2024年から深刻化している米価高騰を受けて、政府が物価高対策として打ち出した「お米券」配布政策が大きな話題となっています。一見すると家計を助ける良い政策のように見えますが、実はさまざまな問題点が指摘され、賛否両論を巻き起こしています。
今回は、お米券とは何なのか、なぜ配布されることになったのか、そして何が問題視されているのかについて、詳しく解説します。
お米券とは何か?
基本的な仕組み
お米券は1枚500円で販売されていますが、商品券としての価値は440円分で、残りの60円は流通経費として購入者が負担する仕組みです。
お米券には主に2種類があります。
全国共通おこめ券 全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)が発行する商品券で、全国のお米屋さん、スーパー、デパートなどで使用できます。
おこめギフト券 全国農業協同組合連合会(JA全農)が発行する券で、同様に米の購入時に使用可能です。
有効期限がない利点
お米券には有効期限がないため、贈り物として人気が高くなっています。この特性が、自治体による配布政策でも注目された理由の一つです。
なぜ今「お米券」なのか?
深刻化する米価高騰
お米券配布の背景には、2024年から続く深刻な米価高騰があります。
農水省が発表した10月27日から11月2日に全国のスーパーで販売された米の平均価格は、5キログラムあたり4235円となり、2週ぶりに値上がりし、5月中旬に記録した過去最高の4285円に迫る水準となっています。9週連続で4000円台という異常事態が続いているのです。
この価格高騰の主な原因は、猛暑による2023年産・2024年産米の生産量減少、生産コストの上昇、インバウンド需要の回復、そして流通構造の変化など、複合的な要因によるものです。
政府の対応方針
政府は、国が直接おこめ券を配るのではなく、自治体が配布する場合に、国がその費用を交付金でサポートするというやり方を念頭に置いています。
具体的には、自治体向けの「重点支援地方交付金」の食料品高騰に対応する特別枠として拠出される予定で、予算規模は4000億円に上るとされています。
先行事例
すでに一部の自治体では配布が始まっています。
兵庫県尼崎市は、全世帯を対象に1世帯あたり440円分の券を5枚(2200円分)を発送しました。また、東京都台東区は、全世帯に440円分の券が10枚(4400円分)配られ、18歳以下の児童がいる世帯や3人以上の世帯には20枚(8800円分)が配布されています。
お米券の何が問題なのか?
問題1:利益誘導との批判
最も強い批判は、特定業界への利益誘導ではないかという指摘です。
おこめ券は、1枚500円の購入費に対し、実際の換金価値は440円で、差額の60円分は券の印刷代や流通経費、マージン(利益)などになっています。
紙で発行すると農協等の関係団体への利益誘導となるという批判が展開しています。お米券を発行するのは全米販とJA全農の2団体のみであり、お米券関連の予算規模は4000億円に上るため、巨額の税金がこの2団体に集中することへの懸念が高まっています。
鈴木憲和農相は山形県出身で農水省出身、農協が全面的にバックアップしている農水族議員として知られており、この政策推進が利益誘導ではないかとの疑念を強める要因となっています。
問題2:配布コストの高さ
自治体にとっても券の配送費が多額になり、事務を担う職員の負担も重くなることから、公費の使い方に疑問の声も多いのです。
実際、大阪府交野市の山本景市長は、お米券を配布しない理由として、経費率が10%以上と高いことを挙げ、経費率が1%の上下水道基本料金免除や経費のかからない給食無償化に充てたいと表明しています。
問題3:米価高止まりを助長する懸念
お米券配布をめぐっては、米価格の高止まりを助長しかねないとの声が上がっています。
需要が増えれば価格がさらに上昇する可能性があり、結果的に消費者の負担軽減にならないどころか、かえって高値を固定化してしまう恐れがあります。
問題4:一時的な効果しかない
家計支援が一時的効果にとどまる可能性があるという根本的な問題もあります。
米価高騰の構造的な原因(生産量減少、農業従事者の高齢化、流通の混乱など)を解決しない限り、お米券は一時しのぎにしかなりません。
問題5:使途の曖昧さ
農相はお米券が使用できる食料品の範囲については民間に委ねると発言しており、その行方が迷走気味です。
お米券がお米以外の食料品に使用できるとなれば、米価格高騰への対策効果が弱まる可能性があります。本来の目的である米価高騰対策としての効果が薄れてしまうのです。
問題6:配布の遅れ
政府は具体的にいつ配るかの目安はまだ示していませんが、実際に配布されるのは早くても2026年春から秋になると見られています。その頃には米価が下落している可能性もあり、タイミングの問題も指摘されています。
鈴木農相の反論と自治体の反応
農相の主張
鈴木氏は「それ(券)を使うか、使わないかは自治体の自由」と述べ、配布の責任は政府でないため、批判は当たらないとの認識を示しました。
また、おこめ券自体の存在を知らない自治体も多いとして、12月3日から自治体向けのオンライン説明会を開くと発表しています。
自治体の対応
対応は自治体によって分かれています。台東区や尼崎市のように積極的に配布する自治体がある一方で、前述の交野市のように明確に「配布しません」と宣言する自治体も出てきています。
本当に必要な対策とは?
お米券配布をめぐる議論で浮き彫りになったのは、日本の米政策の構造的な問題です。
短期的な対策の限界 お米券のような一時的な補助金政策では、根本的な解決にはなりません。
必要とされる構造改革
- 農業従事者の高齢化への対応と後継者育成
- 気候変動に対応した品種改良と栽培技術の開発
- 流通構造の透明化と効率化
- 適切な生産量の管理
消費者支援と生産者支援のバランス 消費者支援と農家の経営安定という二律背反の課題をどう両立させるかが重要です。
まとめ:お米券は本当に家計を助けるのか?
お米券配布政策は、米価高騰に苦しむ家計を支援しようという意図から生まれました。しかし、その実施にあたっては多くの問題が指摘されています。
- 発行2団体への利益誘導の懸念
- 高い配布コストと事務負担
- 米価高止まりを助長する可能性
- 一時的な効果しか期待できない
- 使途の曖昧さと配布時期の遅れ
長期的視点での米政策のあり方が問われるなか、「おこめ券」という手段が、物価高対策としてコストに見合う効果を発揮できるのか、今後の展開が注目されます。
各自治体がどのような判断を下すのか、そして実際に配布された場合にどのような効果があるのか──。「お米券」をめぐる議論は、日本の農業政策と社会保障のあり方を考える重要な機会となっているのです。
自分の住む自治体がお米券を配布するのか、それとも別の支援策を選ぶのか。住民一人ひとりが関心を持ち、声を上げることが大切ではないでしょうか。

