宗教法人はなぜ非課税なのか――制度の仕組み、批判の論点、そして海外との比較

制度

「坊主丸儲け」という言葉がある。お布施には経費がかからないから、収入がそのまま利益になるという庶民感覚を表した表現だ。この言葉の背景には、宗教法人が税制上大きな優遇を受けているという事実がある。旧統一教会の問題をきっかけに宗教法人への課税のあり方が改めて注目されたが、そもそもなぜ宗教法人は非課税とされているのか。その理由は何で、どのような批判があるのか。さらに海外ではどのような制度になっているのか。本記事では、宗教法人の税制を多角的に解説する。

そもそも宗教法人とは何か

宗教法人とは、宗教法人法に基づいて法人格を取得した宗教団体のことだ。「宗教団体=宗教法人」ではない点は押さえておく必要がある。宗教活動そのものは個人でも行えるが、同じ信仰を持つ人々が集まり組織が形成されると、個人の財産とは区別された共有財産が生まれる。この財産を適切に管理・運営するために、個人とは別個の法人格が必要となる。これが宗教法人の存在意義だ。

宗教法人の設立には厳格な要件がある。礼拝施設などの財産を有していること、布教活動を行っていること、日常的に儀式行事を行っていること、信者の教化育成を行っていること、の四つの要件を満たさなければならない。設立申請時には3年程度の活動実績報告が求められ、認証まで実際に3年程度かかることが多い。つまり、宗教法人を設立すること自体が決して容易ではないのだ。

文化庁の統計によれば、日本には約18万の宗教法人が存在する。その大部分は地域の神社や寺院であり、大規模な宗教団体はごく一部に過ぎない。宗教法人と一口に言っても、その種類と規模は極めて多様だ。

宗教法人の種類と具体例

神社 — 最も数が多いのが神社系の宗教法人だ。全国約8万社の神社の大半が宗教法人格を持つ。伊勢神宮(神宮)、出雲大社、明治神宮のような大規模神社から、地域の氏神を祀る小さな村社まで幅広い。多くの神社は神社本庁という包括宗教法人に所属しているが、靖国神社や日光東照宮のように独立した単立宗教法人として運営されているものもある。

寺院 — 仏教系の宗教法人も約7万7千と神社に次ぐ規模だ。東大寺、金閣寺(鹿苑寺)、延暦寺といった歴史的名刹はもちろん、全国各地の檀家寺も宗教法人に該当する。宗派ごとに包括宗教法人が存在し、たとえば浄土真宗本願寺派(西本願寺)や曹洞宗(永平寺・總持寺)などが代表的だ。近年は檀家の減少や過疎化により、住職が不在となる寺院も増えており、すべての寺院が潤沢な財政基盤を持っているわけではない。

教会 — キリスト教系の宗教法人には、カトリック中央協議会(カトリック教会)、日本基督教団(プロテスタント系)、日本聖公会、日本正教会などがある。各地の教会堂が個別に宗教法人格を持つケースもあれば、教団全体として一つの宗教法人を構成しているケースもある。

新宗教(新興宗教) — 近代以降に成立した宗教団体も多くが宗教法人格を持っている。創価学会、天理教、大本、立正佼成会、PL教団などが代表例だ。これらの中には独自の教育機関や福祉施設、出版事業などを大規模に展開しているものもあり、その経済活動の規模は伝統的な神社仏閣とは大きく異なる。かつて社会問題を引き起こしたオウム真理教(現Aleph・ひかりの輪)は宗教法人格を取り消された事例として知られる。また旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に対しても、2023年に東京地裁が解散命令を出す決定をしている。

このように、宗教法人の実態は「地域に根ざした小さな神社」から「全国規模の組織を持つ新宗教」まで非常に幅広い。非課税制度を議論する際には、この多様性を踏まえた視点が不可欠である。

宗教法人が「非課税」とされる理由

「宗教法人は非課税」という表現は、厳密に言えば正確ではない。正しくは「宗教活動で得られる所得が非課税」なのであり、宗教法人が行うすべての活動が非課税というわけではない。この区別は非常に重要だ。

宗教法人は税法上「公益法人等」に分類されている。公益法人等が非課税とされる理由は、主に以下の論拠に基づいている。

第一に、公益性の観点がある。宗教法人は本来、国や自治体が担いきれない公益的な活動(心のケア、地域のコミュニティ形成、文化・歴史の維持など)を担っており、その社会的貢献に対して税制面で配慮するという考え方だ。

第二に、非営利性の観点がある。法人税は本来、法人が得た利益を出資者に配分する際の「所得税の前取り」として位置づけられる。宗教法人は営利を目的とせず、得た利益を関係者に配分することが予定されていないため、法人税の対象とする根拠が薄いという理論だ。

第三に、政教分離の原則がある。憲法が保障する信教の自由と政教分離の原則のもと、国家が宗教の「聖なる側面」に課税権を行使することは抑制されるべきだという憲法上の要請がある。課税を通じて国家が宗教活動に介入することへの慎重論は、歴史的にも根強い。

第四に、実務的な理由もある。宗教施設への固定資産税課税を実施すれば、京都や奈良、鎌倉の歴史的な神社仏閣にも課税されることになり、文化財保護の観点から大きな問題が生じるという現実的な懸念がある。

実際に非課税となる範囲と課税される範囲

宗教法人の非課税範囲を具体的に見てみよう。お賽銭、お布施、初穂料、献金などは「喜捨金」として非課税とされる。お守りやお札、おみくじの販売も、売価と仕入原価の差額が実質的に喜捨金と認められる場合は、収益事業に該当しないとされている。結婚式(神前結婚・仏前結婚)で受け取る金銭も宗教活動の一環として非課税だ。

一方で、宗教法人が法人税法上の「収益事業」に該当する34種類の事業を行った場合には、その所得に法人税が課される。たとえば、所有地を駐車場として運営する場合、絵はがきやキーホルダーなどを一般的な販売価格で販売する場合、境内施設を娯楽や会議のために貸し出す場合、茶道や書道の教室を開く場合などは課税対象となる。なお、宗教法人の法人税率は一般企業より低い23.2%ではなく、収益事業について19%(年800万円以下の部分は15%)が適用される。

ただし、この線引きには曖昧な部分が多い。おみくじは原価がほとんどかからないから代金は「喜捨金」であり非課税、一方で御朱印帳は相応の原価に基づく価格で販売されているから課税対象だ、という区分は一般の感覚からするとわかりにくい。宗教法人の税務では、こうした課税・非課税の境界線が常に問題になっている。

宗教法人の非課税制度に対する批判

宗教法人への税制優遇に対しては、さまざまな批判が存在する。

まず、課税の公平性に関する批判がある。国民が納税義務を負う中で、大規模な宗教法人が莫大な非課税の恩恵を受けていることへの不公平感は根強い。一例として、旧統一教会の渋谷の施設について試算すると、非課税がなければ土地・建物の固定資産税・都市計画税だけで年間1,440万円強が見込まれるとの専門家の概算がある。大規模宗教法人が全国に所有する不動産を考えれば、非課税による逸失税収は相当な規模に上るだろう。

次に、透明性の欠如に対する批判がある。宗教法人は収益事業を行わない限り確定申告の義務がなく、財務状況の公開も限定的だ。所轄庁(文部科学省または都道府県)への事業報告書の提出義務はあるが、その内容は一般に公開されるものではない。この不透明さが、資金の不正利用や脱税の温床になっているとの指摘がある。実際、宗教法人の源泉徴収漏れは後を絶たず、5年間で追徴税額が45億円を超えたという報道もあった。

さらに、制度の悪用に関する批判がある。実態のない「休眠宗教法人」が売買され、非課税メリットを目的とした法人格の取得が問題視されてきた。暴力団が脱税目的で休眠宗教法人を取得するケースも報告されている。宗教法人法が本来想定していない形での制度利用が横行しているのだ。

また、政治との関わりについての批判もある。非課税の恩恵を受けながら、特定の政党や政治家と密接な関係を持ち、実質的に政治活動を行っている宗教法人の存在は、政教分離の原則に反するのではないかという疑問がある。税制優遇の根拠の一つが政教分離であるにもかかわらず、その原則が実態として守られていないのであれば、非課税の正当性自体が揺らぐことになる。

海外ではどうなっているのか

宗教法人への課税制度は国によって大きく異なる。主要国の制度を概観してみよう。

アメリカは日本と同様に政教分離を原則としており、宗教団体の宗教活動そのものは非課税とされている。ただし、非課税の資格を得るためには内国歳入庁(IRS)による個別審査が必要であり、日本のように法人格を取得すれば自動的に非課税となる仕組みとは異なる。宗教団体が営む収益事業(UBIT:Unrelated Business Income Tax)には課税される点は日本と共通だが、審査過程での透明性確保の仕組みは日本より厳格だ。また、宗教団体への寄付は個人の所得税から控除できる仕組みがあり、間接的な公的支援と位置づけられている。

ドイツは「教会税」制度を持つことで知られる。キリスト教の教会員は所得税の8~9%を教会税として納付する義務があり、国が徴収を代行して教会に配分する。2023年の教会税収入は約130億ユーロ(約2兆円)にも上る。この制度は安定した財源確保と使途の透明性を実現している反面、税負担を避けるために教会を離脱する人が増加しており、社会の世俗化を加速させているとの批判もある。

イギリスでは宗教団体は「チャリティ(公益団体)」の一類型として位置づけられ、チャリティ委員会(Charity Commission)の監督を受ける。チャリティとして認定されれば所得税や法人税の免除を受けられるが、その代わりに財務情報の公開義務や公益性の継続的な審査を受ける必要がある。日本の宗教法人制度と比較すると、監督と透明性の面で大きな違いがある。

フランスは厳格な政教分離(ライシテ)を原則とし、1905年の政教分離法によって宗教団体への公的資金の投入は原則として禁止されている。宗教団体は「礼拝結社」として非営利法人の一形態に位置づけられ、宗教活動に関する収入は非課税とされるが、その範囲は比較的厳格に管理されている。

このように、各国の制度は歴史的・文化的背景によって多様だが、共通しているのは「宗教の自由と課税の公平性のバランスをどう取るか」という本質的な問いに向き合っているという点だ。

日本の宗教法人課税制度はどう変わるべきか

日本の宗教法人課税制度について、今後検討されるべき論点は複数ある。

一つは、財務の透明性の向上だ。イギリスのチャリティ制度のように、宗教法人の財務情報を一定程度公開する仕組みを設けることで、不正防止と社会的信頼の向上を図ることが考えられる。ただし、これは信教の自由への介入にならないか、慎重な制度設計が求められる。

もう一つは、規模に応じた課税の検討だ。青山学院大学学長の三木義一氏は、大規模な宗教法人は課税されても深刻な影響はないと指摘している。小規模な地域の神社仏閣と、巨額の資産を有する大規模宗教法人を同じ枠組みで扱うことの合理性は再検討の余地がある。

さらに、休眠宗教法人の整理や、宗教法人格の取得・維持要件の厳格化も重要な課題だ。現在約18万ある宗教法人のうち、実態のある活動を行っていない法人が相当数存在するとされており、制度の悪用を防ぐためにも定期的な実態確認の仕組みが必要だろう。

宗教が人々の精神的な支えとなり、地域社会の結びつきを維持する役割を担っていることは間違いない。その公益的な機能に対する税制上の配慮には十分な合理性がある。しかし同時に、制度が時代の変化に合わなくなっている部分があることもまた事実だ。宗教の自由を守りながら課税の公平性を確保するという難しいバランスについて、感情論に流されずに冷静に議論を進めていくことが求められている。

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