高市早苗政権発足から1ヶ月――日本初の女性首相が示す「決断と前進」の軌跡

時事

2025年10月21日、高市早苗氏が第104代内閣総理大臣に指名され、日本憲政史上初の女性首相が誕生した。石破茂前首相が退陣表明してからわずか2週間余りでの政権交代劇は、自民党総裁選で小泉進次郎氏を破った高市氏の強いリーダーシップを象徴するものとなった。発足から約1ヶ月が経過した今、高市政権の動きと成果を総括する。

異例の連立交渉と政権基盤の構築

高市政権の船出は決して順風満帆ではなかった。自民党と公明党の連立協議は異例の合意持ち越しとなり、首相指名は当初予定より遅れた。しかし、「政治の安定なくして力強い政策実現はできない」と訴えた高市氏は、日本維新の会との歴史的な連立政権樹立に成功。自公連立体制に代わる新たな政治の枠組みを作り上げた。

発足会見で高市首相は「一度ならずも、二度敗れても、自民党総裁になることを諦めませんでした。強い日本経済を作り上げ、外交・安全保障で日本の国益を守り抜く。私には明確な決意がございました」と述べ、過去2度の総裁選敗北を乗り越えた強い意志を示した。この「決断と前進」というスローガンは、高市政権の基調となっている。

「責任ある積極財政」――経済対策の全貌

高市政権の最大の特徴は「責任ある積極財政」への明確な転換である。発足初日の閣議で、首相は18人の閣僚に対し、物価高対策を最優先とする経済対策の策定を指示した。

経済対策の3本柱

  1. 生活の安全保障・物価高への対応
    • 冬場の電気・ガス料金補助の継続と深掘り
    • 重点支援地方交付金の拡充
    • プレミアム商品券や「おこめ券」の活用
    • 給付付き税額控除の導入検討
  2. 危機管理投資・成長投資による強い経済の実現
    • AI・半導体など17の戦略分野への官民連携投資
    • 食料・エネルギー・経済安全保障への投資
    • 国土強靭化対策の推進
  3. 防衛力と外交力の強化
    • 防衛費GDP比2%目標の前倒し
    • 2025年度予算での措置

11月下旬の閣議決定を目指す経済対策の規模は、当初10兆円超とされていたが、自民党積極財政議連からは25兆円超を求める声も上がり、最終的には21.3兆円規模となった。裏付けとなる2025年度補正予算は17.7兆円で、コロナ後最大の規模となる見込みだ。

高市首相は「危機管理投資は確実に成長を生む」として、食料安全保障やエネルギー安全保障、サイバーセキュリティなど世界共通の課題解決を成長戦略の中核に据えた。「日本には先進的な技術がある。これを製品、サービス、インフラにして世界各国に展開していく」という構想は、従来の「守り」の財政政策から「攻め」への転換を意味する。

トランプ大統領との初会談――外交の滑り出し

10月28日、高市首相は就任からわずか1週間で、来日したドナルド・トランプ米大統領との初会談を実現した。元赤坂の迎賓館で行われた日米首脳会談では、「日米の新たな黄金時代をつくりたい」として、日米同盟の強化に向けた協力を確認した。

会談では、対米投資の拡大計画や防衛費増額の前倒しについて説明。トランプ大統領に日本食材と米国産の米・牛肉を使った料理を振る舞い、午後には大統領専用ヘリに同乗して米軍横須賀基地を訪問するなど、緊密な関係構築に努めた。

少数与党下にある高市政権にとって、唯一の同盟国である米国との信頼関係構築は政権基盤強化の重要な要素である。就任直後のタイミングでトランプ氏と会う機会を活かし、スピード感ある外交を展開した点は評価できる。

中国との外交摩擦――試練と課題

一方で、高市政権は発足1ヶ月で予期せぬ外交課題にも直面した。11月7日の衆議院予算委員会で、高市首相が台湾海峡情勢に関して「中国が戦艦を使って武力行使を伴うものであれば存立危機事態になりうる」と答弁したことに対し、中国側が強く反発。中国大阪総領事が不適切な投稿を行い、中国外務省も「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。

高市首相は11月10日の予算委員会で「今後は個別案件への明言を控える」と軌道修正したが、この一連の発言は日中関係に新たな緊張をもたらした。中国はさらに、日本産水産物の輸入再停止措置を取る構えを見せており、高市政権にとって外交手腕が問われる局面となっている。

市場の反応と財政懸念

高市政権の積極財政姿勢は、金融市場に複雑な反応を引き起こしている。補正予算が昨年を大幅に上回る規模となることが報じられると、財政悪化への懸念から円売りが加速。11月18日には対ドルで一時155円台前半まで円安が進み、対ユーロでは史上初の180円台を記録した。

長期金利も上昇を続け、11月20日には一時1.835%と2008年以来17年半ぶりの高水準を付けた。片山さつき財務相は「憂慮している」と市場をけん制しながらも、「経済対策を打つには十分な理由がある」として財政出動の必要性を強調している。

市場では、7-9月期の実質GDP速報値が6四半期ぶりのマイナス成長となったことが経済対策の後押し材料となった一方、財政規律への懸念も高まっている。基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標達成は事実上棚上げされた形だ。

内政の動き――石破前首相の政策継承と独自色

内政面では、高市首相は石破前政権の政策の一部を継承しつつ、独自色も打ち出している。

継承した政策

  • 防災庁創設: 2026年度中の防災庁創設方針を引き継ぎ、事前防災対策と災害時の医療体制強化を推進
  • 能登半島地震・豪雨からの復旧・復興: 激甚災害指定と予備費からの追加支出を継続

独自政策

  • 日銀との関係: 石破前首相が早期利上げに前向きだったのに対し、高市首相は「時期尚早」との見方を示し、政府と日銀の共同声明(アコード)については「今の段階で直ちに見直すことは考えていない」と慎重姿勢
  • 資産運用立国: 岸田政権以来の「資産運用立国」路線を継承し、人的投資やインパクト投資を促進
  • 租税特別措置の見直し: 政策効果が低い租特の廃止を明言

11月4日には「日本成長戦略本部」を始動させ、AI・半導体など17項目を戦略分野に設定。官民連携フレームワークを構築し、短期・中期・長期の戦略目標とロードマップを策定する方針を示した。

支持率と政治的評価

発足当初の世論調査では、高市内閣の支持率は主要6社で64~75%と高水準を記録した。日本初の女性首相誕生への期待感と、明確な政策ビジョンが評価されたと見られる。

一方で、SNS上では「#高市やめろ」というハッシュタグも広がり、過去の「電波停止」発言への懸念や、村山談話への批判的姿勢を問題視する声も上がっている。ただし、これに対しては「高市早苗総理には国旗損壊罪に続きスパイ防止法を制定して欲しい」「保守政権として期待できる」といった支持の声も多く寄せられており、評価は二極化している。

今後の課題と展望

高市政権が発足1ヶ月で直面している主な課題は以下の通りである。

短期的課題

  1. 補正予算の国会成立: 12月17日の臨時国会閉会までに17.7兆円の補正予算を成立させる必要がある
  2. 中国との関係修復: 外交摩擦をどう収束させるかが問われる
  3. 円安・長期金利上昇への対応: 財政規律と経済対策のバランスをどう取るか

中長期的課題

  1. 少数与党下での政権運営: 自民・維新の連立を維持しつつ、他党との政策協議をどう進めるか
  2. 危機管理投資の成果: 新たな成長戦略が実際に経済成長につながるか
  3. 防衛費増額と財源: GDP比2%前倒しの財源をどう確保するか
  4. 衆議院解散のタイミング: 「経済最優先」を掲げ早期解散には否定的だが、支持率が高いうちに解散総選挙を行うべきとの声も

まとめ――「強い日本」への決意

「強い日本をつくるため絶対に諦めない」と宣言した高市首相は、発足1ヶ月で矢継ぎ早に政策を打ち出している。日本初の女性首相として注目を集める中、「責任ある積極財政」という明確な旗印のもと、従来の自民党政権とは一線を画する経済政策を展開しつつある。

トランプ大統領との早期の信頼関係構築、17.7兆円規模の補正予算編成、防衛費増額の前倒しなど、スピード感ある政策決定は評価できる。一方で、中国との外交摩擦、円安・金利上昇への対応、財政規律への懸念など、課題も山積している。

「危機管理投資」という新たな成長戦略が実を結ぶかどうか、そして少数与党下での政権運営が持続可能かどうか――高市政権の真価が問われるのはこれからである。「政策・命」を自認する高市首相が、どのようなロードマップで日本の再起を実現していくのか、今後も注視していく必要がある。

発足1ヶ月の高市政権は、「決断と前進」のスローガン通り、確かに動き出している。しかし、その道のりは決して平坦ではない。日本の未来を信じ、希望を抱ける政治を実現できるか――歴史的な女性首相の挑戦は、まだ始まったばかりである。

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