2026年1月、国内の金価格は1グラム当たり3万円を突破し、歴史的な高値を更新し続けている。「金は安定資産だ」という言葉は、インターネットの投資記事やニュースの中でもはや常句になっているが、その言葉の意味を改めて掘り下げて考えてみると、実はかなりの複雑さがある。
本記事では、金が本当に「安定資産」と呼べるのか、そのポイントを「賛」と「反」の両方の視点から検討していきます。
金が「安定資産」と呼ばれる理由
まず、金がなぜそのような評価を受けるのかを確認しておきましょう。
金には、他の資産にはない独自の特性があります。第一に、希少性があります。有史以来の地球上の採掘済み金の総量は約21万6,000トンと推定されており、これは50メートルプールに換算すると約3.3杯分に相当する量です。新規鉱山の開発も長期的に困難になっており、供給側の拡張には限界があります。第二に、通貨や国の信用に依存しないということです。株式や国債は、発行元の企業や政府の信用力に基づいて価値が決まります。一方で金は、それ自体に固有の価値があるため、特定の国や制度に依存しません。第三に、耐久性があります。金は酸化や腐食を受けず、数千年にわたって価値を保ち続けるということは歴史が証明しています。
これらの特性から、金は特に経済や政治に不安が高まる時期に「逃避先」として選ばれやすい資産になっています。「有事の金」という表現はこの動きを反映したものです。リーマンショック(2008年)やコロナショック(2020年)のような金融市場の大混乱の際には、金の価格が急騰する動きが見られました。世界金融危機の期間(2007年12月〜2009年2月)には、株式が大幅に下落する中で、金価格はドル建てで約21%上昇したという事実があります。
さらに、インフレに対するヘッジとしても機能する点が高く評価されています。インフレが続くと通貨の実質的な購買力が低下していきますが、金は法定通貨ではないため、政府による通貨増刷の影響を受けにくい。これが「資産保全」の手段としての金の強みです。
「安定」という言葉には注意が必要
しかし、ここで「安定資産」という言葉を鵜呑みにすると危険です。
現実には、金の価格は相当に激しい変動を経験してきました。例えば、2011年に1トロイオンス1,900ドルを突破した後、2015年には1,050ドル台まで下落した。これは約45%の値幅です。株式の急落と比べると印象が薄いかもしれませんが、「安定」という言葉で描かれるイメージとは大きく異なります。
金価格が下落しやすい局面としては、以下のような条件があります。まず、実質金利の上昇。金は利息を生まない資産なので、金利環境が高まると、国債や預金といった利回りを生む資産の相対的な魅力が高まり、金への資金流入が鈍る傾向があります。2022年のアメリカのインフレ抑制策に伴う急激な利上げの局面では、金価格が一時的に調整する場面が見られました。次に、地政学的緊張の緩和。「有事の金」であるが故に、世界が安定に向かうと金の需要は相対的に落ち込む可能性があります。
つまり、金は「常に価値が高い」という資産ではなく、「他の資産が信頼されなくなった時に相対的に重視される」という資産です。この違いは非常に重要です。
中央銀行や機関投資家はなぜ金を買うのか
一方で、プロの世界で金に対する評価はむしろ高まっています。
2024年の世界の中央銀行による金購入量は約1,086トンに達し、過去最高水準を記録しました。特に中国、ロシア、インド、トルコなどの新興国が積極的に金準備を増強しています。その背景には、ドルへの依存度を下げるという戦略的判断があるとされています。
また、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の分析では、米ドルベースのポートフォリオに金を2.5%、5%、あるいは10%程度組み入れると、リスク調整後のリターンが上昇し、ドローダウン(最大損失幅)が縮小するという結果が示されています。特に世界金融危機以降、この効果は顕著になっています。
학術研究でも、ポートフォリオに金を10〜15%程度配分すると「リスクを抑えつつリターンを最大化できる」水準であると示されています。これは「金は資産全体のリスクを分散するためのツール」という見方の裏付けです。
金の機能:「安定」ではなく「分散」と「ヘッジ」
以上をまとめると、金の本質的な強みは「安定」という一言では収まらないことが見えてきます。
金の真の機能は以下の3つに収まるでしょう。
1つ目:ポートフォリオの分散効果
株式や債券と相関が低い資産であるため、他の資産が大きく動く際にポートフォリオ全体のボラティリティを抑える効果が見込めます。2000年代以降のデータでは、米国株式に金を組み入れていくと、リスク値が段階的に低下し、リスク対リターンの効率が改善していくという傾向が確認されています。
2つ目:インフレヘッジ
世界的な低金利環境や通貨の信用低下が懸念される場面で、金は購買力を維持するための「保険」として機能します。主要国の政府採債が過去最高に達し、通貨増刷の懸念が高まる中では、金の存在感は高まりやすい。
3つ目:有事時の逃避先
戦争や金融危機など、他の資産の信頼が揺らぐ場面で、金は国や通貨に依存しない実物資産としての安全性を発揮します。ただしこの機能は、「常に発揮される」のではなく「不安が高まった時点で発揮される」という条件付きです。
「今」の金価格をどう見る
2025年から2026年にかけて金価格は歴史的高値圏を維持しています。国際価格では1トロイオンス3,000ドルを超えた水準が新たな基準となっており、円建てでは1グラム2万円を突破した事実も記録されました。
この価格の高騰には複数の要因が重なっています。米中の貿易摩擦、中東情勢、ウクライナ問題などの地政学的リスクの長期化、FRBによる利下げの期待、そして円安による円建て価格の上昇が、いずれも上昇圧力となっています。中央銀行や機関投資家の金購入が続く中で、構造的な支えも強まっています。
ただし、「今が買い時か」という判断は別の話です。高値圏にある中で急に大幅な調整が入る可能性もゼロではありません。世界情勢が安定に向かったり、米国の実質金利が大幅に上昇したりすれば、金価格には下落圧力が生じる可能性があります。
まとめ:「安定資産」という言葉の落とし穴
「金は安定資産だ」と言われるときの「安定」には、大きく2つの意味が混在しています。一つは「価格が動かない」という文字通りの安定であり、もう一つは「長期的には価値が消えない」という意味での安定です。
前者に対する期待は、過去の実績を見れば正直に言えば裏切られることがあります。金の価格は短期的には大きく動きます。しかし後者の意味での安定は、金の希少性や実物資産としての信頼性から、今後も続く可能性が高い。
金は「何も起こらない時には目立たない」が「何か起こった時に救い」という資産です。これはポートフォリオにおける「保険」と非常に似た発想で、本質的には「当たらなくても持っておくべき」という考え方です。
ただし保険と同様に、金だけに資産を集中させるべきではありません。株式、債券、不動産、キャッシュなどと組み合わせた分散投資の中で、金を10〜15%程度の比率で組み入れるのが、現時点では多くの専門家が推奨している現実的なアプローチです。
「金は安定資産か」という問いに対する答えは、「安定」の定義によって変わります。しかし少なくとも「現代のポートフォリオにとって意味のある資産」であることは、中央銀行や機関投資家の動きが証明しています。
投資判断は自己責任です。本記事はあくまで情報提供を目的としており、特定の投資を勧めるものではありません。

