外国人問題連載④:法制度・在留資格の問題

制度

はじめに

前回は外国ルーツの子どもたちの教育問題について取り上げましたが、教育を含むすべての社会活動の基盤となるのが法制度と在留資格です。日本に滞在する外国人は、在留資格によって就労や生活のあらゆる側面が規定されており、その制度設計が外国人の人権や生活の質を大きく左右しています。

2024年末時点で約377万人の外国人が日本に在留していますが、その在留資格は30種類以上に細分化され、それぞれに厳格な制限が課されています。特に問題視されているのが、転職の自由が制限される技能実習制度や、家族帯同が認められない在留資格の存在です。さらに、難民認定率の低さや、入管施設での人権侵害など、国際社会から厳しい批判を受ける問題も山積しています。

本記事では、日本の在留資格制度の実態をデータとともに検証し、諸外国との比較を通じて、より人権に配慮した制度への改革の道筋を提案します。

データ・統計から見る現状

複雑化する在留資格制度

日本の在留資格は30種類以上に細分化されており、2024年末時点で初めて「専門的・技術的分野の在留資格」(約72万人)が「身分に基づく在留資格」を上回り最多となりました。主な在留資格別では、永住者約88万人、技能実習約42万人、技術・人文知識・国際業務約37万人、留学約35万人、特定技能約21万人となっています。

技能実習制度の構造的問題

技能実習制度は建前上「技能移転による国際貢献」を目的としていますが、実態は人手不足産業への労働力供給システムとして機能してきました。2024年10月時点で約42万人が技能実習生として在留していますが、深刻な問題を抱えています。

転職の制限 技能実習生は原則として受け入れ企業の変更ができません。劣悪な労働環境や賃金未払いがあっても転職できないため、2024年も数千人規模の失踪者が発生しています。失踪の主な理由は「低賃金」「労働時間の長さ」「暴力・ハラスメント」です。

人権侵害の多発

労働基準監督署による監督指導では、技能実習実施機関の約7割で労働基準関係法令違反が確認されています。違反内容は労働時間、割増賃金の不払い、安全基準違反など多岐にわたります。

育成就労制度への移行 政府は2027年4月頃に技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」へ移行する方針を決定しました。新制度では一定条件下での転職が認められる予定ですが、依然として制限は残り、抜本的な改革には至っていないという批判もあります。

難民認定の極端な低さ

日本の難民認定率は主要先進国の中で突出して低く、国際的な批判の対象となっています。

主要国の難民認定率(2023年)

  • ドイツ:約45%
  • カナダ:約62%
  • アメリカ:約32%
  • イギリス:約75%
  • 日本:約0.7%

2023年に日本で難民認定を申請した人は3,523人でしたが、認定されたのはわずか303人で、認定率は約0.7%でした。前年から若干改善したものの、依然として極めて低い水準です。

難民認定の平均審査期間は数年に及び、その間申請者は不安定な地位に置かれます。就労が制限される場合もあり、経済的困窮に陥るケースが少なくありません。

入管施設での人権問題

在留資格のない外国人は入管施設に収容されますが、収容期間の上限がないため、数年にわたる長期収容が常態化しています。2021年にはスリランカ人女性が名古屋入管施設で死亡する事件が発生し、医療体制の不備や人権への配慮の欠如が大きな問題となりました。

国連の恣意的拘禁作業部会は、日本の入管収容について「期限のない収容は恣意的拘禁に該当する」として、繰り返し改善を勧告しています。

退去強制令書が発付されたにもかかわらず送還を拒否する「送還忌避者」は2024年時点で約4,200人に上ります。2023年に成立した改正入管法では、難民申請中でも3回目以降は送還が可能になるなど、より厳格な運用が可能となりましたが、本来保護されるべき人々が送還されるリスクが高まったという批判もあります。

家族帯同の制限

在留資格によって家族帯同の可否が大きく異なります。「技術・人文知識・国際業務」など高度人材向けの在留資格では家族帯同が認められる一方、技能実習や特定技能1号では原則として認められていません。家族と離れて暮らすことを強いられることは、基本的人権の観点から問題があります。

諸外国の状況と比較

カナダ:人道的配慮と柔軟な制度

カナダは毎年の移民受け入れ計画を国会で議論し、国民に公開しています。2024年の計画では年間約50万人の移民を受け入れる目標が設定されました。

ポイント制による公正な選考 経済移民については、学歴、職歴、語学能力などをポイント化し、客観的な基準で選考する「エクスプレス・エントリー」システムを採用しています。基準を満たせば国籍に関わらず公平にチャンスがあります。

難民保護の積極性

2023年の難民認定率は約62%に達し、政府支援難民プログラムと民間スポンサーシッププログラムの両方で市民社会も難民受け入れに関与しています。

永住権取得の道筋 一定期間就労すれば永住権を申請でき、さらに市民権(国籍)取得への道も開かれています。最初から「定住」を前提とした制度設計により、社会統合が促進されています。

ドイツ:人権重視と統合政策

ドイツはEU共通の難民政策に基づき、国際保護が必要な人々を積極的に受け入れています。2015年のシリア難民危機では約100万人を受け入れ、2023年の難民認定率は約45%です。

統合コースの提供 移民には無料でドイツ語コースと社会統合コースを提供し、言語習得と社会への適応を支援しています。

労働市場へのアクセス 難民認定申請者も一定期間後には就労が認められ、経済的自立を促進しています。外国人労働者にもドイツ人と同様の労働法上の権利が保障されています。

家族統合の尊重 家族統合は基本的人権として位置づけられており、難民認定者や労働移民には家族帯同が広く認められています。

オーストラリア:明確な制度設計

オーストラリアも移民にポイント制を採用し、経済のニーズに応じて受け入れを調整しています。不足している職業リストを明示し、該当する技能を持つ人材を優先的に受け入れる仕組みです。

一時滞在から永住へのパスウェイ 「一時滞在ビザ」→「永住ビザ」→「市民権」という段階的なパスウェイが明確に示されており、長期的な見通しを持って移住できます。

日本との決定的な違い

制度の透明性と予測可能性 カナダやオーストラリアでは、どのような条件を満たせば移民できるか、永住権を取得できるかが明確に示されています。日本では在留資格の更新や変更の基準が不透明で、予測可能性が低いという問題があります。

「一時的労働者」か「定住者」か 諸外国では最初から定住を前提とした制度設計がなされていますが、日本は「外国人は一時的な労働力」という前提に立っています。この根本的な姿勢の違いが、制度の随所に表れています。

難民保護の水準 日本の難民認定率約0.7%は、カナダ約62%、ドイツ約45%と比較して極端に低く、国際的な人権基準を満たしていないという批判があります。

今後予想される懸念

国際的な人材獲得競争での劣位

制度の不透明性、転職の制限、家族帯同の困難、永住への道筋の不明確さなどにより、優秀な人材が日本を選ばなくなるリスクが高まっています。韓国や台湾、シンガポールなどアジアの近隣諸国も積極的に外国人材を受け入れており、競争は激化しています。

技能実習制度における人権侵害や劣悪な労働環境の問題は、送り出し国でも広く知られるようになっており、日本での就労を希望する人が減少しているという報告もあります。

社会統合の遅れと分断の深刻化

短期的な在留資格や、更新の不透明性により、外国人は長期的な見通しを持てず、日本社会への統合意欲が低下します。「いつ帰国させられるかわからない」という不安定な状況では、日本語学習や地域コミュニティへの参加も進みません。

在留資格を失った外国人や、難民申請が却下された人々が「無権利状態」に陥り、地下に潜ることで、搾取や犯罪に巻き込まれるリスクが高まります。

人権侵害への国際的批判の強まり

国連人権理事会、国連恣意的拘禁作業部会、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など、複数の国際機関が日本の外国人政策について改善を勧告しています。主な指摘は以下の通りです。

  • 技能実習制度における強制労働的側面
  • 入管施設での長期収容と処遇の問題
  • 極端に低い難民認定率
  • 送還における人権配慮の不足

これらの問題が改善されなければ、国際的な評判が悪化し、日本の人権外交全体に悪影響を及ぼす可能性があります。また、人権尊重が企業の社会的責任として重視される中、サプライチェーンにおける人権侵害が問題視され、日本企業の評判にも悪影響が及ぶ懸念があります。

解決への提案

短期的施策:緊急の制度改善

育成就労制度の実効性確保 2027年に移行する「育成就労制度」において、転職の柔軟化を確実に実現すべきです。労働者の権利として転職の自由を明確に保障し、受け入れ企業への監督を強化し、労働基準法違反に対する罰則を厳格化する必要があります。

入管収容の期間制限 国連の勧告に従い、入管施設での収容に法定の期間上限を設けるべきです。また、医療アクセスの改善、外部からの面会の保障、不服申し立て制度の整備など、収容者の基本的人権を保障する体制を構築する必要があります。

難民審査の透明化と迅速化 難民認定の審査基準を明確化し、透明性を高めるべきです。また、数年にわたる審査期間を短縮し、その間の生活支援や就労許可のあり方も見直す必要があります。

中期的施策:制度の再設計

在留資格制度の簡素化 30種類以上に細分化された在留資格を整理・統合し、より分かりやすく柔軟な制度にすべきです。就労制限や家族帯同の可否などの条件を合理化し、不必要な差別をなくす必要があります。

永住権取得への明確なパスウェイ 一定期間(例えば5年)の適法な滞在と就労実績があれば、永住権を申請できる道筋を明確にすべきです。カナダやオーストラリアのように、永住への要件を透明化することで、外国人が長期的な見通しを持って日本で生活できるようになります。

家族統合権の保障 国際人権法が認める「家族統合権」を尊重し、より多くの在留資格で家族帯同を認めるべきです。家族と共に暮らすことは基本的人権であり、家族の存在が社会統合を促進することも研究で示されています。

長期的施策:パラダイムシフト

移民政策の基本法制定 日本には包括的な移民政策の基本法がありません。外国人の受け入れと統合に関する基本理念、国と自治体の責務、外国人の権利を明記した基本法を制定すべきです。この法律では、外国人を「一時的労働者」ではなく「社会の構成員」として位置づけ、受け入れの規模と分野を計画的に管理する仕組み、労働者としての権利と人間としての権利の両方を保障することを明確にすべきです。

難民保護制度の抜本的改革 国際的な基準に合致した難民保護制度を確立すべきです。難民該当性の判断基準を国際標準に合わせ、審査官の専門性を高め、不認定となった場合の補完的保護制度を拡充し、UNHCRとの連携を強化する必要があります。また、定住難民の受け入れ枠を拡大し、人道的責任を果たすべきです。

国民的議論の喚起 外国人政策は日本社会の在り方そのものに関わる重要な問題です。政府や専門家だけでなく、広く国民を巻き込んだ議論が必要です。メディアは外国人に関するネガティブな報道だけでなく、貢献や成功事例も積極的に伝え、学校教育や市民教育を通じて、多文化共生や人権の視点を育む取り組みを強化する必要があります。

まとめ

日本の法制度・在留資格の問題は、「外国人をどう位置づけるか」という根本的な問いに集約されます。現在の制度は「一時的な労働力」という前提に立っており、人間としての尊厳や権利への配慮が不十分です。

技能実習制度における人権侵害、世界最低水準の難民認定率、入管施設での長期収容、家族帯同の制限など、多くの問題が国際的な批判を招いています。これらは制度の「バグ」ではなく、「一時的労働力」として外国人を扱うという設計思想から必然的に生じる問題です。

カナダやドイツ、オーストラリアの事例が示すように、外国人を「社会の構成員」として位置づけ、明確なパスウェイと十分な権利保障を提供することで、社会統合を促進し、多様性を力に変えることができます。

日本も今こそ、制度の小手先の改善ではなく、根本的なパラダイムシフトを図るべき時です。移民政策の基本法を制定し、永住への道筋を明確にし、難民保護を国際基準に合わせ、家族の権利を尊重する。こうした改革は、外国人のためだけでなく、開かれた持続可能な日本社会を築くために不可欠なのです。

人口減少が進む中、外国人との共生は避けられない現実です。「選ばれる国」となるためには、魅力的な制度と人権尊重の姿勢を示さなければなりません。法制度の改革は、その第一歩となります。

次回は「差別・偏見・ヘイトの問題」について詳しく見ていきます。


参考資料

  • 出入国在留管理庁「在留外国人統計」(令和6年末)
  • 法務省「難民認定者数等について」(令和5年)
  • 厚生労働省「技能実習制度の運用に関する調査」
  • 国連人権理事会「日本に関する報告書」
  • UNHCR「Global Trends Report 2023」
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