防衛費増税が始まる?日本の防衛費を取り巻く現状と課題を徹底解説

制度

2027年1月から所得税への防衛増税が開始される方向で調整が進められています。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、防衛費の大幅な増額が進められていますが、その財源をどう確保するのかという議論は依然として続いています。本記事では、防衛費とは何か、なぜ今増額が必要とされているのか、そして世界の国々はどのくらい防衛費を支出しているのかについて、詳しく解説していきます。

防衛費とは何か

防衛費(防衛関係費)とは、国を守る組織である自衛隊がその能力を発揮するために必要な経費のことです。具体的には、装備品(戦車、護衛艦、戦闘機など)の整備、自衛隊員の教育・訓練、人件費など、防衛力の維持・強化に関わるすべての費用が含まれます。

防衛関係費の内訳

防衛関係費の使途を見ると、大きく分けて以下のような構成になっています。2024年度の防衛関係費における使途別構成比では、隊員の給与や食事のための「人件・糧食費」が約28.9%(約2兆2,290億円)を占めています。隊員の教育訓練や艦船・航空機などの燃料といった「維持費等」が約31.7%(約2兆4,491億円)、戦車・護衛艦・戦闘機といった新たな「装備品等購入費」が約22.3%(約1兆7,262億円)となっています。

このように、防衛関係費は人件・糧食費と過去の契約に基づく支払い(歳出化経費)という義務的性質を有する経費が全体の約8割を占めており、単年度でその内訳を大きく変更することは難しい構造になっています。

また、米国からの装備品調達(FMS調達)も重要な要素です。2024年度のFMS調達に係る予算額は約9,316億円とされており、これは防衛装備品購入費全体の相当部分を占めています。

なぜ今、防衛費の増額が必要なのか

日本を取り巻く厳しい安全保障環境

日本が防衛費を増額する背景には、周辺国の軍事動向の変化があります。

まず中国については、政府は「これまでにない最大の戦略的挑戦」と位置づけています。中国軍は海空域での活動を急速に拡大・活発化させており、尖閣諸島周辺を含む日本周辺海空域での活動を増加させています。台湾国防部の発表によると、中国軍機の台湾空域進入機数は2020年の380機から2024年には3,070機へと大幅に増加しました。また、中国は核戦力の近代化も進めており、2030年までに核弾頭保有数が1,000発を超える可能性があるとの指摘もあります。

北朝鮮については、「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と評価されています。2021年1月の党大会で示された「国防科学発展及び武器体系開発5か年計画」に沿って、固体燃料推進方式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の「火星18」や「火星19」の発射を実施するなど、核・ミサイル能力の向上を続けています。

ロシアについては、2022年2月のウクライナ侵略以降、「欧州方面における最も重大かつ直接の脅威」とされています。極東方面にも最新の装備を配備する傾向があり、中国との戦略的な連携と相まって、日本の安全保障上の強い懸念となっています。2024年6月には、ロシアと北朝鮮が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、相互の軍事支援を規定するなど、これら3か国の連携が深まっていることも懸念材料です。

安保関連3文書と防衛力強化の方針

こうした安全保障環境の変化を受け、岸田政権は2022年12月に「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保関連3文書を閣議決定しました。この中で、2023年度から2027年度までの5年間で防衛費を大幅に増額し、2027年度には防衛費と関連経費を合わせてGDP比2%に達するよう措置することが決定されました。

これは、1976年の三木武夫内閣以来、おおむねGDP比1%以内を目安としてきた日本の防衛費政策からの大きな転換を意味します。

防衛費増額の推移

実際の防衛費の推移を見ると、急速な増額が進んでいることがわかります。当初予算ベースで、2022年度は5兆4,000億円(米軍再編関係経費含む)だった防衛費は、2023年度には6兆8,000億円、2024年度には7兆9,000億円と、ほぼ毎年1兆円ずつ積み増しされてきました。

2025年度の防衛費は前年度比9.4%増の8兆7,005億円となり、海上保安庁予算など関連経費も含めた総額は約9兆9,000億円に達します。これは2022年度GDPの1.8%に相当します。

さらに、高市早苗首相は2025年度中に防衛費をGDP比2%水準に引き上げる方針を示しており、当初の2027年度目標を2年前倒しする形となっています。そのためには約1.3兆円の防衛費積み増しが必要であり、補正予算での対応が予定されています。

防衛費増額の財源問題

増税による財源確保の計画

防衛費の大幅な増額には、当然ながら財源の確保が必要です。2022年末に閣議決定された方針では、法人税、所得税、たばこ税の3税で2027年度までに1兆円強を確保することが決められました。

具体的な増税の内容は以下の通りです。法人税については、主に大企業を対象に税額に4%の付加税を課す「防衛特別法人税(仮称)」が2026年4月から開始される予定です。ただし、法人税額から500万円を控除するため、中小企業の9割以上は課税対象外となります。

所得税については、税額に1%の付加税を課す「防衛特別所得税(仮称)」を新設する一方で、現在2.1%の復興特別所得税の税率を1%引き下げることで、当面の負担増を回避する仕組みが検討されています。2027年1月からの開始で調整が進められていますが、「年収103万円の壁」の引き上げ議論との兼ね合いもあり、実施時期については引き続き検討されています。

たばこ税については、2026年4月から加熱式たばこの税率を紙巻きたばこと同率に引き上げた上で、2027年4月から2029年4月まで毎年1本当たり0.5円ずつ引き上げる方針です。

財源確保の課題

しかし、増税を通じた財源確保は順調に進んでいるとは言い難い状況です。2022年末の与党税制大綱では、増税開始時期を「2024年以降の適切な時期」と曖昧にしたまま、具体的な実施時期の決定は先送りされてきました。

2024年末の税制改正では、法人税とたばこ税については2026年4月からの増税開始が決まりましたが、所得税については「103万円の壁」引き上げとの整合性の問題から、開始時期の決定が見送られました。

野村総合研究所の木内登英氏は、この状況について「2023年度から2027年度の5年間の計画が進む中でも、その財源をまだ確保できていない」と指摘し、「今後さらなる増額がなされる場合には、それを恒久財源で確保するのは難しく、国債増発による資金調達がそれに充てられるだろう」と懸念を示しています。

トランプ政権からの更なる増額圧力

財源問題がまだ解決していない中、米国からは更なる防衛費増額を求める圧力も高まっています。トランプ米政権は同盟国に対してGDP比5%の防衛費を求める発言を行っており、NATOも2035年までにGDP比3.5%を新目標とすることで合意しています。

仮に日本がGDP比3.5%や5%まで防衛費を引き上げる場合、現在のGDP比2%と比較して、それぞれ約9.2兆円、約18.3兆円の追加予算が必要となります。これを消費税の増税で賄うとすれば、それぞれ消費税率を4%弱、8%弱引き上げる必要があるという試算もあります。

諸外国の防衛費と国際比較

NATOにおけるGDP比2%目標

日本がGDP比2%を目標とする背景には、北大西洋条約機構(NATO)の防衛費目標があります。NATO加盟国は、2014年のウェールズ首脳会議で、各国の国防費をGDP比2%以上とすることで合意しました。

NATOが2025年の推計値として発表した内容によると、GDP比2%以上を達成している国は31か国に上ります。2022年のロシアによるウクライナ侵略開始以降、加盟国の国防費増額が加速しており、2021年の約4倍となっています。

特にロシアに近接する国々の防衛費増額が顕著です。ポーランドはGDP比4.48%と最も高く、リトアニア(4%)、ラトビア(3.73%)、エストニア(3.38%)、ノルウェー(3.35%)が上位を占めています。米国は3.22%で6番目の水準です。

一方、フランスなど17か国はまだ2.1%に達しておらず、ドイツやスペインなど7か国は2%ちょうどでの目標達成となっています。

各国の軍事費ランキング

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2024年データによると、2024年の世界の軍事費は増加率・金額ともに冷戦後最大を記録しました。2024年は実質で9.4%の増加、金額も名目で2兆7,182億ドル(約400兆円)に達しています。

国別で見ると、1位の米国が約9,973億ドルで世界全体の36.7%を占めています。2位は中国(約3,136億ドル)、3位はロシア(約1,489億ドル)で、日本は481億ドルで10位となっています。

2023年から2024年にかけての増加率を見ると、イスラエルの64.6%、ロシアの37.8%、ポーランドの30.9%、ドイツの28.3%、日本の21.2%の順となっています。戦時下のイスラエル、ロシアを除くと、ロシアと国境を接するポーランドやドイツなど欧州諸国の増加率が際立っています。

日本の防衛費の国際的位置づけ

日本の防衛費のGDP比は、長らくG7諸国や韓国、オーストラリアと比較して最も低い水準でした。2022年度で見ると、米国が2.8%、ロシアが3.0%、韓国が2.5%であるのに対し、日本は1.1%程度でした。

また、1人当たりの国防費で比較すると、オーストラリア・韓国・英国・フランス・ドイツいずれも日本の約2〜3倍となっていました。GDP比2%への引き上げは、こうした国際的な差を縮める意味合いもあります。

しかし、経済規模が世界3〜4位であるにもかかわらず軍事費が10位ということは、依然として経済規模に比して防衛に投じている金額が小さいとも言えます。

防衛費増額をめぐる議論と課題

賛成派の主張

防衛費増額を支持する立場からは、以下のような主張がなされています。

まず、周辺国の軍事的脅威の増大に対応するため、抑止力の強化が必要だという点です。特に中国の急速な軍事力拡大に対し、日本が「力の空白」とならないためには相応の防衛力整備が不可欠とされています。

また、日米同盟の維持・強化の観点からも、同盟国として応分の負担を果たすことが重要だという意見があります。米国からの増額要求に一定程度応えることで、日米関係を良好に保つ効果が期待されています。

さらに、スタンド・オフ防衛能力(敵の射程外からの攻撃能力)や統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力など、新たな装備体系の整備には相応の予算が必要だという技術的な要請もあります。

慎重派・反対派の主張

一方で、防衛費増額に慎重な立場からは、いくつかの懸念が示されています。

第一に、財源問題です。恒久的な財源を確保できないまま増額を進めれば、国債発行に依存することになり、将来世代への負担転嫁になるという批判があります。

第二に、費用対効果の問題です。防衛費を増額しても、その相当部分が米国からの防衛装備品輸入に充てられれば、国内経済への波及効果は限定的だという指摘があります。

第三に、他の政策分野とのバランスの問題です。超高齢化社会における社会保障費の増大、少子化対策、教育・科学技術投資など、限られた財源の中で何を優先すべきかという議論があります。「そんな金があるのなら、教育や科学技術分野への配分をドラスティックに増やした方が、中長期的な日本の国力向上のためには遥かによい」という意見もあります。

「まず規模ありき」への批判

特に問題視されているのは、防衛費増額の進め方です。岸田前首相は当初、防衛費増額の「中身、規模、財源」を三位一体で決めると説明していました。しかし実際には、GDP比2%という規模が先に決まり、その後に中身が検討され、財源確保は現時点でもまだ完全には達成されていません。

このことについて、「国民の生命と安全を確保するために、どのような防衛力の増強が必要になるかを慎重に議論した上で、その規模とその財源を確定するという手順が、今度こそ欠かせない」という指摘がなされています。

また、急激な防衛費の増加により、予算が執行しきれない問題も生じています。2023年度の決算では、予算計上したが使わなかった防衛費の不用額が約1,300億円に上りました。装備取得などの契約締結が年度内にできないなどの事態が発生しているのです。

まとめ

日本の防衛費は、戦後長らく維持してきたGDP比1%の枠を脱し、2027年度には関連経費を含めてGDP比2%を達成する見通しとなっています。その背景には、中国・北朝鮮・ロシアという3つの方向からの安全保障上の脅威の増大と、米国を含む国際社会からの防衛努力の強化を求める声があります。

2025年度の防衛費は約8.7兆円、関連経費を含めると約9.9兆円に達し、高市政権は補正予算でGDP比2%の前倒し達成を目指しています。一方で、その財源については、法人税とたばこ税の2026年4月からの増税は決まったものの、所得税の増税時期は引き続き検討中という状況です。2027年1月開始の方向で調整が進められていますが、「103万円の壁」見直しとの関係もあり、不透明な部分が残っています。

国際的に見れば、NATOは2035年までにGDP比3.5%という新目標を設定し、トランプ米政権は同盟国にGDP比5%を求める姿勢を示しています。日本がGDP比2%を達成した後も、更なる増額圧力が続く可能性があります。

防衛費の増額は、国民の安全を守るために必要な投資である一方、その財源は国民の税金であり、他の政策分野とのバランスも考慮しなければなりません。厳しい安全保障環境への対応と、持続可能な財政運営の両立という難しい課題に、日本は今まさに直面しているのです。


参考資料

  • 防衛省「令和7年版 日本の防衛」(防衛白書)
  • 財務省「令和7年度防衛関係予算のポイント」
  • 野村総合研究所「防衛費のさらなる増額と国民負担の増加」
  • 第一生命経済研究所「軍事費ランキング2024」
  • 日本経済新聞各報道
  • nippon.com「日本の防衛費の推移」
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