はじめに:共生社会の理想と現実の狭間で
政府が検討している外国人政策の制度見直し案の全貌が明らかになりました。マイナンバーを活用した税・社会保険料の未納情報共有、民間医療保険への加入義務化の検討など、在留審査の大幅な厳格化が盛り込まれています。高市首相が掲げる「外国人との秩序ある共生社会の実現」に向けた具体策として、2025年1月に基本方針がまとめられる予定です。
この制度改革は、増加する在留外国人と日本社会の持続可能な共生を目指す一方で、管理強化による締め付けとの批判も予想されます。今回は、この複雑な政策パッケージの内容と、その背景にある課題、そして日本社会への影響について詳しく見ていきましょう。
制度見直しの全体像:5つの柱で構築する新管理体制
1. マイナンバー活用による情報一元化(2027年開始予定)
最も注目すべき改革は、出入国在留管理庁がマイナンバーシステムを通じて、国や地方自治体が管理する外国人の税・社会保険料情報を直接参照できるようになることです。これまで縦割り行政の弊害で困難だった情報共有が、デジタル庁のシステムを介して実現します。
滞納がある場合は在留資格の更新を認めないという明確な方針により、これまで見過ごされがちだった義務の履行が厳格に求められることになります。
2. 児童手当の不正受給防止(2027年以降)
日本国内に居住実態がない外国人による児童手当の不正受給を防ぐため、関係機関の情報共有ネットワークを整備します。自治体が出入国情報を把握することで、実態のない受給を防ぎ、制度の適正化を図ります。
3. 民間医療保険加入の義務化検討
訪日外国人の医療費不払いによる年間数億円規模の損失に対応するため、入国前の民間医療保険加入を求める制度の創設が検討されています。2024年12月から関係省庁での協議が始まる予定です。
4. 医療費不払い情報の基準引き下げ
入国審査で活用される医療費不払い情報の報告基準を、現行の20万円以上から1万円以上に大幅に引き下げます。これにより、小額の不払いでも次回入国時に影響する可能性が生じます。
5. 仮放免者情報のプッシュ型提供
収容施設から一時的に解放された仮放免者の情報を、自治体からの照会を待たずに積極的に提供する仕組みを構築します。逃亡や不法就労の防止が目的です。
制度改革の背景:なぜ今、厳格化なのか
増加する在留外国人と社会保障制度への影響
2024年6月末時点で、日本に在留する外国人は約341万人と過去最高を更新しています。労働力不足を背景に、特定技能制度の拡大など、外国人受け入れは今後も増加が見込まれます。
一方で、税や社会保険料の未納、医療費の不払い、社会保障制度の不正利用など、制度の隙間を突いた問題が顕在化しています。厚生労働省の調査では、外国人の国民健康保険料の納付率は日本人より10ポイント以上低いとされており、制度の持続可能性への懸念が高まっています。
国際的な管理強化の潮流
欧米諸国でも移民・外国人管理の強化が進んでいます。ドイツやフランスでは社会統合政策と管理強化を両輪で進めており、オランダでは語学要件の厳格化など、義務と権利のバランスを重視する政策にシフトしています。日本の今回の改革も、こうした国際的な潮流を意識したものと言えるでしょう。
地方自治体からの要請
外国人住民が多い自治体からは、情報共有の不足による行政サービスの非効率性や、不正受給への対応の困難さについて、改善を求める声が上がっていました。特に、出入国情報と住民登録情報の乖離により、実態把握が困難なケースが問題視されていました。
期待される効果と懸念される課題
ポジティブな効果
1. 公平性の確保 税や社会保険料を適正に納付している外国人と、そうでない外国人の間の不公平が是正され、真面目に義務を果たしている大多数の外国人にとってはプラスとなります。
2. 制度の持続可能性向上 社会保障制度への「ただ乗り」を防ぐことで、制度の持続可能性が高まり、結果的に正規に在留する外国人への行政サービスの質の向上につながる可能性があります。
3. 行政効率の改善 情報の一元化により、各機関での重複した手続きが削減され、行政コストの削減と迅速な対応が可能になります。
懸念される課題
1. プライバシーと監視社会化への懸念 マイナンバーを通じた広範な情報共有は、外国人のプライバシー侵害や過度な監視につながる恐れがあります。情報の目的外使用や漏洩のリスクも無視できません。
2. 真の共生社会からの乖離 管理強化に偏った政策は、外国人を「管理対象」として見る意識を強め、対等な市民としての共生を妨げる可能性があります。
3. 人材獲得競争での不利 世界的な人材獲得競争が激化する中、過度に厳格な管理体制は、優秀な外国人材の日本離れを加速させる恐れがあります。
4. 実務上の混乱 システム構築や運用面での課題、自治体の負担増加、在留外国人への周知不足など、実施段階での混乱が予想されます。
各界からの反応と議論のポイント
経済界の視点
人手不足に悩む経済界からは、必要な管理強化は理解しつつも、過度な厳格化による外国人材の確保への影響を懸念する声が上がっています。特に、優秀な人材が他国を選択するリスクについて警鐘を鳴らしています。
外国人支援団体の指摘
外国人支援を行うNPOなどからは、言語の壁や制度理解の不足により、意図せず未納となるケースへの配慮不足を指摘する声があります。管理強化の前に、多言語での情報提供や相談体制の充実が必要との意見も出ています。
自治体の期待と不安
外国人住民を多く抱える自治体からは、情報共有への期待がある一方、システム導入コストや業務負担の増加への懸念も示されています。国からの十分な財政支援と人的支援が不可欠との声が上がっています。
真の共生社会実現への提言
1. 支援と管理のバランス
管理強化だけでなく、日本語教育の充実、多言語での行政サービス提供、外国人相談窓口の拡充など、支援策も同時に強化する必要があります。義務を課すなら、それを果たすための環境整備も不可欠です。
2. 段階的な導入と柔軟な運用
一律の厳格化ではなく、在留資格や滞在期間、これまでの納付実績などを考慮した柔軟な運用が求められます。特に、やむを得ない事情による一時的な未納と、悪質な滞納を区別する必要があります。
3. 透明性の確保と対話の促進
制度変更について、外国人コミュニティとの十分な対話を行い、理解と協力を得る努力が必要です。また、情報の取り扱いについて透明性を確保し、不当な差別や偏見を生まないよう配慮すべきです。
4. 成功事例の共有と改善
先行して取り組みを進める自治体の成功事例を共有し、全国的なベストプラクティスを確立することが重要です。また、問題が生じた場合は速やかに改善する柔軟性も必要です。
おわりに:共生社会の未来像を描く
今回の制度見直しは、増加する外国人と日本社会が持続可能な形で共生していくための重要な一歩となる可能性があります。しかし、管理強化だけでは真の共生社会は実現しません。
重要なのは、外国人を単なる労働力や管理対象としてではなく、共に社会を構成する一員として捉え、権利と義務のバランスを取りながら、相互理解と尊重に基づく関係を構築することです。
制度の厳格化は必要かもしれませんが、それと同時に、外国人が日本社会に溶け込み、活躍できる環境づくりも進めなければなりません。日本語教育、子どもの教育支援、差別や偏見の解消、キャリア形成の支援など、包括的な施策が求められています。
2025年1月の基本方針策定に向けて、政府には管理と支援、厳格さと寛容さのバランスを取った、真に「秩序ある共生社会」を実現する政策パッケージの構築を期待したいと思います。
この制度改革が、外国人と日本人が互いに尊重し合い、共に豊かな社会を築いていくための基盤となることを願いながら、今後の議論の推移を注視していく必要があるでしょう。

