ふるさと納税の控除上限額検討が浮上――制度の現状と「金持ち優遇」批判の背景

制度

2024年12月2日、政府・与党がふるさと納税制度において住民税控除額に上限を設ける方向で検討に入ったことが明らかになった。高所得者ほど控除額が大きく高額の返礼品を受け取れることから「金持ち優遇」との批判が強まっており、2026年度税制改正大綱への盛り込みが検討されている。地方創生の切り札として期待されてきたふるさと納税制度は、今、大きな転換点を迎えようとしている。

ふるさと納税制度の概要と現状

ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附を行った場合、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度だ。納税者は実質2,000円の自己負担で地域の特産品などの返礼品を受け取ることができるため、制度開始以来、急速に拡大してきた。

2023年度の寄附額は約1兆1,175億円、寄附件数は約5,894万件となり、いずれも過去最高を更新した。これは制度開始年の2008年と比較して、寄附額は約137倍、寄附件数は約1,091倍に相当する規模だ。利用者数も初めて1,000万人を超え、制度は完全に定着したかに見える。

ふるさと納税の制度創設の背景には、2007年5月に当時の総務大臣である菅義偉氏が「生まれ育ったふるさとに貢献したい」という気持ちを形にするための制度構想を発表したことがある。地方で生まれ育った人材が都市部に移住して納税することで、地方の税収が減少し続ける問題を解決する狙いがあった。

これまでの「改悪」の歴史

ふるさと納税制度は、当初の理念とは裏腹に、自治体間の返礼品競争という予期せぬ方向へと進んでいった。その過熱ぶりを抑制するため、総務省は段階的に規制を強化してきた。

2019年6月の法改正

返礼品の割合を寄附額の3割以下に法制化し、返礼品は地場産品に限定することを定めた。この基準に適合しなかった泉佐野市など4自治体が一時的に制度対象外に指定された(後に最高裁判決で復帰)。

2023年の改正

自治体が寄付募集にかかる経費の合計費用を寄付金額の5割以下とするよう制限した。さらに、熟成肉や精米など返礼品の原材料は必ず当該自治体内で生産されたものに限定された。

2025年10月の規制強化

寄附に伴う独自ポイントを付与する仲介サイトを利用した寄附募集が禁止された。楽天ふるさと納税やふるさとチョイスなどのポータルサイト経由で受け取れていたサイト独自のポイントが、一切もらえなくなった。

2026年10月の予定

区域外で製造された加工品は、区域内で生産された原材料を100%使用している場合にのみ返礼品として認められるようになる。地場産品基準がさらに厳格化される見込みだ。

このように、ふるさと納税は制度発足以来、返礼品競争の過熱を抑制するための規制強化が繰り返されてきた。しかし、規制を強化するたびに自治体は新たな抜け穴を見つけ出し、「いたちごっこ」の様相を呈している。

なぜ控除上限額を設けるのか

今回検討されている控除上限額の設定は、これまでとは異なる視点からの規制だ。その背景には、制度の構造的な問題がある。

高所得者ほど有利な制度設計

控除の対象となる寄付額の上限は、年収や家族構成などに応じて増える。政府の試算によると、年収300万円の場合は年2万8千円の寄付まで。1千万円では18万円、1億円では438万円、10億円では4524万円までとなっている。

つまり、年収が高い人ほど多額の寄附ができ、結果として高額の返礼品を受け取ることができる。寄付額500万円以上が対象の純金製小判や、3千万円以上のスーツ仕立券などの高額返礼品も実際に存在する。

公的セクター全体での損失

ふるさと納税の財政への影響を見ると、深刻な問題が浮かび上がる。2015年の寄附金総額1652億円に対し、寄附を受けた地方公共団体は返礼品の調達と送料で合計674億円もの経費を負担している。

公的セクター全体で見ると、寄附者居住地の自治体からは税収が流出し、国は地方交付税で補填しなければならない。結果として公的セクター全体で674億円がマイナスとなり、この金額が寄附した人へ恵与される形になっている。

都市部自治体の深刻な流出

東京都や大阪府などの大都市圏の自治体からは、住民税が大量に流出している。税流出が止まらない都市部の自治体が、返礼品の充実を通じて、ふるさと納税の受け入れを増やそうとする動きが見られるようになった。

この結果、都市部同士で相互扶助のような構図になっていく可能性が懸念されている。例えば、A区の住人がB区のレストラン券を返礼品として受け取り、B区の住人がA区のホテル宿泊券を受け取るといった状況だ。これでは地方への税収還流という本来の趣旨から大きく逸脱してしまう。

地方創生には有効ではないのか

ふるさと納税が地方創生に果たしてきた役割については、評価が大きく分かれている。

プラスの側面

返礼品の提供等をめぐって自治体や事業者の創意工夫が喚起されている、都市部の地方への関心を高め、都市部と地方間でのヒト・モノ・カネの移動を促進している、その結果、地域経済に好影響を及ぼしているといった積極的な評価も確かに存在する。

「ふるさと納税のインパクトはすごい。返礼品に指定されてから売り上げが2倍になった」と語る地場業者もおり、一部の自治体や事業者にとっては大きな経済効果をもたらしている。

マイナスの側面

しかし、より長期的な視点から見ると、問題点も浮き彫りになる。

特定の魅力的な自治体に寄付が集中することで、資源が豊富な地域とそうでない地域との間で更なる経済的な差が生まれる恐れがある。地方創生を目指した制度が、かえって地方間の格差を拡大させている可能性がある。

また、「市がやってくれるので、発注に応えて作ればいいだけ」という他人任せの姿勢や、「独自ルートの通販の方がお客様の評価が厳しい」という商品やサービスの質を評価する視線の甘さも指摘されている。

公的セクターに依存していく「無責任な公共事業」を呼ぶ制度設計になっていることが最大の問題だという指摘もある。真の地方創生には、自治体や事業者が市場と真摯に向き合い、独自の魅力を磨き上げていく必要があるが、ふるさと納税はその機会を奪っている可能性がある。

研究からの示唆

学術研究でも、ふるさと納税は創設以降その利用が高所得層に集中していたこと、そして制度利用の拡大とともに、集中の度合いは弱まっていることが明らかになっている。制度が広がることで、一部の高所得者だけでなく中間層にも利用されるようになったものの、依然として所得による格差は存在する。

今後の展望

控除上限額の設定は、制度の抜本的な見直しにつながる可能性がある。しかし、具体的な上限額や開始時期はまだ決まっておらず、2026年度税制改正大綱での議論を待つ必要がある。

「返礼品ルールの厳格化だけでは限界がある」として、制度に参加できる自治体を制限したり、募集できる金額に上限を設けたりする必要があるとの専門家の指摘もある。

ふるさと納税制度は、地方創生という崇高な理念のもとに生まれた。しかし、返礼品競争の過熱、高所得者優遇の構造、都市部自治体の税収流出など、様々な問題を抱えるようになった。制度本来の趣旨に立ち返り、真に地方を活性化させる仕組みへと再構築する時期に来ているのかもしれない。

今回の控除上限額設定の検討は、ふるさと納税制度の在り方を根本から問い直す契機となるだろう。単なる返礼品目当ての節税対策ではなく、地方への真の貢献につながる制度へと進化できるか。2026年度に向けた議論に注目したい。

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