2025年2月、政府は第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。2040年度の電源構成として再生可能エネルギーを4〜5割程度、原子力を2割程度とする目標が示されている。福島第一原発事故以降掲げられてきた「可能な限り原発依存度を低減する」との文言は削除され、再エネと原子力をともに「最大限活用」する方針が明確になった。
電力需要増加という課題
計画策定の背景には、電力需要の増加見通しがある。生成AIの普及に伴うデータセンター建設や半導体工場の新増設により、国内の電力需要は20年ぶりに増加に転じる見込みだ。2040年度に必要な発電電力量は2023年度比で最大約1.2倍に達すると推計されている。
電力需要増加に対応しつつ、2050年カーボンニュートラルも実現しなければならない。脱炭素電源である再エネと原子力の両方を最大限活用する以外にない、というのが政府の判断だ。
再エネ:初めて最大電源に
第7次計画では、再エネが初めて最大の電源として位置づけられた。2023年度実績22.9%から、2040年度には4〜5割程度へ倍増以上の拡大を目指す。内訳は太陽光23〜29%、水力8〜10%、バイオマス5〜6%、風力4〜8%、地熱1〜2%だ。
課題もある。日本の平地面積あたりの太陽光設備容量はすでに主要国の2倍以上に達し、適地は減少傾向だ。打開策として期待されるのがペロブスカイト太陽電池である。
2009年に日本で開発されたこの技術は、従来のシリコン型と比べて薄くて軽く、曲げることも可能。重量は約10分の1で、ビルの壁面や耐荷重の低い屋根にも導入できる。大阪・関西万博のバスターミナルには約250メートルにわたって設置され、世界最大規模の実装例となっている。政府は2040年までに20GW導入を目標に掲げている。
原発再稼働:柏崎刈羽が最終局面
原子力でも大きな動きがあった。11月、新潟県の花角英世知事が東京電力柏崎刈羽原発6号機の再稼働を容認すると表明。実現すれば、福島第一原発事故以来、東電の原発が稼働する初のケースとなる。
柏崎刈羽原発は総出力約821万kWと世界最大級。現在、日本で再稼働している原発は14基だが、東日本では女川原発2号機のみで西日本に集中している。政府は柏崎刈羽を足がかりに、東日本での再稼働を加速させたい考えだ。ただし県民意識調査では、「再稼働の条件は整っている」への同意は37%にとどまり、不同意が60%を占めた。
原発をめぐる賛否
方針転換には様々な意見がある。推進派は、原発が脱炭素電源で天候に左右されず安定発電できる点を強調する。データセンターのような24時間安定電力を必要とする需要にも合致するとされる。
一方、日本弁護士連合会は「原発回帰のエネルギー政策」と批判。日本が地震多発国であることや福島原発事故の被害を指摘し、脱炭素化は再エネで実現すべきだと主張している。高レベル放射性廃棄物の最終処分地が未決定という課題も残る。
エネルギー自給率向上の視点
再エネと原子力活用拡大には、エネルギー安全保障の観点も大きい。日本のエネルギー自給率は約15%と主要先進国で最低水準だが、2040年度には3〜4割程度への引き上げを目指す。
ロシアのウクライナ侵略や中東情勢の不安定化は、化石燃料の調達リスクを浮き彫りにした。国産電源の比率を高めることは、こうしたリスクへの備えでもある。
今後の課題
目標達成には課題が多い。再エネでは送電網整備や蓄電技術の進化が不可欠で、地域との共生も課題だ。原子力では安全性確保と地元理解の獲得が引き続き求められる。
エネルギー政策は国民生活や経済活動の根幹に関わる。再エネか原発かという二項対立ではなく、それぞれの特性を踏まえた最適なエネルギーミックスをどう実現するか、社会全体で議論を深めていく必要がある。

