米軍によるベネズエラ攻撃:何が起きたのか、その背景と国際社会の反応を解説

世界

2026年1月3日、国際社会に衝撃が走りました。アメリカ軍がベネズエラの首都カラカスを含む複数の地点を攻撃し、ニコラス・マドゥロ大統領と夫人を拘束してアメリカ本土に移送したと発表したのです。この軍事行動は国際法違反の可能性が指摘され、世界各国から批判や懸念の声が上がっています。本記事では、この事態の経緯、アメリカの論理、国際社会の反応、そして今後の展望について詳しく解説します。

何が起きたのか:2026年1月3日の攻撃

2026年1月3日午前2時頃(ベネズエラ標準時)、ベネズエラの首都カラカスで複数回の爆発音と航空機の飛来が報告されました。アメリカ軍第160特殊作戦航空連隊のMH-47やMH-60ヘリコプターがカラカス上空で目撃され、市内各所で爆発が発生しました。

攻撃はカラカスだけでなく、ミランダ州、アラグア州、ラ・グアイラ州の港湾施設など複数の地点で確認されています。ベネズエラ政府は直ちに国家非常事態を宣言し、国連安全保障理事会緊急会合の招集を要求しました。

午前5時21分、トランプ大統領はSNS(Truth Social)で「ニコラス・マドゥロ大統領と夫人を拘束し、国外に移送した」と発表。CBSの報道によれば、アメリカ軍の特殊部隊デルタフォースがマドゥロ大統領を拘束したとされています。国務長官のマルコ・ルビオは、マドゥロ大統領をアメリカ本土に移送し、刑事訴追を受けさせると述べました。

経緯:2025年9月から続く軍事的緊張

今回の攻撃は突然発生したものではありません。2025年8月からアメリカ軍は南カリブ海における軍備拡張を開始し、軍艦と約4000人の兵員を派遣していました。

2025年9月2日、アメリカ軍は南カリブ海でベネズエラ発とされる船舶を空爆し、乗組員11人全員が死亡しました。トランプ大統領は「麻薬密輸テロリスト」を標的にした攻撃だと発表し、自ら攻撃映像をSNSに投稿しました。

その後も攻撃は断続的に続き、2025年10月時点で少なくとも4回の攻撃が確認されています。アメリカ政府はこれらの作戦を「オペレーション・サザン・スピア(南の槍作戦)」と名付け、「麻薬カルテルとの戦争の一環」と位置づけてきました。報道によれば、これらの攻撃で合計100人以上が死亡しています。

アメリカの論理:「麻薬テロとの戦争」という正当化

アメリカ政府は今回の軍事行動を正当化するため、主に3つの論点を打ち出しています。

1. フェンタニル危機への対応

アメリカ国内ではフェンタニルなどの合成麻薬による死者が急増しており、深刻な社会問題となっています。2025年12月、トランプ大統領はフェンタニルとその前駆体を「大量破壊兵器(WMD)」に指定する大統領令に署名し、「麻薬はアメリカへの化学兵器攻撃になり得る」とまで述べています。

2. マドゥロ政権の正統性否定

アメリカ政府は、2024年のベネズエラ大統領選挙を不正だと非難し、マドゥロ政権を正統な政府として認めていません。国務長官マルコ・ルビオは2025年7月、SNS上でマドゥロ政権を「正当政府ではない」と断定しています。

3. 麻薬カルテルとの関係

アメリカはベネズエラ政府が「カルテル・デ・ロス・ソレス(太陽のカルテル)」という麻薬密輸ネットワークと連携しており、マドゥロ大統領がその中心人物だと主張しています。ベネズエラ政府やトレン・デ・アラグアなどを「麻薬テロ組織」に指定し、「武装勢力との武力紛争」と位置づけることで、軍事行動を正当化しようとしています。

アメリカは1989年のパナマ侵攻とノリエガ将軍拘束の際にも、類似の論理を用いています。これは「ケル・ドクトリン」と呼ばれる法理論に基づくもので、他国の指導者であっても麻薬取引などで米国内法に違反した場合、米国の裁判管轄権が及ぶとする考え方です。

国際法上の問題点:国連憲章違反の可能性

しかし、今回のアメリカの行動には重大な国際法上の問題があります。

国連憲章第2条4項は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と定めています。

2025年10月、国連専門家は声明で「隠密行動や直接の軍事行動の準備は、国連憲章違反のより重大な形態である」と警告しており、政権転覆を目的とした武力行使を明確に問題視していました。

実際にマドゥロ大統領を拘束する大規模作戦が行われたことを踏まえると、多くの国や専門家がこれを国連憲章第2条4項に反する違法な武力行使、実質的な「侵略」とみなすのはほぼ確実です。

自衛権の行使や国連安保理の承認があれば武力行使は合法となりますが、今回のケースでは以下の点が問題視されています。

  • ベネズエラからの武力攻撃は確認されておらず、自衛権の要件を満たさない
  • 国連安保理の承認を得ていない
  • 他国の首都を空爆し、国家元首を拘束する行為は明らかな主権侵害である
  • 「麻薬テロとの戦争」という理由付けは、国際法上の武力行使の正当化事由として認められていない

国際社会の反応:賛否が分かれる世界

批判的な反応

国連:グテーレス事務総長は声明で、アメリカの攻撃は「危険な前例になる」と指摘し、「地域全体に懸念すべき影響を及ぼしかねない」と表明しました。

ロシア:ロシア外務省は米国の攻撃について「武力による侵略行為」を深く憂慮しているとし、強く非難されるべきだとの見解を示しました。国連安保理の緊急会合を求めるベネズエラ当局とラテンアメリカ諸国の声明を支持すると表明しています。

中国:「一方的ないじめ(unilateral bullying)に反対」と表明し、ベネズエラの主権と国連憲章の尊重を繰り返し主張しています。外務省は「覇権的行為は国際法違反」と強く非難しました。

イラン:外務省は「今回の攻撃は侵略行為であり、主権国家に対する武力の行使を禁じる国連憲章と国際法の基本原則の明確な違反である」と述べました。

キューバ:ディアス・カネル大統領は「ラテンアメリカが残忍な攻撃を受けている。これはアメリカによる勇敢なベネズエラの人々と私たちに対する国家テロだ」とコメントしました。

チリ:ボリッチ大統領は「チリ政府として我々はベネズエラにおける米国の軍事行動に懸念と非難を表明し、同国の深刻な危機に対し平和的解決を求める」と述べました。

イギリス・EU:イギリス首相は「一切関与していない」としたうえで「国際法を順守すべき」と指摘。EUも国際法の順守を求める声明を発表しました。

支持的な反応

アルゼンチン:ミレイ大統領は、トランプ政権による攻撃を賞賛し「自由万歳!」とコメントしています。

日本の対応

日本政府は情報収集を急ぎつつ、国家安全保障会議(NSC)の開催を検討していると報じられています。外務省は在ベネズエラ日本大使館に対策本部を設置し、本省でも連絡室を設置して現地在住邦人の保護などの対応に当たることを決定しました。

日本は2025年1月のG7外相会合でマドゥロ大統領について「民主主義上の正統性に欠ける」と批判する声明を出しており、民主主義・人権の観点では米国と問題意識を共有してきました。しかし、今回の一方的な軍事行動に対してどのような立場を取るのか、難しい判断を迫られています。

今後の展望と懸念事項

国際秩序への影響

今回のアメリカの行動は、国際法や国連中心の秩序に重大な影響を与える可能性があります。

もしアメリカの論理が認められるとすれば、「麻薬取引」「テロ支援」「人権侵害」などを理由に、どの国も他国への軍事介入が可能になってしまいます。これは国際秩序の根幹を揺るがす事態です。

特に問題なのは、ロシアのウクライナ侵攻を批判してきた西側諸国が、アメリカの行動をどう評価するかという点です。ロシアも「分離独立派の保護」「ナチズムからの解放」という名目でウクライナ侵攻を正当化しようとしましたが、西側はこれを明確に「侵略」と断定しました。

今回、アメリカが同様の一方的な武力行使を行ったことで、国際社会における「二重基準」の問題が浮き彫りになっています。ロシアは今回の件で「国際法の擁護者」を自認できる格好の機会を得た形となり、ウクライナ問題での孤立を緩和する材料として利用する可能性があります。

ベネズエラ情勢

マドゥロ大統領の拘束により、ベネズエラ国内は混乱状態に陥っています。ベネズエラ副大統領のデルシー・ロドリゲスはマドゥロ夫妻の所在が不明であることを認め、アメリカ政府に対して両名の生存の証明を要求しています。

アメリカが支持する野党指導者が政権を掌握するのか、マドゥロ政権を支持する勢力が抵抗を続けるのか、内戦状態に陥るのか、予断を許さない状況です。

エネルギー市場への影響

ベネズエラは世界最大級の原油埋蔵量を持つ国です。今回の軍事衝突により、原油供給への懸念が高まり、価格変動のリスクが増大しています。特に日本のようなエネルギー輸入依存国にとっては、原油価格の上昇が経済に直接的な影響を及ぼします。

おわりに

アメリカ軍によるベネズエラ攻撃は、21世紀の国際秩序に重大な問題を投げかけています。「麻薬対策」という名目で他国の首都を空爆し、国家元首を拘束・連行するという前例のない行動は、国際法の根幹を揺るがすものです。

マドゥロ政権に民主主義や人権の問題があることは事実かもしれません。しかし、それを理由に一方的な軍事介入を正当化できるのか。もしそれが許されるなら、国際社会は「力の論理」が支配する無秩序な世界に後退してしまいます。

日本を含む国際社会は、アメリカとの同盟関係や経済的利益と、国際法の尊重という原則のバランスをどう取るのか、難しい選択を迫られています。この事態がどのように展開し、国際秩序にどのような影響を与えるのか、引き続き注視していく必要があるでしょう。

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