2025年12月18日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」、通称「スマホ新法」が全面施行されました。AppleとGoogleという巨大IT企業による市場独占を是正し、自由な競争を促すことを目的としたこの法律は、私たちのスマホライフに大きな変化をもたらします。利便性の向上が期待される一方で、セキュリティ面での懸念も指摘されています。具体的に何が変わり、どんなリスクがあるのでしょうか。
スマホ新法とは何か
スマホ新法は、2024年6月に成立し、約1年半の準備期間を経て施行されました。この法律が規制対象とするのは、スマホ市場で圧倒的なシェアを持つAppleとGoogleの2社です。
現在、日本のスマートフォン市場はiOS(Apple)とAndroid(Google)の2つのOSが事実上独占しています。アプリのダウンロードは原則として両社のアプリストア(App StoreとGoogle Play)を通じて行われ、アプリ内課金も両社のシステム(Apple PayとGoogle Pay)を利用する必要があります。
このような状況について「両社が審査したアプリのみが流通するため安全性が高い」というメリットがある一方、「巨大IT企業による囲い込みが自由な競争を妨げている」という批判もありました。スマホ新法は、この競争上の問題を解消することを目的としています。
規制対象は4つの特定ソフトウェア
スマホ新法が規制対象とするのは以下の4つです。
- OS(オペレーティングシステム)
- アプリストア
- ブラウザ
- 検索エンジン
月平均利用者数が4,000万人以上の事業者が「指定事業者」として規制対象となり、現時点ではAppleとGoogleがこれに該当します。
何が変わるのか:主な変更点
1. App Store/Google Play以外からもアプリをダウンロード可能に
これまでiPhoneではApp Store以外からアプリをダウンロードすることは原則できませんでした(Androidは一部可能でしたが推奨されていませんでした)。スマホ新法施行後は、AppleとGoogleは他社製アプリストアの提供を妨げることが禁止されます。
つまり、今後は複数のアプリストアが登場し、そこからアプリをダウンロードできるようになる可能性があります。これにより、App StoreやGoogle Playでは配信できなかったアプリも利用できるようになるかもしれません。
2. 外部決済システムの利用が可能に
これまで、アプリ内での課金は原則としてApple PayやGoogle Payを通じて行う必要がありました。この手数料は最大30%と高額で、事業者にとって大きな負担となっていました。
スマホ新法施行後は、他の課金システムの利用を妨げることが禁止されます。Appleは外部決済への誘導を認める代わりに20%(年間総収入100万ドル以下の事業者は10%)の手数料を設定しました。Googleも同様に外部決済を解禁しています。
これにより、アプリ開発者は手数料負担が軽減され、その分がユーザーへの価格低下につながる可能性があります。
3. ブラウザや検索エンジンの選択画面が表示
スマホを起動した際、ブラウザや検索エンジンを選択できる画面(チョイススクリーン)が表示されるようになります。これまではSafari(Apple)やChrome(Google)が初期設定されていましたが、ユーザーが自由に選べるようになります。
4. 自社サービスの優遇禁止
AppleやGoogleが自社のサービスを検索結果やアプリストアで過剰に優遇することが禁止されます。より中立的な表示が求められます。
期待されるメリット
選択肢の増加
複数のアプリストアが登場すれば、ユーザーはより多様なアプリから選べるようになります。App StoreやGoogle Playの審査基準に合わないアプリも利用できる可能性が広がります。
価格の低下
開発者の手数料負担が軽減されれば、アプリの価格やアプリ内課金の料金が下がる可能性があります。音楽や動画のサブスクリプションサービスなども、より安価に利用できるようになるかもしれません。
イノベーションの促進
新規参入が容易になることで、スタートアップ企業などによる革新的なサービスが生まれやすくなることが期待されています。
深刻な懸念:「安全な庭」の崩壊
しかし、弁護士ドットコムニュースの記事が指摘するように、スマホ新法施行には重大なリスクも伴います。
セキュリティリスクの増大
これまで、iPhoneであればApp Storeが、アプリの審査や決済システムを一元管理することで、セキュリティや返金対応などの安全性を守ってきました。いわば「安全な庭(ウォールドガーデン)」の中でユーザーは保護されていたのです。
しかし、公式ストア経由ではないアプリストアが増えると、AppleやGoogleの審査を受けていないアプリが流通する可能性が高まります。
具体的なリスクとしては:
- マルウェア感染:ウイルスやスパイウェアが仕込まれた悪質なアプリをダウンロードしてしまうリスク
- 個人情報の流出:不正にデータを収集するアプリによる被害
- 不正請求:詐欺的な課金システムによる金銭被害
- フィッシング詐欺:正規アプリを装った偽アプリによる被害
公式ストアでも問題のあるアプリは存在しましたが、公式ストアを介さないアプリの方が、トラブルが起こるリスクは格段に高まります。
トラブル解決の複雑化
公式ストアが間に入っていた場合、問題が発生した際の返金対応や苦情処理は比較的スムーズでした。しかし、第三者のアプリストアや外部決済システムを利用した場合、トラブル解決の道筋が複雑になる可能性があります。
消費者保護法(特定商取引法や消費者契約法など)は引き続き適用されますが、実際に問題を解決するまでの手間や時間がかかる可能性が高いでしょう。
フィルタリング機能への影響
子ども向けのフィルタリング機能にも影響が出る懸念があります。現在のiPhoneのフィルタリングは、WebKitというブラウザエンジンを経由する全通信を制御する仕組みですが、他のブラウザエンジンが利用可能になると、この仕組みが無効化される可能性が指摘されています。
欧州での先行事例から見る懸念
スマホ新法と類似した「デジタル市場法(DMA)」を2024年3月に施行したEUでは、すでにいくつかの問題が報告されています。機能制限やセキュリティリスクの増加などが指摘されており、日本でも同様の問題が発生する可能性があります。
ユーザーが取るべき対策
スマホ新法施行後、私たちユーザーはどう対応すべきでしょうか。
1. 公式ストア以外を使うときは慎重に
App StoreやGoogle Play以外のアプリストアを利用する際は、そのストアの信頼性を十分に確認しましょう。運営企業の実態、セキュリティ対策、利用者のレビューなどを慎重にチェックすることが重要です。
2. 不審なアプリはダウンロードしない
メールやSNSで紹介されたアプリを安易にダウンロードしないようにしましょう。スマホ新法施行に便乗して、マルウェアをダウンロードさせる詐欺が増加する可能性があります。
3. 決済情報の管理を徹底
外部決済システムを利用する際は、その事業者が信頼できるかを確認しましょう。クレジットカード情報などを登録する前に、事業者の評判や実績を調べることが大切です。
4. セキュリティソフトの導入
スマホにセキュリティアプリを導入することも検討しましょう。マルウェアの検出や不正アクセスの防止に役立ちます。
5. 子どものスマホ利用は特に注意
子どもがスマホを使っている場合、フィルタリング機能が正常に動作しているか定期的に確認しましょう。新しいブラウザをインストールした際は特に注意が必要です。
まとめ:利便性と安全性のバランスが課題
スマホ新法は、AppleとGoogleによる市場独占を是正し、より自由で競争的な市場環境を実現することを目指しています。選択肢の増加や価格の低下など、ユーザーにとってのメリットも期待されます。
しかし同時に、これまで「安全な庭」として守られてきたセキュリティが低下するリスクも存在します。ユーザー自身が、アプリストアや決済システムの安全性を判断する必要が生じるのです。
消費者保護法は適用されますが、完全に自己責任というわけではないものの、トラブル解決には従来以上の手間がかかる可能性があります。
スマホ新法の施行は、私たちユーザーに「より多くの自由」をもたらすと同時に、「より多くの責任」も求めることになります。利便性を享受しながらも、セキュリティ意識を高め、慎重にサービスを選ぶ姿勢が今まで以上に重要になるでしょう。

