上野動物園の双子パンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」が2026年2月に中国へ返還されることが決まっています。2024年9月に両親のリーリーとシンシンが返還され、2025年6月には和歌山アドベンチャーワールドの4頭も帰国したことで、日本でパンダが見られる施設は上野動物園のみとなりました。そして2026年2月以降、日本からパンダがいなくなる可能性が現実味を帯びています。
日本におけるパンダの歴史
日本とパンダの関係は、1972年の日中国交正常化に始まります。当時の田中角栄首相が訪中し、日中両国の国交正常化を実現した歴史的瞬間を記念して、中国から「カンカン」と「ランラン」が上野動物園に贈られました。同年10月28日に来日したパンダは、日本中に空前のブームを巻き起こしました。
上野動物園の入園者は、一目パンダを見ようとする人々で溢れ、上野駅まで約2キロの行列ができたといいます。この出来事は、単なる動物人気を超えて、新たな日中関係のシンボルとなりました。10月28日は現在「パンダの日」として記念されています。
その後も日本では複数のパンダが飼育されてきました。上野動物園では歴代のパンダが暮らし、2017年に誕生したシャンシャンは令和のパンダブームを牽引しました。和歌山のアドベンチャーワールドでは、30歳を超えた長寿パンダ「永明」が多くの子どもを残すなど、繁殖研究でも成果を上げてきました。神戸市立王子動物園でも長年パンダが飼育されていましたが、2024年3月に中国へ返還されています。
なぜパンダを返還するのか
多くの人が疑問に思うのが「なぜ日本で生まれたパンダも中国に返還しなければならないのか」という点です。
その理由は、すべてのパンダの所有権が中国にあるためです。パンダはワシントン条約により国際取引が規制されている絶滅危惧種であり、諸外国へは繁殖を目的とした「レンタル」という形で貸し出されています。そのため、日本で生まれたシャオシャオとレイレイも中国籍であり、返還の対象となります。
現在の契約では、シャオシャオとレイレイの返還期限は2026年2月20日までとされています。2021年生まれの双子は、繁殖に適した年齢に達しており、中国でパートナーを探すために帰国することになります。双子であるため、日本で飼い続けても繁殖研究にはならないという事情もあります。
近年、各国で同様のパンダ返還が続いています。アメリカのスミソニアン国立動物園でも2023年11月に3頭のパンダが中国へ返還され、約1年間のブランクの後、2025年1月に新たなつがいが到着しました。中国は、高齢のパンダや生まれた子どもの貸与を延長せず、ペアのパンダによる共同研究という形式を徹底する傾向が見られます。
東京都の小池百合子知事は、シャオシャオとレイレイの返還後に新たな個体を預かることも含めて調整していく意向を示していますが、実現するかどうかは不透明です。専門家の間では、上野動物園も一時的にパンダがゼロになる可能性が高いという見方が優勢です。
日中関係の現状とパンダ外交
パンダは歴史的に「パンダ外交」と呼ばれる中国の外交ツールとして機能してきました。1972年のニクソン大統領訪中時や、同年の日中国交正常化時のパンダ贈呈は、両国関係の和解を世界に印象づける象徴的な意味を持ちました。
しかし、現在の日中関係は複雑な状況にあります。2024年後半から2025年にかけて、両国関係には明るい兆しも見えました。石破茂首相の就任後、11月にペルーでの習近平国家主席との首脳会談が実現し、「戦略的互恵関係の包括的推進」と「建設的かつ安定的な関係の構築」という方向性が確認されました。中国側は日本人の短期滞在ビザ免除を再開するなど、関係改善の動きも見られました。
一方で、構造的な課題も多く存在します。尖閣諸島をめぐる領有権問題、東シナ海のガス田開発、中国の軍事力拡大への懸念など、安全保障面での対立要因は継続しています。台湾をめぐる問題も、両国にとって極めてデリケートな課題です。
日本国内の世論調査では、中国への親近感は依然として低い水準にあり、特に高齢層では外交・安全保障面への懸念が強く表れています。一方で、若年層では社会・文化的要因を重視する傾向があり、世代間で対中認識に差が見られます。
今後の日中関係への示唆
パンダの返還は、日中関係の一つの転換点を象徴しているかもしれません。専門家の指摘によれば、中国が新たなパンダを日本に送る場合、「日本に送る意味がある」と中国国内で理屈が通る時になるでしょう。最も考えられるシナリオは、習近平主席が訪日する際の外交的演出として実現する場合です。
日中両国は、互いに重要な経済パートナーであり、中国経済は日本の約5倍の規模にまで成長しています。安定的な関係の維持は、両国の持続的な経済発展にとって不可欠です。しかし同時に、価値観を共有しない両国が、どのように建設的な関係を築いていくかという根本的な課題に直面しています。
東京都は長年のパンダ飼育実績を中国側にアピールし、新たな個体の受け入れに向けて調整を続けています。また、日立市や仙台市など、他の自治体もパンダ誘致に関心を示しており、上野以外の場所でパンダが見られる可能性もあります。
上野のアメ横商店街では、パンダを前面に出した店舗も多く、地域経済への影響も懸念されています。商店街関係者は「日中友好のためにもゼロというのはなくしたい」と語るなど、地域レベルでもパンダの存在の大きさが実感されています。
おわりに
パンダは半世紀以上にわたり、日中両国の友好関係の象徴として多くの人々に愛されてきました。その返還は確かに寂しい出来事ですが、同時に私たちに日中関係について改めて考える機会を提供しています。
専門家が指摘するように、パンダは国と国の外交に巻き込まれていますが、パンダにはパンダの文脈もあります。絶滅危惧種であるパンダの保護と繁殖という本来の目的を忘れてはなりません。
今後の日中関係は、懸案を管理しながら、経済交流や文化交流を深め、共通の利益を拡大していくという地道な努力が求められます。若い世代を中心に、中国への関心や交流の機会は増えており、人と人との交流が相互理解を深める可能性も秘めています。
シャオシャオとレイレイが日本で過ごせる時間は限られています。2026年2月までの期間は、日本とパンダの特別な絆を振り返り、そして日中両国の未来を考える貴重な時間となるでしょう。パンダの返還は終わりではなく、新たな関係構築への出発点となることを期待したいものです。

