住宅ローン減税、中古住宅向けを大幅拡充へ:借入限度額4500万円、控除期間13年に

制度

2025年12月10日、政府・与党が住宅ローン減税について、中古住宅への適用条件を大幅に拡充する方針で最終調整に入ったことが報じられた。現行制度では新築と中古で大きな差があった借入限度額と控除期間を、新築並みの水準に引き上げる内容となっている。中古住宅市場の活性化という長年の政策課題に向けた、画期的な一歩といえるだろう。

改正の概要:新築との格差解消へ

今回の改正案のポイントは大きく2つある。

第一に、中古住宅の借入限度額の引き上げだ。現行制度では、中古住宅の借入限度額は最高3000万円(省エネ性能の高い住宅の場合)とされているが、これを最高4500万円まで引き上げる方向で調整が進んでいる。省エネ性能によって細分化されている限度額の体系は維持されると見られるが、いずれの区分においても新築住宅と同水準への引き上げが検討されている。

第二に、控除期間の延長である。現行制度では、新築住宅の控除期間が13年間であるのに対し、中古住宅は10年間にとどまっていた。今回の改正では、この控除期間も新築と同じ13年間に延長する方針だ。

これらが実現すれば、中古住宅購入者が受けられる減税効果は大幅に拡大することになる。

住宅ローン減税の仕組みをおさらい

住宅ローン減税(正式名称:住宅借入金等特別控除)は、住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、年末のローン残高に応じて所得税や住民税が軽減される制度である。

現行制度の骨格は以下の通りだ。

控除率は借入残高の0.7%で、これは新築・中古ともに同じである。たとえば年末時点のローン残高が3000万円であれば、3000万円×0.7%=21万円が控除額の上限となる。この金額がまず所得税から差し引かれ、引ききれない場合は住民税からも控除される(住民税からの控除は年間9万7500円が上限)。

ただし、借入限度額という上限があり、これを超えるローン残高があっても、限度額までしか控除の計算対象にならない。この限度額が住宅の種類や省エネ性能によって異なり、また新築と中古で差が設けられてきた。

現行制度における新築と中古の格差

現行の住宅ローン減税制度(2024年・2025年入居の場合)では、新築住宅と中古住宅の間に以下のような格差が存在する。

新築住宅(子育て世帯・若者夫婦世帯の場合)の借入限度額は、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅で5000万円、ZEH水準省エネ住宅で4500万円、省エネ基準適合住宅で4000万円となっている。控除期間は13年間だ。

一方、中古住宅の借入限度額は、長期優良住宅等やZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅で3000万円、その他の住宅で2000万円にとどまる。控除期間も10年間と短い。

この差は減税効果に大きく影響する。たとえばZEH水準の住宅を購入した場合、新築なら最大で年間31.5万円(4500万円×0.7%)×13年=約409万円の控除が受けられる可能性があるのに対し、中古では年間21万円(3000万円×0.7%)×10年=210万円にとどまる。その差は約200万円にもなる。

今回の改正は、この格差を解消しようとするものだ。

なぜ今、中古住宅への支援を拡充するのか

政府が中古住宅向けの住宅ローン減税を拡充する背景には、いくつかの政策課題がある。

まず挙げられるのが、中古住宅市場の活性化である。国土交通省によれば、日本の全住宅流通量に占める中古住宅のシェアは約14.7%(2013年時点)にとどまり、欧米諸国の6分の1程度という低水準だ。アメリカやイギリスでは住宅取引の8割以上が中古住宅であることを考えると、日本の中古住宅市場はまだまだ発展の余地がある。

この背景には、日本では木造住宅の場合、築20〜25年で建物の価値がほぼゼロと評価される慣行があり、中古住宅に対する消費者の不安感が根強いことがある。しかし、適切にメンテナンスされた住宅は長く使えるものであり、「いいものを作って、きちんと手入れして、長く使う」という考え方への転換が求められている。

次に、深刻化する空き家問題への対応がある。総務省の調査によれば、2018年時点で国内の空き家は約849万戸に達し、住宅総数に占める割合は13.6%と過去最高を記録した。2038年には2303万戸にまで増加するとの推計もある。

空き家が増え続ける一方で新築住宅が建設され続ければ、都市の郊外への無秩序な拡大や中心市街地の空洞化を招く。既存の住宅ストックを有効活用し、中古住宅の流通を促進することは、持続可能なまちづくりの観点からも重要だ。

さらに、住宅価格の高騰という現実的な問題もある。建築資材価格や人件費の上昇により、新築住宅の価格は近年大幅に上昇している。首都圏の新築マンション平均価格は6000万円を超え、一般的な世帯にとって新築住宅の取得は年々難しくなっている。

こうした状況下で、新築より価格が抑えられる中古住宅は、住宅取得の有力な選択肢となりうる。しかし、税制上の優遇措置で新築が有利な状況が続けば、消費者の選択を歪めることになる。中古住宅への支援拡充は、消費者の選択の幅を広げ、住宅市場全体の健全な発展に寄与するものといえる。

省エネ住宅への誘導という側面も

今回の改正を含め、近年の住宅ローン減税制度には、省エネ性能の高い住宅への誘導という政策目的も込められている。

2024年以降、新築住宅については省エネ基準への適合が住宅ローン減税の必須要件となった。省エネ基準を満たさない「その他の住宅」は、原則として住宅ローン減税の対象外となっている。

中古住宅については現時点で省エネ基準適合が必須とはされていないが、省エネ性能の高い住宅ほど借入限度額が高く設定されており、省エネ住宅を選ぶインセンティブが設けられている。

これは、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、住宅分野でのエネルギー消費削減を進めるという政府の方針に沿ったものだ。日本のエネルギー消費量の約3割を建築物分野が占めるとされており、省エネ性能の高い住宅の普及は気候変動対策としても重要な意味を持つ。

中古住宅向けの住宅ローン減税が拡充されれば、省エネリフォームを施した中古住宅(いわゆる買取再販住宅)の魅力が高まり、既存住宅の省エネ化を促す効果も期待できる。

制度の詳細は今後の議論次第

今回報じられた内容はあくまで「最終調整中」の段階であり、具体的な制度設計は今後の与党税制調査会での議論を経て決定される。

現行の住宅ローン減税制度は2025年12月末までの入居が適用期限となっており、2026年以降の制度については延長を含めて議論が行われてきた。政府・与党は制度を5年間延長する方針を示しており、今回の中古住宅向け拡充もその一環として検討されているものと見られる。

また、子育て世帯・若者夫婦世帯への優遇措置がどのように扱われるか、床面積要件の緩和(現行50㎡以上を40㎡台まで緩和する案が検討されている)がどうなるかなど、詳細については今後の発表を待つ必要がある。

住宅購入を検討している方は、12月下旬に公表される予定の与党税制改正大綱の内容に注目しておくとよいだろう。

住宅購入検討者へのアドバイス

最後に、住宅購入を検討している方に向けていくつかのポイントを整理しておきたい。

第一に、制度改正を待つかどうかの判断は慎重に行う必要がある。中古住宅向けの減税拡充が実現すれば恩恵は大きいが、住宅ローン金利の動向や物件価格の変動なども考慮すべき要素だ。総合的な判断が求められる。

第二に、住宅ローン減税は住宅購入の一要素に過ぎないことを忘れてはならない。減税効果だけでなく、立地や間取り、建物の状態、将来の資産価値なども含めて判断することが重要だ。

第三に、中古住宅を検討する場合は、建物の状態を専門家に確認してもらうことをお勧めする。「インスペクション(建物状況調査)」と呼ばれるサービスを利用すれば、購入前に建物の劣化状況や不具合の有無を把握できる。

住宅は人生最大の買い物の一つである。制度の変更に右往左往するのではなく、長期的な視点で自分に合った住まいを選ぶことが大切だ。

まとめ

政府・与党が検討している住宅ローン減税の中古住宅向け拡充は、借入限度額の引き上げと控除期間の延長という2つの柱から成る。これが実現すれば、中古住宅購入者の税負担は大幅に軽減され、新築との格差が解消に向かうことになる。

背景には、中古住宅市場の活性化、空き家問題への対応、住宅価格高騰への対策といった複合的な政策課題がある。また、省エネ住宅への誘導という気候変動対策の側面も持つ。

具体的な制度内容は今後の与党税制調査会での議論を経て決定される。住宅購入を検討している方は、年末に公表される税制改正大綱の内容に注目しつつ、総合的な視点で判断することが求められる。

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