2026年1月、チームみらいの安野貴博党首が資産報告書の株式保有数を大幅に修正する事態が発生しました。当初「68万4865株」と報告されていた数字が、実際には「3250株」だったというのです。この騒動を機に、国会議員の資産報告制度とは何なのか、何のために存在するのかを改めて理解しましょう。
何が起きたのか:安野党首の資産報告書修正
当初の報道
2026年1月5日、参議院は2025年7月の参院選で当選した125人の資産報告書を公開しました。この中で、チームみらいの安野貴博党首の資産は3億6098万円で、参院新人議員の中で3位となりました。
さらに注目を集めたのが、株式保有数です。時事通信の報道では、安野氏は以下の米国株を保有していると報じられました。
- アマゾン・ドット・コム 103,008株
- アルファベット(Google親会社) 277,718株
- エヌビディア 213,444株
- マイクロソフト 90,965株
合計:68万4865株
株式は銘柄と数のみを報告するため、時価評価額は資産総額に含まれていません。しかし、SNS上では「これらの株式を時価換算すると200億円を超えるのではないか」という指摘が相次ぎ、大きな話題となりました。
「2桁違う」と本人が指摘
報道が出た当日、安野氏は自身のX(旧Twitter)で以下のように投稿しました。
「安野貴博の資産報告に関してですが、株式の部分で報道で出ている数値と私の認識が2桁違うため、すぐに確認し必要があれば速やかに訂正の書類を提出したいと思います」
訂正内容
翌1月6日、安野氏は確認結果を公表し、正しい株式保有数を以下のように訂正しました。
- アマゾン・ドット・コム 440株
- アルファベット 1,440株
- エヌビディア 1,200株
- マイクロソフト 170株
合計:3,250株
安野氏は「原因は私が表を読み間違えてしまっていたことでした。たいへん失礼致しました」と謝罪し、正式な修正書類を提出する意向を示しました。
誤りの原因
1月7日に参議院事務局へ訂正願を提出し、1月8日の党首会見で詳細を説明しました。安野氏のnoteによると、株式数を記入すべき欄に、米ドルベースの時価評価額を誤って記載してしまったとのことです。
つまり、当初報告された数字(103,008、277,718など)は株数ではなく、ドル建ての評価額だったということです。
修正後の資産額
訂正後の株式の時価総額は約1億3000万円(2026年1月時点のレートで換算)となります。安野氏によると、公開対象となる資産の全体像は以下のとおりです。
- 貯金:約3,800万円
- 国債:約6,400万円
- 投資信託等:約2億5,900万円
- 株式:約1億円
合計:約5億円
国会議員の資産報告制度とは
では、そもそも国会議員はなぜ資産を報告し、公開しなければならないのでしょうか。
制度の成り立ち
制度の正式名称: 「政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律」(国会議員資産公開法)
成立の経緯:
- 1980年代:ロッキード事件、リクルート事件などの大規模汚職事件が相次いで発生
- 1992年12月:国会議員資産公開法が成立
- 1993年1月:法律施行
- 1993年6月:国会議員の資産が初めて公開
制度の目的
法律第1条には、制度の目的が明確に記されています。
「国会議員の資産の状況等を国民の不断の監視と批判の下におくため、国会議員の資産等を公開する措置を講ずること等により、政治倫理の確立を期し、もって民主政治の健全な発達に資することを目的とする」
つまり、「政治とカネ」の問題を防ぎ、国民の政治不信を解消するために、国会議員の資産を透明化し、国民がチェックできるようにする制度なのです。
リクルート事件とは
制度創設のきっかけとなった「リクルート事件」は、戦後最大級の贈収賄事件と言われています。
- リクルート関連会社の未公開株が、政治家や官僚にばらまかれた
- 値上がりが確実な未公開株を譲渡することで、事実上の賄賂を渡した
- 竹下登首相(当時)が辞任に追い込まれるなど、政界を大きく揺るがした
この事件を受けて、「国会議員がどのような資産を持っているのかを、国民が監視できるようにすべきだ」という声が高まり、資産公開法が成立しました。
何を報告するのか
国会議員は、以下の3種類の報告書を提出する義務があります。
1. 資産等報告書
提出タイミング:
- 議員当選時(任期開始日から100日以内)
報告対象: 任期開始日時点で保有する以下の資産
- 土地:所在、面積、固定資産税の課税標準額
- 建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権
- 建物:所在、床面積、固定資産税の課税標準額
- 預金及び貯金:金融機関の名称、金額(ただし当座預金・普通預金は対象外)
- 有価証券:
- 国債・地方債・社債:種類、額面金額の総額
- 株券:銘柄と株数のみ(時価評価額は報告しない)
- 金銭信託:金額
- 自動車・船舶・航空機・美術工芸品:種類、数量、取得価額
- ゴルフ場の利用に関する権利:ゴルフ場の名称、数量、取得価額
- 貸付金:金額
- 借入金:金額
重要な制限:
- 普通預金・当座預金は対象外
- 家族名義の資産は対象外
- 株式は銘柄と株数のみ、時価評価額は報告しない
- 株式の対象は、資本金1億円以上の株式会社、または上場企業の株式のみ
2. 資産等補充報告書
提出タイミング:
- 毎年4月中
報告対象:
- 任期開始日後、前年中に新たに有することとなった資産等のうち、12月31日時点で保有する資産等
3. 所得等報告書
提出タイミング:
- 毎年4月中
報告対象:
- 前年1年間の給与所得など総所得金額等(100万円を超える場合は金額と基因となった事実)
4. 関連会社等報告書
提出タイミング:
- 毎年4月中
報告対象:
- 毎年4月1日時点で報酬を得て就任している会社・団体の名称、住所、職名
報告書の保存と公開
保存期間
提出された報告書は、7年間保存されます。
誰でも閲覧可能
「何人も」議長に対して閲覧を請求できます。つまり、国民なら誰でも、国会議員の資産報告書を閲覧できるのです。
閲覧場所:
- 参議院議員会館地下2階 資産等報告書等閲覧室(資産公開室)
訂正の手続き
報告書に誤りがあった場合、議長に訂正願を提出します。訂正部分は視認できるよう字体を残すなど厳格に取り扱われます。今回の安野氏のケースも、この手続きに従って訂正が行われました。
罰則はない
重要な点ですが、未報告や虚偽報告について法律上の罰則はありません。ただし、場合によっては政治倫理審査会において審査の対象となることがあります。
制度の問題点
資産公開法は成立から30年以上が経過していますが、制度の不備が指摘されています。
1. 普通預金が対象外
最も大きな問題は、普通預金・当座預金が報告対象外であることです。現代では、多くの人が普通預金口座に資産を置いているため、実態を把握できません。
実際、2022年の参院選では、当選議員の7割近くが預貯金を「ゼロ」と届け出ました。これは、定期預金などを持っていないというだけで、普通預金には多額の資産がある可能性があります。
2. 家族名義の資産が対象外
配偶者や子どもの名義にすれば、資産公開の対象外となります。これでは、資産隠しが可能になってしまいます。
3. 株式は時価評価額を報告しない
株式については、銘柄と株数のみを報告し、時価評価額は報告しません。そのため、今回の安野氏のケースのように、「68万株」と聞くと「200億円超では?」と憶測を呼ぶことになります。
実際、株価は日々変動するため、報告時点での時価評価額を記載することは難しい面もあります。しかし、少なくとも報告時点での概算額を示すことで、より透明性が高まるという指摘もあります。
4. 非上場株式は対象外の場合がある
資本金1億円未満の非上場株式は報告対象外です。これを利用した資産隠しも可能になります。
今回の事例から学べること
安野氏の対応の特徴
今回の安野氏の対応には、以下の特徴がありました。
1. 迅速な確認と訂正:
- 報道当日に「2桁違う」と指摘
- 翌日に訂正内容を公表
- 1週間以内に正式な訂正願を提出
2. 透明性の高い説明:
- 党首会見で詳細を説明
- noteで誤りの原因(ドルベースの評価額を株数として記入)を明示
- 資産の全体像(約5億円)も公開
3. 「政治とカネ」の透明化を掲げる党としての姿勢:
- チームみらいは「みらい まる見え政治資金」というツールを開発し、政治資金の流れをリアルタイムで公開
- 「政治とカネ問題を終わらせる」を公約に掲げている
- 今回の誤りは皮肉にも、その透明性重視の姿勢と矛盾する結果となった
「表の読み間違え」は防げたか
安野氏は「表を読み間違えた」と説明していますが、これは以下のような背景があったと考えられます。
- 証券会社の口座明細などでは、株数と評価額が並んで表示されることが多い
- 米国株の場合、ドル建てで表示されるため、さらに複雑
- 報告書の記入欄が分かりにくかった可能性
とはいえ、数億円規模の資産を持つ国会議員として、報告書の記入には細心の注意を払うべきだったという批判は免れません。
「気合いの2000万円」との整合性
参院選の際、安野氏は「気合いの2000万円は私が出します」と自己資金を投入したことを強調していました。配偶者の黒岩さんも「安野も、私との将来のために貯めてくれていた2000万円をすべて投じました」とXで語っていました。
しかし、資産が約5億円あるなら、「2000万円が将来のための貯蓄のすべて」というのは整合性がないのではないか、という疑問の声が一部で上がりました。
安野氏は党首会見で、「2000万円という金額は自分のリスク性向に鑑みて捻出できる限界の金額であり、本心からの言葉だった。配偶者は株式など私の資産の全体像を把握していなかった」と説明しています。
資産報告制度の今後
より厳格な制度への見直しが必要
「政治とカネ」の問題は、現在も後を絶ちません。2023年には岸田内閣の閣僚2人が辞任し、元衆院議員が略式起訴されるなど、国民の政治不信は根深いものがあります。
資産公開法は成立から30年以上が経過しており、以下のような見直しが求められています。
1. 普通預金も報告対象に:
- 現代の実態に合わせ、普通預金・当座預金も報告対象とすべき
2. 家族名義の資産も対象に:
- 配偶者や扶養する子どもの資産も報告対象とすべき(現在、閣僚については実施済み)
3. 株式の時価評価額も報告:
- 報告時点での時価評価額(概算)も記載すべき
4. 虚偽報告への罰則導入:
- 現在は罰則がないため、虚偽報告へのペナルティを設けるべき
5. デジタル化の推進:
- 報告書の作成・提出・公開をデジタル化し、記入ミスを防ぐとともに、国民が容易に閲覧できるようにすべき
チームみらいの取り組み
皮肉なことに、今回誤りを起こした安野氏率いるチームみらいは、「政治とカネ」の透明化に最も積極的に取り組んでいる政党の一つです。
「みらい まる見え政治資金」:
- 政治資金の収支をリアルタイムで可視化するツール
- 銀行口座やクレジットカードのデータを会計ソフトと自動連携
- 従来の政治資金収支報告書では公開まで1年弱のタイムラグがあったが、このツールを使えばいつでも公開可能
- オープンソースで公開し、他の政党や議員も利用可能
このようなテクノロジーを活用した透明化の取り組みは、今後の「政治とカネ」問題の解決に向けた一つのモデルケースとなる可能性があります。
おわりに
今回のチームみらい・安野党首の資産報告書修正問題は、「表の読み間違え」という単純なミスでしたが、国会議員の資産報告制度がどのようなものか、なぜ存在するのかを改めて考える機会となりました。
資産報告制度の本質は、国会議員の資産を国民の監視下に置くことで、「政治とカネ」の問題を防ぎ、政治倫理を確立することにあります。
しかし、制度には多くの不備があり、実態を十分に把握できないという指摘が根強くあります。普通預金が対象外、家族名義の資産が対象外、株式は時価評価額を報告しないなど、「抜け穴」が多いのが現状です。
一方で、チームみらいのように、テクノロジーを活用して政治資金をリアルタイムで可視化する取り組みも始まっています。
30年以上前に作られた制度を、現代に合わせてアップデートする時期に来ているのではないでしょうか。 デジタル化、普通預金の報告義務化、家族名義資産の対象化、虚偽報告への罰則導入など、国民の信頼を取り戻すための制度改革が求められています。
国会議員の資産公開は、民主主義の根幹に関わる重要な制度です。今回の騒動を教訓に、より透明性の高い、国民が信頼できる制度へと進化していくことを期待したいと思います。

