「出国税」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。海外旅行や海外出張をする際に、実は私たちは知らず知らずのうちにこの税金を支払っています。
最近では、オーバーツーリズム対策として出国税の引き上げが議論されるなど、この税制度が注目を集めています。今回は、日本における出国税の現状、メリット・デメリット、そして諸外国の状況について詳しく解説します。
日本の出国税の現状
国際観光旅客税とは
日本で「出国税」と呼ばれているのは、正式には国際観光旅客税です。観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保するために、「国際観光旅客税」が創設されました。
2019年1月7日から導入された出国税は、1月7日以降に発券かつ搭乗分から徴収されています。日本では実に27年ぶりの新税となりました。
課税の仕組み
原則として、船舶又は航空会社(特別徴収義務者)が、チケット代金に上乗せする等の方法で、日本から出国する旅客(国際観光旅客等)から徴収(出国1回につき1,000円)し、これを国に納付するものです。
つまり、空港の窓口で別途支払うのではなく、航空券や船舶券を購入する際に、すでに料金に含まれているのです。
課税対象と免除要件
課税対象者 一部例外を除き、訪日観光客だけでなく、日本人であっても国籍を問わずに一律1,000円が徴収されます。つまり、日本人が海外旅行に行く場合も、外国人が日本から出国する場合も、同じように課税されます。
免除される場合 次のケースに該当する場合は、出国税が免除されます:
- 2歳未満の幼児
- 同一航空券で日本に到着後、24時間以内に日本から出発する人(トランジット)
- 日本から出国したものの、天候やその他の理由によって日本に帰ってきた人
- 航空機や船舶の乗員
税収の推移
財務省が発表した24年度の国際観光旅客税の収入は481億円で、これまでで最高だった19年度の443億円を上回りました。
さらに、2024年度は過去最大の524億円の税収がありました。税収増の大きな要因は、円安と訪日客(インバウンド)の増加です。日本政府観光局(JNTO)によると、24年度の訪日客は3884万人で、前年度から34.7%増えました。
税金の使い道
「目的税」として導入されているこの税金、使い道は観光振興に集中しています。
具体的には:
- 出入国審査の円滑化: 顔認証ゲートや自動化ゲートの整備で、国内空港の出国待ち時間が大幅改善。成田・羽田・関空などに導入が進み、観光客の”おもてなし”部分にも投資が注がれています
- 多言語対応・情報発信: 自治体によるAR観光マップや多言語音声案内システム、スマホアプリなどが、税で実現しています。海外の観光客が地元を回りやすくなりました
- WiFi環境の整備
- 観光資源の整備
もう一つの「出国税」:国外転出時課税制度
実は、日本には「出国税」と呼ばれる制度がもう一つあります。
平成27年度税制改正により、国外転出時課税制度が創設され、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます)をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されることとなりました。
これは、富裕層が海外に移住することで日本での課税を逃れることを防ぐための制度です。一般の旅行者や出張者には関係ありませんが、資産家が海外移住する際には大きな影響があります。
出国税引き上げの議論
3倍への引き上げ案
最近、出国税の大幅な引き上げが議論されています。
出国税は日本人、外国人問わず、日本を出国する際に支払う必要がある。航空機や船の料金に上乗せして徴収している。出国税の引き上げは自民党内にも推進論があります。
自民党の石破茂総裁は、課税の強化もやむを得ない、と明言しました。「1,000円以上の負担で、インフラ整備を進めたい」という意図がうかがえ、増額を検討している旨の報道がなされました。
段階的な税率引き上げ:まずは1,500円、次いで3,000〜6,500円程度への引き上げ案が現実味を帯びてきていますという指摘もあります。
パスポート手数料引き下げとセット
増税によって、日本人の海外旅行の動きに悪影響が及ぶ可能性がある。このため旅券取得の際の手数料を引き下げることを同時に検討する。手数料は現在、10年用をオンラインで申請した場合は1万5900円となっています。
出国税を上げる一方で、パスポートの取得費用を下げることで、日本人の海外旅行への影響を緩和しようという狙いです。
使い道の拡大
税収の増加を見込み、観光公害対策として駐車場やゴミ箱の新設、交通機関の混雑緩和、観光施設への予約システムの導入支援などにあてる計画があります。
オーバーツーリズムが深刻化する中、観光地の環境整備やインフラ強化に、より多くの財源が必要とされているのです。
出国税のメリット
メリット1:観光インフラの整備財源
出国税の最大のメリットは、観光振興のための安定的な財源が確保できることです。目的税として使途が明確なため、観光関連のインフラ整備に確実に投資できます。
メリット2:公平な負担
訪日外国人も日本人も同じように課税されるため、観光によって生じるコストを公平に分担できます。特に、インバウンド観光客が増加する中で、彼らが利用するインフラの維持費用を一部負担してもらうことは合理的です。
メリット3:徴収の効率性
航空券や船舶券の購入時に自動的に徴収されるため、徴税コストが低く、取りこぼしも少ない効率的な制度です。
メリット4:観光施設の改善
実際に、顔認証ゲートの導入や多言語対応の強化など、目に見える形で観光環境が改善されています。
出国税のデメリット
デメリット1:日本人の海外旅行への影響
出国税が上がれば、日本人の海外旅行のコストも上昇します。出国した日本人客は1300万人で新型コロナウイルス禍前の19年と比べて35%減っています。出入国ともに円安が影響しているとみられます。
さらに出国税が引き上げられれば、日本人の海外旅行離れが加速する可能性があります。
デメリット2:増税への抵抗感
税収増の大きな要因は、円安と訪日客(インバウンド)の増加ですが、順調に税収が増えているからといって安易に増税すれば、国民の反発を招く可能性があります。
デメリット3:競争力への影響
出国税が高くなりすぎると、日本を経由する旅行者が減少し、ハブ空港としての競争力が低下する恐れがあります。
デメリット4:使途の透明性
目的税として観光振興に使われることになっていますが、実際の使い道が納税者から見えにくいという指摘もあります。
諸外国の出国税事情
各国の税額比較
出国税は日本だけでなく、世界各国で導入されています。
国名、税の名称・内容、金額(目安)、備考は以下の通りです:
- 日本:国際観光旅客税、1,000円(約6〜7ドル)、一律課税、比較的低額
- オーストラリア:Passenger Movement Charge、約60豪ドル(約6,000円)、世界最高水準の出国税
- 韓国:出国納付金、約10,000ウォン(約1,100円)、航空券に含まれる形で徴収
- イギリス:Air Passenger Duty、約13〜180ポンド(約2,500〜35,000円)、距離・クラスで変動
- アメリカ:空港施設利用料など、合計で20〜30ドル程度、複数の料金が加算
- フランス:環境航空税+空港税など、最大63ユーロ(約10,000円)、ビジネスクラスなどは高額
日本の税額は国際的に見て低い
金額に関しては、アジア諸国の同様の税額を参考に決定したため、各国と比べても比較的金額が安くなっています。
特にオーストラリアの約6,000円や、イギリスの最大35,000円と比べれば、日本の1,000円は非常に低い水準です。
各国の制度の特徴
オーストラリア 出国旅客税として約5000円を課税しており、世界最高水準です。
イギリス 航空旅客税として約2000円〜を課税(距離やクラスによって金額は異なる)という累進的な制度を採用しています。
韓国 出国納付金として出国旅客に課税。航空機の場合約1000円を徴収しており、日本と同水準です。
アメリカ 電子渡航認証システム(ESTA)申請手数料として外国人に約1500円を課税しています。
今後の展望
段階的な引き上げの可能性
予想される流れは以下のとおりです:段階的な税率引き上げ:まずは1,500円、次いで3,000〜6,500円程度への引き上げ案が現実味を帯びてきています。
国際的に見て日本の出国税が低いこと、オーバーツーリズム対策の財源が必要なことを考えれば、引き上げの可能性は高いと言えます。
課税の柔軟化
課税枠の柔軟化と累進制:所得や利用形態による負担差、短期者・LCC利用者に対する特例措置など、徴税の柔軟化が検討されています。
イギリスのように、距離やクラスによって税額を変える累進的な制度の導入も議論される可能性があります。
透明性の向上
税収が増える中で、使途の透明性をさらに高め、納税者が納得できる形で観光振興に活用されることが求められます。
まとめ:出国税とどう向き合うか
出国税(国際観光旅客税)は、2019年の導入以来、順調に税収を伸ばし、観光インフラの整備に貢献してきました。現在の1,000円という税額は国際的に見ても低い水準であり、オーバーツーリズム対策の財源として引き上げが検討されるのは自然な流れとも言えます。
一方で、日本人の海外旅行への影響や、税金の使途の透明性など、課題も残されています。特に、日本人の海外旅行者数がコロナ前から大きく減少している現状を考えれば、安易な増税は日本人の国際交流をさらに阻害する恐れがあります。
重要なのは、税率の適正水準を見極めることと、集めた税金を本当に観光客や国民のために使っているという実感を持ってもらうことです。
あなたは、出国税の引き上げについてどう考えますか?観光立国を目指す日本にとって、この税制度をどう活用していくべきか、私たち一人ひとりが考えるべき問題なのかもしれません。

