輸血のシステムと仕組み:医療現場を支える血液供給体制

社会

輸血は現代医療において不可欠な治療手段の一つです。手術、事故、がん治療、出産時の大量出血など、様々な場面で患者の命を救う役割を果たしています。本記事では、輸血がどのような仕組みで行われているのか、献血から患者への輸血まで、日本の輸血システムについて客観的に解説します。

日本の血液供給体制

日本における血液供給は、日本赤十字社が中心となって運営されています。日本では「献血」によって集められた血液のみが医療現場で使用されており、売血制度は1964年に閣議決定で廃止されました。

献血の種類

献血には以下の種類があります:

全血献血は200mLまたは400mLの血液を採取する方法で、採血にかかる時間は10~15分程度です。採取された血液は赤血球製剤や血漿製剤として使用されます。

成分献血は血小板や血漿のみを採取し、他の成分は体内に戻す方法です。血小板成分献血と血漿成分献血があり、採血には40分~90分程度かかります。血小板は有効期間が採血後4日間と非常に短いため、安定供給のために継続的な献血が必要とされています。

献血基準

献血には年齢、体重、健康状態などの基準が設けられています。これは献血者の安全を守るとともに、輸血を受ける患者の安全を確保するためです。例えば、全血献血(400mL)の場合、男性は17~69歳、体重50kg以上、女性は18~69歳、体重50kg以上といった基準があります。

血液の検査と製剤化

献血された血液はただちに医療現場で使用されるわけではありません。厳格な検査と処理を経て、安全な血液製剤として供給されます。

感染症検査

献血された血液は、以下のような感染症検査が実施されます:

  • B型肝炎ウイルス(HBV)
  • C型肝炎ウイルス(HCV)
  • ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
  • ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)
  • 梅毒トレポネーマ
  • パルボウイルスB19

これらの検査には核酸増幅検査(NAT)という高感度の検査法が用いられており、感染初期の検出が困難な「ウインドウ期」を可能な限り短縮しています。

血液製剤の種類

献血された血液は、患者の症状に応じて使い分けられるよう、以下のような製剤に分けられます:

赤血球製剤は貧血や出血時に使用され、酸素を運ぶ赤血球を補充します。有効期間は採血後21日間です。

血小板製剤は止血機能を担う血小板を補充するもので、白血病などの血液疾患や手術時に使用されます。有効期間は採血後4日間と非常に短く、常温で振とうしながら保存する必要があります。

血漿製剤は血液凝固因子やアルブミンなどを含み、出血傾向のある患者や重症感染症、火傷患者などに使用されます。冷凍保存され、有効期間は採血後1年間です。

血液型と適合性

輸血を行う際には、血液型の適合性が極めて重要です。

ABO式血液型

ABO式血液型には、A型、B型、O型、AB型の4種類があります。基本的には同じ血液型の血液を輸血しますが、緊急時にはO型赤血球が「緊急用血液」として使用されることがあります。これはO型赤血球がA抗原もB抗原も持たないため、他の血液型の患者にも輸血できるためです。ただし、完全に安全というわけではなく、可能な限り同型輸血が原則とされています。

Rh式血液型

Rh式血液型には、Rh(+)とRh(-)があります。日本人の約99.5%がRh(+)であり、Rh(-)の人は約0.5%と非常に少数です。Rh(-)の患者にはRh(-)の血液を輸血する必要があるため、Rh(-)の献血は特に重要とされています。

交差適合試験

実際の輸血前には、患者の血液と輸血用血液を混ぜて反応を見る「交差適合試験」が必ず実施されます。これにより、ABO式やRh式以外の血液型不適合や、患者が持つ不規則抗体による反応を事前に確認します。

輸血の実施過程

医療現場での輸血は、以下のような手順で慎重に行われます。

輸血の決定

輸血が必要かどうかは、患者の状態、検査数値、予定される手術内容などを総合的に判断して決定されます。現代医療では「必要最小限の輸血」という考え方が基本とされており、可能な限り患者自身の造血機能の回復を待つ、あるいは輸血以外の治療法を検討することが優先されます。

インフォームド・コンセント

輸血を実施する前には、医師から患者または家族に対して、輸血の必要性、期待される効果、起こりうる副作用や合併症、代替治療の有無などについて説明が行われます。患者の同意を得ることが原則です。

輸血の実施と監視

輸血中は、患者の状態を継続的に観察します。輸血開始直後の5~15分間は、アレルギー反応や溶血反応などの副作用が起こりやすいため、特に注意深く監視されます。

輸血のリスクと安全対策

輸血は有益な治療法である一方、リスクも存在します。

免疫学的副作用

輸血によって起こりうる免疫反応には、発熱、じんましん、呼吸困難などがあります。重篤なケースでは溶血反応や輸血関連急性肺障害(TRALI)などが起こることもありますが、これらは適切な検査と管理により、発生頻度は非常に低く抑えられています。

感染症のリスク

前述の厳格な検査により、輸血による感染症伝播のリスクは大幅に低減されています。日本赤十字社の統計によれば、HIVやB型肝炎、C型肝炎の感染リスクは数十万~数百万回の輸血に1回という極めて低い水準になっています。

安全性向上のための取り組み

輸血の安全性を高めるため、以下のような取り組みが行われています:

医療機関では輸血療法委員会を設置し、適正使用の推進と安全管理を行っています。また、バーコードシステムによる患者認証や製剤管理、電子カルテとの連携により、人為的ミスを防ぐ仕組みが整備されています。輸血後の副作用については詳細な記録が保存され、万一の際に追跡調査ができる体制が構築されています。

血液の需給状況

日本の血液需給は、少子高齢化に伴う課題に直面しています。

献血者の減少傾向

献血可能年齢層の人口減少により、献血者数は長期的に減少傾向にあります。特に若年層の献血率低下が顕著で、献血者の高齢化が進んでいます。一方で、高齢化に伴う医療需要の増加により、血液製剤の需要は高い水準を維持しています。

需給調整の仕組み

日本赤十字社は、全国を7つのブロックに分け、各血液センターが連携して需給調整を行っています。血液製剤の有効期間が限られているため、需要予測に基づいた計画的な献血推進活動が行われています。

まとめ

輸血システムは、献血者の善意、日本赤十字社による厳格な検査と管理、医療機関での適正使用という三つの柱によって支えられています。現代医療において輸血は多くの患者の命を救う重要な治療法であり、そのシステムは高度な安全性と効率性を追求して運営されています。

献血から輸血まで、多くの人々の協力と科学技術によって、安全で安定的な血液供給体制が維持されているのが日本の現状です。

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