実験が行われましたが、その多くはまだレベル2(保安要員同乗)の状態です。
レベル4の営業運行が始まった
福井県永平寺町では2023年5月、全国初のレベル4による移動サービス「ZEN drive」が開始されました。7人乗り電動カートが約2kmの区間を時速12kmで走行します。ただし、2023年10月に自転車との接触事故が発生し、一時運休。システム改良後に運転を再開しています。
茨城県日立市では2025年2月3日、国内初の中型バスでのレベル4による営業運行が開始されました。「ひたちBRT」での約6.1km走行は、国内のレベル4では最長距離となります。
自動車メーカーの取り組み
トヨタは2024年から東京・お台場でレベル4のロボタクシー実証を開始し、2025年以降の有償化と都心部への拡大を目指しています。
日産は横浜市みなとみらい地区で実証実験を進めており、2027年度に地方を含む3〜4市町村で有償サービス開始を計画しています。
ホンダはGM、Cruiseと共同で、2026年初頭にも東京都心部で自動運転タクシーサービスを開始する予定でした(ただしCruiseは2024年12月に事業閉鎖を発表)。
日本の課題:低リスク環境からの脱却
日本の自動運転政策は、限定的な環境から始めて徐々に高度化を図るアプローチでした。しかし、低リスクの環境で育てたシステムは、複雑な都市部では通用しません。
専門家は「米中と比較して、特に自動運転タクシーの開発で後れを取っていることは明らか」と指摘します。施設の敷地内や地方部の短いルートでの開発が先行し、都市部の中心市街地を走行するモデルの開発は遅れています。
海外の現状:Waymoの圧倒的優位
米国:商用化が加速
米国では、Google系Waymo(ウェイモ)が圧倒的な先行優位を築いています。
Waymoの実績:
- 2018年12月、世界初の自動運転タクシー商用運行を開始
- 2024年8月時点で週10万回の運行を達成
- 2025年5月には週25万回を超え、累計1,000万回の乗車を達成
- サンフランシスコ、フェニックス、ロサンゼルスの3都市で24時間運行
- 2025年にオースティン、アトランタ、マイアミなど複数都市へ拡大予定
Waymoの安全性は人間のドライバーを上回ります。走行距離100万マイルあたりの負傷事故件数は、人間の運転手4.26件に対し、自動運転タクシーは0.79件(81%減少)という調査結果が出ています。
利用体験:スマホアプリで呼び出すと、無人のジャガー製EV「I-PACE」が到着。ドアは呼び出した本人のアプリでのみ開錠され、乗車後は完全自動運転で目的地まで送り届けられます。事前料金確定制で、需給に応じたダイナミックプライシングを採用しています。
Waymoの日本進出
2024年12月、Waymoは初の海外進出として2025年初頭から東京での試験開始を発表しました。日本交通、GOと提携し、港区、新宿区、渋谷区など7区でデータ収集を開始します。
複雑な都市部で鍛えられたWaymoのシステムは、日本の地方部の社会課題解決にも貢献する可能性があると期待されています。
その他の動き
- テスラ:ハンドルのない専用車両「Cyber cab」を発表。2026年生産開始予定
- アマゾン傘下Zoox:ネバダ州ラスベガスで2024年内のサービス開始を目指す
- GM Cruise:2024年12月に事業閉鎖を発表。2023年10月の人身事故が影響
今後の課題
1. 技術的課題
複雑な都市環境への対応:歩行者、自転車、他の車両が混在する環境で、最適な危険回避を判断する必要があります。日本特有の狭い道路、複雑な交差点への対応も課題です。
天候への対応:雨、雪、霧などの悪天候時の走行精度向上が必要です。
想定外の事態への対応:工事、事故、イベントなど、地図データにない状況への柔軟な対応が求められます。
2. 法制度・社会受容性
事故時の責任:無人車両が事故を起こした場合、開発者、運行者のどちらが責任を負うのか、明確化が必要です。
社会的受容:福井県永平寺町での事故のように、一度のトラブルが社会的信頼を大きく損なう可能性があります。
雇用への影響:タクシー、バス、トラックドライバーの雇用減少への対応が必要です。「2024年問題」(運転士の労働時間規制)の解決策として期待される一方、慎重な対応が求められます。
3. コスト
自動運転車は、カメラ、センサー、コンピューターなど高価な機器が必要で、非常に高額です。Waymoは第6世代システムでコスト削減を進めていますが、一般への普及にはさらなる低価格化が必要です。
4. インフラ整備
通信環境:5G網の整備、V2X(車と周辺環境の通信)の標準化が必要です。
高精度地図:cmレベルの精度を持つ3次元地図の整備と更新が不可欠です。
サイバーセキュリティ:ハッキングによる遠隔操作を防ぐため、強固なセキュリティ対策が必須です。
遠い未来のビジョン
完全自動運転社会(2030年代〜)
移動の自由:高齢者や障害者、免許を持たない人々が自由に移動できる社会が実現します。
交通事故ゼロ:人的ミスによる事故が劇的に減少。2023年の交通死亡事故2,288件のうち88.3%は人間が第一当事者でした。
渋滞の解消:AI制御により、車両間の最適な車間距離と速度調整で渋滞が大幅に軽減されます。
都市設計の変革:駐車場が不要になり、都市空間を公園や住宅に再活用できます。
新しいライフスタイル:移動中に仕事、読書、睡眠が可能に。長距離通勤も苦にならなくなります。
MaaS(Mobility as a Service)の進化
自動運転車、ドローン、空飛ぶクルマが統合され、シームレスな移動サービスが実現します。個人で車を所有する必要がなくなり、必要なときに必要な移動手段を選ぶ時代が来るでしょう。
まとめ:実現への道のり
自動運転は「SF」から「現実」へと確実に近づいています。しかし、日本が米中に追いつくには、低リスク環境での開発から脱却し、複雑な都市部での実証を加速させる必要があります。
政府は2027年度までに100カ所以上という野心的な目標を掲げていますが、量だけでなく質も重要です。Waymoのように、最初から難易度の高い環境でシステムを磨くアプローチに学ぶべき点も多いでしょう。
技術的には実現可能になりつつある自動運転ですが、社会的受容性、法制度、コスト、インフラ整備など、解決すべき課題は山積しています。しかし、これらの課題を一つずつクリアしていけば、交通事故ゼロ、移動の自由、新しいライフスタイルという未来が待っています。
2025年は、日本の自動運転が「実証」から「実装」へ移行する重要な転換点です。Waymoの日本進出も刺激となり、今後数年で日本の自動運転がどこまで進化するか、注目です。

