最高裁判所裁判官国民審査とは
最高裁判所裁判官国民審査は、衆議院議員総選挙と同時に実施される、最高裁判所の裁判官が適任かどうかを国民が直接判断する制度です。日本国憲法第79条に基づいて行われる、国民が司法に参加できる唯一の機会であり、三権分立における国民主権を体現する重要な制度といえます。
最高裁判所は「憲法の番人」と呼ばれ、法律や行政の行為が憲法に違反していないかを最終的に判断する権限を持つ、日本で最も重要な裁判所です。その裁判官が国民の信頼に値するかどうかを、私たち有権者が審査する機会が国民審査なのです。
第51回衆議院議員総選挙が2026年2月8日に実施されることに伴い、同日に最高裁判所裁判官国民審査も行われます。
国民審査の対象となる裁判官
最高裁判所には長官1名と裁判官14名の合計15名がいます。国民審査の対象となるのは、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際と、その後10年を経過した後に初めて行われる衆議院議員総選挙の際です。
つまり、新しく最高裁判所の裁判官に任命された人は、次の衆院選で必ず国民審査を受けることになります。そして一度審査を受けた後も、10年ごとに再び審査を受ける仕組みになっています。
ただし、最高裁判所裁判官の定年は70歳と定められているため、実際には多くの裁判官が一度しか審査を受けないまま退官することになります。
投票の方法
国民審査の投票用紙には、審査対象となる裁判官の氏名が印刷されています。この用紙の使い方が一般的な選挙とは異なるため、注意が必要です。
基本ルール:
- やめさせたい裁判官には「×」を記入
- 信任する(続けてほしい)裁判官には何も書かない
これは一般的な選挙で候補者名を書くのとは真逆の方式で、多くの有権者が戸惑うポイントです。○を書いてしまったり、何も書かずに提出してよいのか迷ったりする人も少なくありません。
何も記入しない票は「信任」の意思表示となります。つまり、白紙で提出することは「全員を信任する」という意味になるのです。
審査の結果と効力
投票の結果、×印が有効投票総数の過半数に達した裁判官は罷免されます。つまり、投票者の半数以上が「やめさせたい」と判断した場合に、その裁判官は職を失うことになります。
ただし、これまでの歴史を振り返ると、罷免された裁判官は一人もいません。過去最高の不信任率でも約15%程度にとどまっており、過半数に達したことは一度もないのです。
なぜ罷免された裁判官がいないのか?
この理由としては以下のような点が指摘されています:
- 制度の認知度が低く、よく分からないまま白紙で提出する人が多い
- 裁判官の情報が十分に提供されていない
- 衆院選と同時実施のため、国民審査への関心が薄れがち
- 白紙票が信任とカウントされる仕組み
判断材料をどう得るか
国民審査で最も難しいのが「裁判官をどう判断するか」という点です。政治家のように選挙活動を行うわけではないため、一般の有権者が裁判官の仕事ぶりや考え方を知る機会は限られています。
判断材料の入手方法:
1. 最高裁判所ホームページ 各裁判官のプロフィール、経歴、これまでに関わった主な裁判などが掲載されています。
2. 選挙公報 各家庭に配布される選挙公報には、審査対象の裁判官に関する情報が掲載されます。経歴や担当した主な事件、裁判官としての考え方などが記載されています。
3. 新聞・メディアの特集記事 衆院選前には、主要新聞社やメディアが国民審査の特集記事を組むことがあります。各裁判官の判決傾向や注目すべき判断などが解説されます。
4. 法律専門家の解説 弁護士や法学者による解説記事やSNS投稿も参考になります。専門的な視点から各裁判官の特徴が分析されています。
重要な判例と裁判官の判断
最高裁判所は憲法問題や社会的に重要な事件について最終判断を下します。過去には以下のような重要な判決がありました:
- 夫婦別姓訴訟: 夫婦同姓を定める民法の規定が憲法違反かどうか
- 一票の格差訴訟: 選挙における議員定数の不均衡が違憲かどうか
- 同性婚訴訟: 同性カップルの婚姻を認めないことが違憲かどうか
- 再婚禁止期間訴訟: 女性の再婚禁止期間が合憲かどうか
- GPS捜査違法判決: 令状なしのGPS捜査の適法性
これらの判決で各裁判官がどのような立場を取ったか、多数意見に賛成したのか反対意見を述べたのかなどを知ることで、その裁判官の考え方を理解する手がかりになります。
国民審査の意義と課題
制度の意義:
国民審査は、司法の独立を保ちながらも、最高裁判所が国民から遊離しないようにするための重要な制度です。裁判官は法と良心に従って判断を下しますが、最終的には国民の信頼の上に成り立っています。この制度により、国民が司法に対して意思表示できる機会が保障されているのです。
現状の課題:
一方で、国民審査には以下のような課題も指摘されています:
1. 形骸化の問題 罷免された裁判官が一人もいないことから、制度が形骸化しているという指摘があります。有権者の多くが判断材料不足のまま白紙で投票しており、実質的なチェック機能を果たしていないという批判です。
2. 情報不足 裁判官の情報が一般市民に十分に伝わっていないという問題があります。判決文は専門的で理解が難しく、メディアでの報道も限定的です。
3. 関心の低さ 衆院選と同時実施のため、国民審査への関心が相対的に低くなりがちです。投票所でも「よく分からないまま」投票用紙を提出する人が多いのが実情です。
4. 制度設計の問題 白紙票が信任とカウントされる仕組みや、×だけを書く方式が分かりにくいという声もあります。より積極的に信任・不信任を表明できる制度への改革を求める意見もあります。
投票の際の注意点
国民審査で投票する際には、以下の点に注意しましょう:
1. ×以外の記号は無効 ○や△、名前の記入などは無効票となります。不信任の場合は必ず×を記入してください。
2. 全員に×をつけてもよい 全ての裁判官に×をつけることも、一人も×をつけないことも、どちらも有効な投票方法です。
3. 一部だけ×をつけてもよい 特定の裁判官だけに×をつけ、他は白紙にすることも可能です。
4. 投票は義務ではない 国民審査の投票用紙を白紙のまま投票箱に入れることも、投票しないことも認められています(ただし、投票しない場合も投票所には行く必要があります)。
まとめ
最高裁判所裁判官国民審査は、国民が司法に参加できる貴重な機会です。罷免された裁判官がこれまで一人もいないという事実は、制度の形骸化を示す一方で、国民が慎重に判断していることの表れとも言えます。
2026年2月8日の衆議院議員総選挙では、投票所で2枚目の投票用紙として国民審査の用紙が配られます。「よく分からないから白紙で」と済ませるのではなく、少しでも情報を集めて、自分なりの判断をすることが大切です。
完璧に理解することは難しくても、選挙公報を読む、気になる判決について調べるなど、できる範囲で判断材料を集める姿勢が、司法への国民参加を実質的なものにしていきます。
この機会に、日本の司法制度と最高裁判所の役割について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。あなたの一票が、日本の司法の未来を形作る一部となるのです。

