中国の対日軍民両用品輸出規制:規制対象、影響業界、そして私たちが考えるべきこと

世界

2026年1月6日、中国商務省が日本に対する軍民両用品(デュアルユース品)の輸出規制を強化すると発表しました。高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁を受けた対抗措置とみられ、規制は即日発効しています。具体的な品目は明示されていませんが、レアアースを含む広範囲の品目が対象となる可能性があり、日本経済に大きな影響を与えることが懸念されています。本記事では、規制対象となる可能性のある品目、影響を受ける業界、代替手段、そして私たち一般庶民が考えるべきことについて解説します。

規制の背景と概要

中国商務省の発表によると、「日本の軍事関連利用者向けや、軍事力向上につながる軍民両用品」が輸出規制の対象となります。さらに注目すべきは、中国から輸出された該当品目を第三国が日本に再輸出した場合にも法的責任が問われるとされている点で、第三国経由での迂回輸入にも厳しい目が向けられています。

この措置の背景には、高市首相が2025年11月の国会答弁で台湾有事が日本の「存立危機事態」に該当し得ると語ったことに対する中国の激しい反発があります。中国側はこれを「日本の再軍事化の危険な動き」と非難し、経済的圧力を通じて日本政府に発言撤回を迫る狙いがあると見られています。

規制対象となる可能性のある品目

中国政府は具体的な品目リストを公表していませんが、軍民両用品として分類される可能性のある品目は多岐にわたります。野村総合研究所の試算によると、中国が日本に輸出している軍民両用品目を幅広く捉えた場合、以下のような品目が含まれると考えられています。

1. 電気機器・電子部品(年間7.7兆円規模)

半導体、集積回路、電子部品などが該当します。これらは民生用の電化製品から軍事用の通信機器まで幅広く使用されるため、規制対象となる可能性が高い分野です。スマートフォン、パソコン、家電製品などの製造に不可欠な部品が多く含まれます。

2. 精密機械(年間0.4兆円規模)

医療機器や光学機器などの科学光学機器が含まれます。これらは高度な技術を要する製品で、民生用途と軍事用途の境界が曖昧な場合が多いため、規制の対象となりやすい分野です。

3. 化学品・レアアース(年間0.2兆円規模)

特に注目されているのがレアアース(希土類)です。EV電池関連のリチウム化合物や、ネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウム、テルビウムなどが含まれます。日本はこれらレアアースの約60パーセントを中国に依存しており、特にジスプロシウムとテルビウムはほぼ100パーセントを中国に依存しているとされています。

4. 通信機器

通信分野にまたがる製品も軍民両用品として分類されています。5G関連機器や通信インフラに関わる製品が含まれる可能性があります。

5. PC類および周辺機器(年間2.4兆円規模)

パソコン本体だけでなく、周辺機器や部品も含まれます。

6. その他の軍民両用品

バイオテクノロジー、航空宇宙分野にまたがる製品も対象となる可能性があります。

これらを合計すると、最大で年間10.7兆円規模に達し、2024年の中国からの輸入総額25.3兆円の約42パーセントに相当します。ただし、これは中国当局が軍民両用品目を最大限に拡大解釈した場合の数字であり、実際の規制規模は中国当局の裁量で決まります。

影響を受ける業界・企業

1. 自動車産業(特にEV関連)

EV用モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料であるジスプロシウムやテルビウムの供給が止まれば、EV生産に深刻な影響が出ます。トヨタ、日産、ホンダなどの自動車メーカーだけでなく、部品メーカーも影響を受けます。

2. 電機・電子機器メーカー

ソニー、パナソニック、日立製作所、東芝、富士通など、電気機器や電子部品を使用する幅広い企業が影響を受ける可能性があります。特に半導体や電子部品の調達に支障が出れば、生産活動全体に波及します。

3. 精密機械・医療機器メーカー

オリンパス、ニコン、キヤノンなどの光学機器メーカーや、医療機器メーカーが影響を受ける可能性があります。

4. 通信機器メーカー

NEC、富士通などの通信インフラを手がける企業も潜在的な影響を受けます。

5. 航空宇宙産業

三菱重工業、川崎重工業、IHIなどの航空宇宙関連企業は、直接的な規制対象となる可能性が高い分野です。

6. エネルギー関連企業

風力発電など再生可能エネルギー分野でもレアアースが使用されており、影響を受ける可能性があります。

レアアース規制による経済損失の試算

2010年の尖閣問題時にも中国はレアアースの対日輸出を規制し、日本経済に大きな打撃を与えました。この経験を踏まえ、野村総合研究所がレアアース輸出規制の経済損失を試算しています。

3か月間の規制の場合

  • 生産減少額・損失額:約6600億円
  • 名目・実質GDPへの影響:マイナス0.11パーセント

1年間の規制の場合

  • 生産減少額・損失額:約2.6兆円
  • 名目・実質GDPへの影響:マイナス0.43パーセント

これは決して小さくない数字です。特に、中国依存度の高い特定のレアアースについては、代替調達が困難なため、短期間でも深刻な影響が出る可能性があります。

代替手段と日本の対応策

1. 調達先の多様化

2010年の尖閣問題以降、日本は中国産レアアースからの依存脱却を進めてきました。その結果、レアアースの中国依存度は90パーセントから60パーセント程度まで低下しています。しかし、それでも依存度は高く、さらなる多様化が必要です。

具体的な調達先候補

  • オーストラリア:ライナス社などが生産
  • ベトナム:レアアース鉱床の開発が進行中
  • インド:潜在的な供給源として注目
  • アフリカ諸国:未開発の鉱床が存在

2. 国内リサイクル技術の強化

使用済み製品からレアアースを回収するリサイクル技術の開発と実用化が急務です。日本は都市鉱山と呼ばれる膨大な量のレアアースを廃棄製品の中に保有しており、これを有効活用することで輸入依存度を下げることができます。

3. 代替材料の開発

レアアースを使わない、あるいは使用量を大幅に減らした製品の開発が進められています。例えば、ネオジム磁石の代替となる新しい磁石材料の研究開発などです。

4. 備蓄の強化

短期的な供給途絶に備え、戦略的なレアアース備蓄を増やすことも重要です。政府と民間企業が協力して、必要な量の備蓄体制を構築する必要があります。

5. 第三国経由の調達

ただし、今回の規制では第三国経由の再輸出にも法的責任が問われるとされているため、この方法は慎重に検討する必要があります。

6. 外交努力

日中関係の改善に向けた外交努力も不可欠です。経済と安全保障の バランスを取りながら、対話のチャンネルを維持することが重要です。

一般庶民が考えるべきこと

この問題は、企業や政府だけの問題ではありません。私たち一般庶民の生活にも直接的・間接的に影響を与える可能性があります。

1. 製品価格の上昇

レアアースなどの原材料調達コストが上昇すれば、最終的には消費者価格に転嫁されます。電化製品、自動車、スマートフォンなどの価格上昇が予想されます。特にEVの価格は大きな影響を受ける可能性があります。

2. 製品供給の不安定化

部品調達が滞れば、製品の供給が不安定になり、欲しい製品がすぐに手に入らない状況が発生する可能性があります。

3. 雇用への影響

製造業の生産活動が停滞すれば、雇用にも影響が出る可能性があります。特に自動車産業や電機産業で働く人々への影響が懸念されます。

4. 経済安全保障の重要性を認識する

今回の事態は、経済的な相互依存関係が安全保障上のリスクにもなり得ることを示しています。特定の国への過度な依存は、その国との政治的対立が生じた際に、経済的な脆弱性として露呈します。

5. 日中関係の行方を注視する

高市政権がこの事態をどう収拾するのか、対応手段を持っているのか、注視する必要があります。外交と経済のバランスをどう取るかは、私たちの生活に直結する問題です。

6. 国産品・国内技術への理解と支援

代替材料の開発やリサイクル技術など、日本の技術力を活かした対応策を支援することも重要です。多少価格が高くても、サプライチェーンの安定性を考慮した製品選択を心がけることも一つの方法です。

7. 長期的視点での投資判断

株式投資やNISAなどで資産運用をしている人は、この問題が特定業界や企業に与える影響を考慮し、ポートフォリオの見直しを検討する必要があるかもしれません。

おわりに

中国による対日軍民両用品輸出規制は、2010年の尖閣問題時のレアアース規制以来の大きな経済的圧力です。しかし、前回の経験を通じて日本は中国依存度を一定程度下げることに成功しており、完全に無防備というわけではありません。

重要なのは、この事態を一時的な危機として捉えるだけでなく、日本の経済安全保障を根本的に見直す機会として活用することです。サプライチェーンの多様化、代替技術の開発、戦略的備蓄の強化など、中長期的な対策を着実に進めていく必要があります。

同時に、中国との経済的な相互依存関係は日本経済にとって依然として重要であり、対話のチャンネルを維持しながら、外交努力を続けることも不可欠です。経済と安全保障のバランスをどう取るか、これは日本が直面する最も重要な課題の一つと言えるでしょう。

私たち一般庶民にできることは限られているかもしれませんが、この問題の重要性を理解し、日本の技術力や産業を支援する姿勢を持つことが、長期的には日本の経済安全保障の強化につながります。2026年は始まったばかりですが、日中関係と日本経済にとって極めて重要な年になりそうです。

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