11月30日は「年金の日」──日本の年金制度を総点検する

制度

11月30日は「年金の日」です。この日は、国民一人ひとりが「ねんきん」について考え、「自分の年金記録」を確認する日として、厚生労働省が2014年に制定しました。「いい(11)みらい(30)」の語呂合わせにちなんでいます。

高齢化が急速に進む日本において、年金制度は私たちの老後生活を支える最も重要な社会保障制度の一つです。しかし、制度の持続可能性や給付水準の低下など、多くの課題も指摘されています。この機会に、日本の年金制度の現状と課題、そして今後の展望について考えてみましょう。

日本の年金制度の概略

三階建ての年金構造

日本の年金制度は「三階建て」の構造になっています。

一階部分:国民年金(基礎年金) 20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する基礎的な年金制度です。自営業者、学生、無職の方などが加入する第1号被保険者、会社員や公務員が加入する第2号被保険者、第2号被保険者に扶養される配偶者である第3号被保険者の3つに区分されます。2024年度の満額は年間816,000円(月額68,000円)となっています。

二階部分:厚生年金 会社員や公務員が加入する所得比例型の年金です。加入期間中の報酬額に応じて給付額が決まります。国民年金に上乗せされる形で支給されるため、厚生年金加入者は国民年金と厚生年金の両方を受け取ることができます。

三階部分:企業年金・個人年金など 企業が独自に設ける企業年金(確定給付企業年金、企業型確定拠出年金など)や、個人が任意で加入するiDeCo(個人型確定拠出年金)、国民年金基金などがあります。これらは公的年金を補完する私的年金として位置づけられています。

賦課方式による運営

日本の公的年金は「賦課方式」を基本としています。これは、現役世代が納める保険料を、そのまま現在の高齢者への年金給付に充てる仕組みです。ただし、将来の給付に備えるため、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が約200兆円規模の積立金を運用しており、部分的に積立方式の要素も取り入れています。

受給要件

老齢基礎年金を受け取るには、原則として10年以上の保険料納付期間(受給資格期間)が必要です。受給開始年齢は原則65歳ですが、60歳から75歳までの間で繰上げ・繰下げ受給が可能です。繰上げ受給すると給付額は減額され、繰下げ受給すると増額されます。

日本の年金制度が直面する課題

少子高齢化による財政圧迫

最も深刻な課題は、急速に進む少子高齢化です。1950年には現役世代(20~64歳)12.1人で高齢者(65歳以上)1人を支える構造でしたが、2020年には2.1人で1人を、2065年には1.3人で1人を支える見込みとなっています。この「支え手」の減少は、賦課方式を基本とする年金制度に大きな負担をもたらしています。

給付水準の低下

制度の持続可能性を確保するため、2004年の年金制度改革でマクロ経済スライドが導入されました。これは、現役人口の減少や平均余命の伸びに応じて年金給付額の伸びを自動的に抑制する仕組みです。その結果、所得代替率(現役世代の平均手取り収入に対する年金額の比率)は低下傾向にあり、2019年度の61.7%から、将来的には50%程度まで下がると見込まれています。

未納・未加入問題

国民年金第1号被保険者の保険料納付率は、近年改善傾向にあるものの、2022年度で76.1%にとどまっています。特に若年層や非正規雇用者の未納率が高く、将来の無年金・低年金者の増加が懸念されています。

世代間格差

現在の高齢者世代は、自分が納めた保険料以上の給付を受け取る一方、若年世代は納めた保険料よりも受け取る給付が少なくなると試算されており、世代間の公平性が問題視されています。厚生労働省の試算では、1940年生まれの世代は納付額の6.5倍の給付を受けるのに対し、2005年生まれの世代は2.3倍程度になると見込まれています。

女性の年金格差

専業主婦(第3号被保険者)は保険料負担なしで基礎年金を受け取れる一方、厚生年金に加入していないため、離婚や配偶者の死亡により経済的に困窮するケースがあります。また、非正規雇用の女性が多いことも、女性の年金額が男性に比べて低い要因となっています。

諸外国の年金制度との比較

スウェーデン:所得比例年金と最低保証年金

スウェーデンは、所得比例年金を中心とした制度を採用しています。保険料率は18.5%で、16%が賦課方式の所得年金、2.5%が積立方式のプレミアム年金に充てられます。給付額は納付実績に応じて決まり、低所得者には最低保証年金が支給されます。平均余命の変化に応じて自動的に給付額を調整する「自動安定化装置」を導入し、財政の持続可能性を確保しています。

ドイツ:ポイント制による公平性確保

ドイツの年金制度は、納付実績をポイントに換算して給付額を決定する仕組みです。保険料率は18.6%(労使折半)で、日本より高めです。受給開始年齢は段階的に67歳まで引き上げられています。また、子育て期間や介護期間にもポイントが付与され、非就労期間の年金権を保護する工夫がなされています。

アメリカ:社会保障税による運営

アメリカの公的年金(Social Security)は、社会保障税(給与の12.4%、労使折半)で運営されています。受給開始年齢は67歳(段階的引上げ中)で、早期受給は62歳から可能です。給付額は過去35年間の平均所得に基づいて計算されます。一方で、公的年金の所得代替率は40%程度と低く、401(k)など私的年金への依存度が高いのが特徴です。

イギリス:二層構造から新国家年金へ

イギリスは2016年に年金制度を大幅改革し、従来の基礎年金と所得比例年金の二層構造から、新国家年金(New State Pension)という単層構造に移行しました。35年間の加入で満額が支給され、受給開始年齢は段階的に68歳まで引き上げられる予定です。ただし、公的年金の給付水準は低く、企業年金への自動加入制度で私的年金の普及を図っています。

日本の特徴と課題

諸外国と比較した日本の年金制度の特徴として、基礎年金と厚生年金の二階建て構造、第3号被保険者制度の存在、比較的低い保険料率(厚生年金18.3%)などが挙げられます。一方で、所得代替率の低下速度が速いこと、受給開始年齢が65歳と他国より低いこと、私的年金の普及率が低いことなどが課題として指摘されています。

日本の年金制度の今後

受給開始年齢の引上げ議論

財政の持続可能性を高めるため、受給開始年齢の引上げが議論されています。現在は繰下げ受給が最大75歳まで可能ですが、原則受給開始年齢自体を68歳や70歳に引き上げる案も検討されています。ただし、肉体労働者や健康状態に不安のある人への配慮が必要との指摘もあります。

被用者保険の適用拡大

2022年10月から、従業員101人以上の企業でパートタイム労働者の厚生年金加入が義務化され、2024年10月からは51人以上の企業に拡大されました。今後さらに適用範囲を広げ、非正規雇用者の年金権を強化する方向性が示されています。これにより、女性や若年層の将来の年金額増加が期待されます。

第3号被保険者制度の見直し

専業主婦(第3号被保険者)が保険料負担なしで基礎年金を受け取れる現行制度は、働き方の多様化や共働き世帯の増加を背景に、公平性の観点から見直しが求められています。ただし、制度変更は多くの人に影響を及ぼすため、慎重な議論が必要とされています。

私的年金の充実

公的年金だけでは十分な老後生活を送ることが難しくなる中、iDeCoやNISA(少額投資非課税制度)など、私的年金や資産形成を促進する制度の拡充が進められています。2024年からは新NISA制度が始まり、投資枠が大幅に拡大されました。公的年金と私的年金を組み合わせた「多層的な老後保障」の構築が重要になっています。

デジタル化と利便性向上

マイナンバーカードと連携した「ねんきんネット」の機能強化や、スマートフォンアプリによる年金記録の確認など、デジタル技術を活用した利便性向上が進められています。また、AIを活用した年金相談サービスなど、新たなサービスの開発も期待されています。

国際化への対応

外国人労働者の増加に伴い、社会保障協定の拡充や、短期滞在者の年金制度への適切な対応が課題となっています。また、海外居住者の年金受給手続きの簡素化なども求められています。

まとめ:私たちにできること

年金制度の持続可能性を高めるには、制度改革とともに、一人ひとりの意識と行動が重要です。

まず、「ねんきん定期便」やねんきんネットで自分の年金記録を定期的に確認し、記録漏れがないかチェックしましょう。未納期間がある場合は、追納や後納制度の活用も検討できます。

次に、公的年金だけに頼らない老後資金の準備が必要です。iDeCoやNISAなどを活用した資産形成、企業年金への加入、そして健康寿命を延ばして長く働き続けることも有効な対策です。

11月30日の「年金の日」を機に、自分の年金について確認し、将来に備えた行動を始めてみてはいかがでしょうか。年金制度の未来は、私たち一人ひとりの選択と行動にかかっているのです。

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