事件の概要――就任直後に発覚した「当選祝い」
2026年2月、就任からわずか数日しか経っていない高市早苗首相をめぐり、早くも「政治とカネ」問題が浮上した。
高市首相の事務所関係者が、2月8日に投開票された衆議院議員選挙で当選した自民党議員に対し、当選祝い名目で数万円相当のカタログギフトを配布していたことが判明した。カタログギフトはのし袋に入れられており、「お祝い 高市早苗」と記載されていたという。
高市首相の事務所関係者が自民議員の事務所を個別に訪れ渡したという。初当選した新人議員のほか、元職からの返り咲きや連続当選を果たした議員にも配られていたと取材で判明。包装紙には「御祝 高市早苗」と書かれ、約3万円相当のものがあった。
高市氏を除く自民の全当選者は追加公認を含め315人。総額が数百万円に上る可能性がある。
この報道を受け、高市首相は2月24日夜、自身のX(旧ツイッター)を更新し、事実を認める投稿を行った。
高市首相の説明
高市首相はXへの投稿で「自民党衆議院議員の全員宛に、今回の大変厳しい選挙を経て当選したことへの労いの気持ちも込め、今後の議員としての活動に役立てていただきたいと考え、奈良県第二選挙区支部として、品物を寄付させていただいた」と説明した。また、カタログギフトの形を取ったことについては「議員としての活動に役立つものをと思いましたが、一人一人に適当な品物を選ぶ時間もなく、事務所での応接や会議、日常業務に使えるものなど、政治活動に役立つものを各議員のご判断で選んでいただこうと思った」とした。さらに「今回の支出には、政党交付金は一切使用することはありません」と強調した。
つまり高市首相の説明をまとめると、①個人としてではなく政党支部(奈良県第二選挙区支部)からの寄付である、②政党交付金は使っていない、③目的は議員活動へのねぎらいと支援である――という3点になる。
しかし、この説明に対して野党や党内からは批判や懸念の声が上がっており、国会での追及は必至の状況だ。
法律上の問題点――グレーゾーンの構造
政治資金規正法との関係
今回の問題を考えるうえで、政治資金規正法の理解が欠かせない。
政治資金規正法は「何人も公職の候補者の政治活動に関して寄付をしてはならない」と規定している。一方、支部を含む政党から公職の候補者への物品による寄付は認められている。
ここが今回の問題の核心だ。高市首相は「政党支部からの寄付」と説明しているが、実際の配布を行ったのは高市首相の「事務所関係者」であり、その支部の支部長は高市首相本人だ。
日大の岩井奉信名誉教授は「石破氏が配布した商品券は有価証券にあたるが、カタログギフトは明確にそうとは言い切れない曖昧なラインだ」と話している。
商品券と異なり、カタログギフトは「有価証券」には該当しない可能性があり、政治資金規正法上の「金銭・有価証券による寄付」という禁止規定に直ちに抵触するかどうかは法的に微妙な判断となる。ただし、「配布の趣旨が政治活動に関するものかどうか」が違法性を左右する。私的なねぎらいなら対象外、政治活動目的なら違反という解釈の綱引きが続いている。
高市首相が自ら「議員としての活動に役立てていただきたい」「政治活動に役立つものを」と説明していること自体が、「政治活動目的」という解釈を招きかねないという指摘もある。
公職選挙法との関係
政治資金規正法に加えて、公職選挙法上の「寄附の禁止」規定との関係も問われる。公職選挙法は、政治家が選挙区内の人に対して金銭・物品などを寄附することを禁じている。ただし今回の配布先は全国各地の自民党議員であり、高市首相の選挙区内(奈良県)に限定されないため、この規定の直接適用には別途の検討が必要だ。
前例との比較――石破前首相の商品券問題
自民党では昨年3月、当時の石破茂首相が当選1回の衆議院議員側に、10万円分相当の商品券を配っていた問題が発覚。「政治とカネ」が問題となる中、大きな批判を受け、石破氏は謝罪する事態となった
石破総理(当時)は「社会通念上どうなんだいということにつきましては、それは世の中の方々の感覚というものと乖離をした部分が大きくあったということは、痛切に思っております。大変申し訳ございません」と謝罪した
そして石破前首相の商品券問題のわずか約1年後に、今度は高市新首相が同様の問題を起こした形となる。党内からは「あれだけ問題になったのに、なぜ同じことを繰り返すのか」との声が出ている。
今回と石破前首相の事案を比較すると、いくつかの相違点がある。石破氏は「個人」として配布し、商品券という有価証券を用いたため法的問題がより明確だった。高市首相の場合は「政党支部からの寄付」という形式を採り、カタログギフトという物品を使うことで法的グレーゾーンを意識した形跡がある。しかし配布の規模は大きく異なり、石破氏が1期生15人に各10万円だったのに対し、高市首相は全当選議員315人超に数万円ずつという点で、総額では今回の方が圧倒的に大きい可能性がある。
各方面の反応
野党の批判
中道の小川淳也代表はXを更新し「『高市総理よ、あなたもか』となりかねません。財源も含め厳しく説明責任が問われる新たな事態です」とコメントした。
野党は予算審議の場でこの問題を追及する構えを見せており、首相が3月末までの成立を目指す2026年度予算案の審議に影響を与える可能性がある。
自民党内からも批判
党内からは「あまりにも軽率だ」として「受け取りを拒否した」と話す議員もいる。
政府・自民党の内部からも、今回の行為が政治的に得策ではないという見方は広がっており、支持基盤にも亀裂が生じかねない状況だ。
政府高官は擁護
政府高官は議員間で贈答し合うのは一般的だと強調した。そのうえで「社会通念上問題なければいいのではないか」と訴えた。
問題の本質――法律論を超えた「感覚のずれ」
今回の問題は、法律に違反するかどうかという純粋な法的論点にとどまらない側面がある。
政治家が「当選祝い」として同僚議員に数万円のギフトを渡すことは、彼らの慣行の中では「ねぎらい」や「人心掌握」の一環かもしれない。しかし物価高に苦しむ一般市民の目線からすると、数百万円規模の「お祝い」を配れる立場と、その金銭感覚への違和感は大きい。
また「政党支部からの寄付」という法的形式を採ることで、個人としての禁止規定を回避しようとする構造は、「抜け道を使えばいい」という政治文化を象徴しているとも見える。石破前首相の商品券問題から学んだはずの教訓が、形式を変えた形で再び繰り返されたとすれば、自民党の「政治とカネ」に対する組織的な問題意識の欠如は深刻だ。
派閥裏金事件で「政治とカネ」への不信が強まる中、高市首相が就任直後にこの問題を起こしたことの政治的ダメージは、法的問題の有無にかかわらず小さくない。
今後の焦点
現時点での主な焦点は以下の3点だ。
第一に、財源の明確化だ。「政党交付金は使わない」とは説明したが、具体的な原資が何であるかは明示されていない。政治資金収支報告書でどのように処理されるかが注目される。
第二に、国会での答弁内容だ。野党が「政治活動目的の寄付ではないか」と追及した際に、高市首相がどのような説明を行うかが法的評価にも影響しうる。
第三に、予算審議への影響だ。2026年度予算案は3月末までの成立を目指しているが、この問題が長引けば審議日程にも影響が生じる可能性がある。
まとめ
高市首相のカタログギフト配布問題は、法的なグレーゾーンにある行為であり、現時点で明確な違法性が確定したわけではない。しかし、石破前首相の商品券問題から約1年という短期間で同種の問題が繰り返されたこと、派閥裏金事件への反省がまだ国民に浸透していないこと、就任直後という政治的タイミングの悪さが重なり、政権への打撃となる可能性は十分にある。
「法律に違反していないかどうか」という問いと「国民の感覚と乖離していないかどうか」という問いは、本来は別々に問われるべきものだ。政治家に求められるのは、法の最低限を守ることだけではなく、公正さと透明性への高い倫理観であるはずだ。この問題が、日本政治における「政治とカネ」の体質を変える契機になるかどうか、引き続き注視が必要だ。
本記事は2026年2月25日時点の報道情報に基づいています。今後、国会審議や捜査状況によって新たな事実が判明する可能性があります。
