3度目の大阪都構想:15年の執念か民意の軽視か

制度

2026年1月、大阪府の吉村洋文知事と大阪市の横山英幸市長が辞職し、出直しダブル選挙に臨む意向を表明しました。争点は「大阪都構想」の3度目の挑戦です。2度の住民投票で否決され、吉村氏自身が「もうやらない」と涙ながらに宣言したはずの都構想が、なぜ再び浮上したのか。本記事では、大阪都構想のこれまでの経緯、制度の内容、そして実現した場合の影響について詳しく解説します。

大阪都構想とは何か

基本的な仕組み

大阪都構想とは、大阪市を廃止して複数の特別区に再編し、広域行政を大阪府に一元化する構想です。東京都と23区の関係に近い形を目指しています。

主なポイント

  • 大阪市(政令指定都市)を廃止
  • 市内24区を4つの特別区に再編(2020年案)
  • 広域行政(都市計画、交通インフラ、経済政策など)は大阪府が一元的に担当
  • 基礎的な住民サービス(福祉、教育など)は特別区が担当
  • 特別区には公選の区長と区議会を設置

重要な注意点:「大阪都」という名称にはなりません。法制度上、大阪府のままです。

推進派が掲げる目的

大阪維新の会が都構想を推進する主な理由は「二重行政の解消」です。

二重行政の例として挙げられるもの:

  • りんくうゲートタワービル(大阪府)とワールドトレードセンタービル(大阪市):互いに「高さ」を競い合い、最終的には10センチの差で決着。ともに経営破綻。
  • 広域交通インフラの整備遅れ:大阪府と大阪市の費用負担を巡る議論が進まず、環状道路網の整備が遅れた。

推進派は、二重行政を解消することで以下のメリットがあると主張します:

  • 意思決定のスピード化
  • 経費削減により住民のために使えるお金が増える
  • 大阪を発展させる事業計画がスピーディに進む
  • 住民により近い視点で行政サービスが提供される

これまでの経緯:15年の歴史

第1期:橋下徹時代(2008-2015年)

2008年:橋下徹が大阪府知事に当選 2010年:「大阪維新の会」を結成、都構想を党是に掲げる 2011年:橋下が知事を辞職して市長選に出馬、松井一郎が知事に当選。ダブル選を制して都構想実現への体制が整った。

2015年5月17日:第1回住民投票

  • 結果:賛成 694,844票、反対 705,585票
  • 約1万票差で否決
  • 投票率:66.83%
  • 橋下徹は政界引退を表明

第2期:松井一郎・吉村洋文時代(2019-2020年)

維新は諦めなかった。

2019年4月:松井と吉村が知事・市長を「入れ替え」て出馬するダブル選を実施。再挑戦への信任を得たと主張し、再び住民投票へ。 2019年12月:法定協議会で都構想の大枠が維新および公明党の賛成多数で了承された。

2020年11月1日:第2回住民投票

  • 結果:賛成 675,829票、反対 692,996票
  • 約1.7万票差で否決(1回目より差が開いた)
  • 投票率:62.35%
  • コロナ禍の真っただ中での実施
  • 松井一郎は政界引退を表明
  • 吉村洋文は涙ながらに「僕が都構想に挑戦することはない」「僕たちが掲げてきた大阪都構想はやはり間違っていたと思う」と明言

第3期:3度目の挑戦(2022年〜現在)

しかし、吉村氏の発言は長続きしなかった。

2022年1月:吉村氏「3回目の住民投票にチャレンジすることはない」と述べる 2022年12月:「大阪維新の会とすれば、大阪都構想を掲げ続けるべきだと思ってる。だけど僕がやるべきことではない」と自身の再挑戦を否定

2023年4月:知事選で再選を果たした際、「都構想の看板を下ろしていない」とコメント

2024年6月:日本維新の会の馬場伸幸代表(当時)が3度目の住民投票実施に意欲を示す 2024年11月:大阪維新の会の代表選挙で吉村が都構想への再挑戦を掲げて再選 2024年12月:日本維新の会代表選挙で吉村が選出される

2025年7月:参議院選挙後、吉村は「副首都構想」を実現する前提条件として都構想が必要と主張

2026年1月13日:衆院解散の可能性に合わせ、吉村知事と横山市長が辞職し出直しダブル選挙に臨む意向を表明 2026年1月15日:正式に辞職表明。「大阪の成長、未来のために副首都大阪、都構想を公約に掲げて挑戦させてもらいたい」と語った。

大阪都構想のメリット・デメリット

推進派が主張するメリット

1. 二重行政の解消

  • 大阪府と大阪市が似たような施設を別々に作る無駄がなくなる
  • 意思決定がスピーディになる

2. 経済効果

  • 年間で1000億円の効率化効果(推進派試算)
  • 民間からの投資が活発になり、大阪が発展

3. 住民自治の強化

  • 1人の市長から4人の特別区長になることで、住民の声が届きやすくなる
  • より地域密着型の行政サービスが可能

4. 大阪府民税が大阪市内に使われるようになる

  • これまで大阪市民が払っている府民税が大阪市内に使われていなかったのが、使われるようになる

5. 特別区間の財政格差を調整する仕組みがある

  • 大阪中心部(北区、中央区)からの潤沢な法人税収などが特別区内に配分される

反対派が指摘するデメリット

1. 行政コストの増加

  • 初期コスト:241億円(推進派試算)
  • ランニングコスト:年間30億円(推進派試算)
  • 反対派試算では年間約200億円のコスト増(スケールデメリット)
  • 大阪市財政局の試算では年間約218億円の基準財政需要額の増加

2. 権限の大幅縮小

  • 政令指定都市(府の権限の90%以上を持つ)から特別区(一般市町村より小さい権限)への格下げ
  • 消防車一つ買えない、村より小さい権限しか持たない自治体になる
  • 予算の要望などを大阪府を介して行う必要がある

3. 財政の不安定化

  • 大阪市民の税金の4分の3が大阪府税に変わる
  • 国からの地方交付税交付金も大阪府が吸収
  • 最終的に特別区へどれだけ再配分するかは大阪府の条例で決定
  • 大阪府内の人口のうち大阪市は3割しか居住しておらず、特別区は将来絶えず財政削減の圧力を受け続ける可能性

4. 三重行政の懸念

  • 大阪府・特別区・一部事務組合の三重行政となる恐れ
  • 一部事務組合で120もの事業を担わざるをえない(予算1000億円、職員数400人近く)
  • 国民健康保険、介護保険、多くの福祉施設などが含まれる

5. 住所表記の変更

  • 年賀状の宛先変更や法人のシステム変更が必要

6. 大阪市という自治体の消滅

  • 一度特別区になると、二度と大阪市には戻ることはできない
  • 長い歴史によって作り上げられた大阪市という構成体が消滅

7. 教育への悪影響

  • 政令指定都市が有していた優秀な教員確保のための採用や研修の権限を喪失
  • 学校設置運営に関わる条件整備が劣化する懸念

大阪都になったら何が起こるのか

行政の仕組みが変わる

現在

  • 大阪市(政令指定都市):広い権限と財源を持つ
  • 大阪府と大阪市が並立

都構想実現後

  • 大阪市は廃止
  • 4つの特別区が誕生(公選の区長と区議会)
  • 広域行政は大阪府に一元化
  • 基礎的サービスは特別区
  • 120の事業は一部事務組合が担当

財政の流れが変わる

現在

  • 大阪市が独自に税収を確保し、事業を実施

都構想実現後

  • 大阪市民の税金の4分の3が大阪府税に
  • 大阪府が条例で特別区への配分を決定
  • 特別区間の財政調整が必要

住民生活への影響

変わること

  • 住所表記が変更される(例:大阪市北区 → 北特別区)
  • 特別区長が公選となり、住民の声が届きやすくなる(推進派の主張)
  • 広域的な政策決定に市民の意見が反映されにくくなる(反対派の主張)

変わらないこと(推進派の主張)

  • 地域コミュニティは変わらない
  • 基礎的な住民サービスは維持される

3度目の挑戦をめぐる論点

推進派の論理

「民意は僅差だった」

  • 2回の住民投票はいずれも僅差
  • 有権者の半数近くが賛成しているのだから、「完全に否定された」とは言えない

「状況が変わった」

  • 2023年の統一地方選で維新は府議会・市議会ともに過半数を獲得
  • 議会での基盤は盤石

「副首都構想のために必要」

  • 国政で副首都法案が真剣に議論されるようになった
  • 副首都構想を実現する前提条件として都構想が必要

反対派の論理

「2度の民意を無視」

  • 2度も住民投票で否決されている
  • 吉村氏自身が「もうやらない」と明言していた

「出直し選挙で勝つことと住民投票で勝つことは別」

  • 2019年のダブル選で維新が勝っても、2020年の住民投票では負けた
  • 同じことが繰り返されるだけではないか

「総選挙のどさくさに紛れて」

  • 衆院解散に乗じた出直し選挙
  • 住民の議論・理解もないまま押しつける党利党略

「多額の税金が投じられる」

  • 出直し選挙に多額の税金が必要
  • 2013年以降、都構想関連の事務にあたる人件費や選挙関連費用は計100億円超

おわりに

大阪都構想は、2008年の橋下徹の府知事就任から数えて15年以上にわたって議論されてきた構想です。2度の住民投票で否決されたにもかかわらず、3度目の挑戦が行われようとしています。

推進派は「二重行政の解消」「意思決定のスピード化」「経済効果」を掲げ、反対派は「行政コストの増加」「権限の縮小」「財政の不安定化」「大阪市という自治体の消滅」を懸念します。

「15年間、一つの政策を追い続けるのは珍しい」。それを「執念」と呼ぶか「しつこい」と呼ぶかは、立場によって変わります。民主主義は面倒で、時間がかかり、同じ議論を何度も繰り返します。それでも、力ずくで決めるよりはマシです。

3度目の住民投票が実施されるかどうかは、まず出直し選挙の結果次第です。そして、仮に維新が勝っても、最終的には住民投票で決まります。大阪の有権者が、3度目の判断を下す日が来るかもしれません。

**一度特別区になると、二度と大阪市には戻ることはできません。**この重大な決断を、大阪市民はどのように下すのでしょうか。

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